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破れたお札は使えるか 【ポルトガル旅行 振り返り編10】

今回2度目のポルトガル旅行だったが、ポルトは初めて訪れた。
この街もまた、リスボンの旧市街並みにくねくねと入り組んでいて、
方向感覚には多少自信があった私でも、
スマホの地図アプリなしには歩けなかった。

たっぷり歩いたポルト滞在1日目、
夜ご飯を食べようと、ホテルの近くにある
大通りに面した小さなカフェに入った。
テラス席には私のような観光客もいたが、
店内では地元の人(多分)も食事をしていた。

私は4人掛けのテラス席に座った。
注文を終えてぼんやり周囲を見ていると、
エプロンを着けた1人の高齢女性が
私のテーブルに近づき、空いていた椅子を脇に引っ張っていくと、
そのまま座って注文をするでもなく堂々とくつろぎ始めた。
続いてもう一人、連れと思われる女性がやってきて、
同じように椅子を拝借し、エプロンの女性の隣に座った。
二人は二言三言、言葉を声を交わしたくらいで、
特にぺちゃくちゃおしゃべりに花を咲かせているわけではない。

そうこうするうちに、中年の男性がやって来て、
テラス席のテーブルの間をゆっくりと巡回し始めた。
これはもしやと思ったら、やはり物乞いだった。
エプロンの女性が物乞いの男性に何か声をかける。
「その観光客は見込みないよ」そんな言葉だったのかもしれない。
やがて物乞いの性はテーブルを離れていった。

勝手に空いている椅子を借りる行為や物乞いの行為は
この店では既に黙認されているようだった。
あるいは、わざわざ注意するほどでもない、
そこに住んでいる人々にとっては
些細な日常のひとこまなのかもしれない。

私は直接金銭をせびられたり、威嚇されたりはしなかったが、
自分のかばんに神経を集中させながら、ゆっくりと食事を終えた。

ポルトのドウロ川南岸をでたらめに歩いていたらこんな素敵な風景に出合った

前置きが長くなったが、本題はここから。
食事を終え支払いの段階になった。
クレジットカードは使えなさそうな雰囲気だったので、現金で支払う。
チップも取られずきっちりおつりが戻って来た。
見ると5ユーロ札にセロハンテープが貼られていた。
破れかけているのを補強するためなのだろう。

使い古されたお札を見るのは久しぶりだった。
日本は基本的にお札がきれいだし、
羽田空港で両替したユーロは新札だった。
セロハンテープ付きのお札を何も考えずに財布にしまったが、
ホテルに戻ってから、ある懸念が頭をかすめた。
この5ユーロ札、果たして使えるのだろうか?

私は以前、お隣の中国で生活をしていた時期があった。
今でこそ日本を抜いてキャッシュレス大国なこの国では、
偽札やぼろぼろのお札が流通していた。
なので買い物や食事をした際、
おつりの中にくたくたになったお札や
テープで補強したボロボロのお札が混じっていた時は、
その場で交換をお願いしていた。
そうしないと次に自分が使う時に、
受け付けてくれないことがあったからだ。

ポルトで古めのお札に「再会」した私は、急に警戒心が強くなった。
これ使えなかったらどうしよう。
5ユーロといえば800円(旅行当時)、私にとっては少なくない金額だ。
ポルトガルでもやはり劣化したお札は受け取りを拒否されるのだろうか? だとしたら、また明日同じお店に行って変えてもらおうか、
アジア人は珍しいからきっと店の人も私のことを覚えているはず。
などモヤモヤした気分を抱えながら眠りについた。

ポルトのアルマス教会。アズレージョ(装飾タイル)は見飽きることがない

翌日、見学に訪れた教会で入場料を払う必要があった。
ちょうど5ユーロだった。
使えるかどうか分からないけれど、
私はテープ付きの5ユーロ札を、
受付係のおばあさんに渡した。
笑顔で受け取ってくれた。

結局、テープ付きのお札でも普通に流通するのか、
単におばあさんが気付かなかっただけなか、
一介の旅行者である私には本当のところは分からない。
けれど、今日も誰かの手から手へ
あの5ユーロ札が巡っていることを想像したら、
なんだか自分がまだ旅をしているような気がして、ちょっと楽しい。

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