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審判の判定に異議申立てをする方法

Q:質問

相手チームの選手からファウルを受けて、抗議するために詰め寄ったところ、審判がそのファウルを見逃していて、逆に自分が警告を受けてしまった。試合後に、この審判の判定を争って、自分への警告を取り消してもらうことはできるか?

A:答え

最初に、審判の判定に対する異議申立ての手段があるかを確認する必要があります。
もし、異議申立てができるならば、速やかに申立てを行う必要があります。
具体的に、いつまでに手続きをする必要があるか、どこに申立書を提出すれば良いか等は、規定によって異なります。

解説

1 大原則(競技中の審判の判定は最大限尊重される)

スポーツでは、どのような競技であれ、競技中(試合中)の判定については審判の判断が最大限尊重されることになっています。
これを「field of playの原則」と言います。

スポーツに関する紛争を取り扱う日本スポーツ仲裁機構(JSAA)でも、スポーツ仲裁規則2条で「競技中になされる審判の判定は除く」と明記されています。そのため、競技中の判定を仲裁手続きで争うことはできません。

日本スポーツ仲裁機構・スポーツ仲裁規則

2 なぜ、審判の判定は尊重されるのか

競技中の審判の判定が尊重される理由は、主に次の2点です。
①競技後に、審判の判定を覆せるようにすると、そもそも競技が成立しなくなる。
②競技中、誤審が生じるのは、人が判定している以上避けられない(誤審も含めてミスが生じることが前提になっているのがスポーツである)

かなり古い事例になりますが、マラドーナの「神の手」ゴールは、このfield of playの原則の象徴的なシーンと言えます。

3 誤審の防止(ビデオ判定)

他方で、審判による見逃しや誤審があまりにも多ければ、競技の公平性が損なわれてしまいます。
特に近年では、撮影技術が進歩し、リプレー検証をすることが容易になりました。
そのため、少しでも審判のミスを減らし、よりフェアな試合が展開されるように、ビデオ判定やリプレー検証が認められるようになっています。
ただし、こうした措置は、競技の公平性を確保するための例外的な対応であり、あくまで原則は「競技中に生じた審判の判定は最大限尊重される」ということに変わりはありません。

4 試合後に判定を争う方法

では、競技後(試合終了後)に審判の判定を争うことはできるのでしょうか?
上記1~3で解説した通り、本来は「field of playの原則」により、競技後に審判の判定を覆すことは不可能ということになります。
もっとも、大会や競技の規則によって、不服申立ての手段が定められている場合は、その規定に沿って異議申立てをすることになります。

東京オリンピックではボクシングの試合で判定結果をめぐり、試合後に異議申立てがされたケースがあります。
https://bright3.jp/2022/03/10/jsaa_symposium/

https://boxingnews.jp/news/85066/
(スポーツ仲裁裁判所の表記が「TAS」となっていますが、正しくは「CAS」です)

東京オリンピック・ボクシングの事例

水球の試合では、試合終了後に審判の判定が覆りましたが、「判定を覆した」という日水連の対応をめぐって仲裁が申し立てられた事例があります。

水球日本選手権の混乱で秀明大クが仲裁申し立て(産経新聞・2021/12/8)
日本スポーツ仲裁機構(仲裁判断・2023/1/20)

水球の判定結果を巡る紛争

5 「field of playの原則」が妥当しないケース

「field of playの原則」は、審判を含めた試合の関係者全員が、公正公平な態度で試合に望んでいることを前提にしています。
そのため、次のような場合、この原則は適用されません。
・審判が買収等により悪意をもって不誠実な判断をした場合
・八百長があった場合
・出場した選手にドーピング違反があった場合
特に、八百長やドーピング違反が発覚した場合は、競技後(試合終了後)であっても、当該試合の記録が無効になる等の非常に重い制裁が科されます。

6 弁護士がスポーツに関わる意義

冒頭に書いた通り、審判の判定に不服申立ができるか否かは、最初にそのような規定があるかを確認するところから始まります。こうした、規則やルールを調査し、必要な対応を検討することは弁護士が得意な領域です。
また、審判の判定を覆すことができたとしても、水球の事例のように、そのプロセスや対応について検討する必要が生じます。そのためには、何がおきていたのか(事実認定)、どのルールが適用されたのか(規則の特定)、その判断は妥当だったのか(事実の評価と規則へのあてはめ)等を、ひとつひとつ検討することになります。このような頭の使い方も弁護士は日常的に行っています。
弁護士は、法律の専門家であることに間違いありませんが、もう少し広く言えば「ルール作りとその解釈・運用」の専門家です。そして、スポーツにはルールが不可欠であり、ルール作りの段階から弁護士が関わることで、より公平公正な競技環境を実現することが期待できます。
スポーツの透明性を確保し、スポーツが今以上にクリーンな環境になるよう、困りごとはぜひ弁護士にご相談下さい。

7 参考文献

どちらも弁護士による解説で、要点がコンパクトにまとめられています。

審判の判定に対する不服申立と 事後審査の可否(2015年)

スポーツの誤審に法的責任はあるか。審判を告訴、プレーを無効にできる?(2018年)

fin.

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