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スポーツチームが倒産した場合、選手の給与はどうなる?

はじめに

最近、スポーツチームが倒産した(しそうだ)というニュースを目にすることがあります。

例えば、2023年3月には、松江市のサッカークラブ「FC神楽しまね」が3億5千万円の負債を抱えて(NHK)、沖縄のプロ野球チーム「琉球ブルーオーシャンズ」が1億8千万円の負債を抱えて、それぞれ破産手続きの申立て をしました(FNNプライムオンライン

タイムリーな話題では、アイスホッケーのチームが選手やスタッフへの給与の支払いが遅れているという報道がありました。

チームも、給与の支払いが遅れていることは認めています。

今回は、こういったチームの財政状況が悪化し、最終的に破産せざるを得なくなったとき、選手の給与はどうなるのか?について、考察してみます。

なお、ここから先の内容は、あくまで一般論であり、先に挙げたチームとは一切関係ありませんので、誤解の無いようにお願いします。

スポーツ選手の法的地位

大きく分けて3パターン

一般的に、スポーツ選手を取り巻く環境は、
①選手以外の仕事で生計を立てて、選手としての報酬は受け取らないアマチュア選手(WEリーグ誕生前の女子サッカー選手など)
②会社と雇用契約を結びつつ、選手として活躍することが期待されている選手(実業団チーム、社会人野球など)
③選手として報酬を受け取って、活動するプロスポーツ選手(野球、サッカー、バスケなど)
の3通りに分かれます。

今回注目するのは、②のパターンですが、この中も細かく見ていくと、雇用契約を結んでいるケース、業務委託契約を結んでいるケース、契約社員という立場になっているケースなど、色々なパターンがあります。

ポイントは、労働者か?個人事業主か?

今回のテーマは、「チームが倒産したときに、選手の立場によってどのような違いが生じるか」ですが、ポイントは、その選手が、労働者か個人事業主かによって、未払いの給与の取扱いが変わるということです。

労働者の場合

一般的に、会社が倒産して、従業員への未払い賃金がある場合、未払賃金立替払制度を使うことで、だいたい8割の賃金を受け取ることができます。
また、給与(労働債権)は、従業員の生活を支えるものですので、破産手続きの中でも優先的に返済に回されることになっています。
このように、労働者に該当するとなった場合は、仮にチームが破産することになっても、選手の給与はある程度保護されることになります。

(ちょっと専門的な話)
ここでいう、労働者とは、労働基準法9条の労働者と同義です。
仮に、契約書のタイトルが「業務委託契約」と書かれていても、拘束時間や指揮命令関係の有無などから、実質的にみれば労働契約であると言える場合には労働者と認められることもあります。

個人事業主の場合

では、個人事業主の場合はどうでしょうか。
先ほど紹介した未払賃金立替払制度は、労働者でないと利用できません。
また、未払いの給与も、法律上は労働契約に基づく権利ではないので、破産手続きの中で優遇されることもありません。
このように、個人事業主に該当する場合、給与の未払いは選手にとって非常にリスキーであり、最終的には回収できないという結末もあり得ます。

(参考情報)
取引先が倒産した場合に、連鎖倒産を防ぐために、セーフティ共済という制度があります。

アイスホッケー選手の環境

日本のアイスホッケー界では、5チームがアジアリーグで戦っています。

5つのチームが、それぞれ選手とどういった契約をしているかは定かではありませんが、「プロ選手」として紹介されいる記事もあれば、「全員が副業」と紹介されているチームもあり、本当にバラバラのようです(参考記事)。

そのため、「アイスホッケーの選手の選手は個人事業主(または労働者)」と一律に決めることができないので、冒頭で紹介したチームの選手の未払い給与が、法律上どういった扱いを受けることになるかは、ここではこれ以上立ち入らないことにします。

まとめ

近年は、様々なスポーツで新しいリーグが誕生したり、プロ化を目指す動きが活発になっています。
他方で、プロ化にともなう選手の立場の変化について、注意喚起や解説がされている記事はほとんど目にしません。
引退後のキャリア支援も重要ですが、こうした現役中の法的な支援も大切なテーマかと思います。



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