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半音の切なさは、日本人の心か、インドの夜明けか - - 音階について

(写真は、インド古典音楽の祭典「ドーバーレーン・コンサート」の帰り道。2019年1月コルカタの夜明け。コンサートは夜8時くらいから朝6時くらいまで開催され、コンサートの最後には夜明けのラーガ「バイラヴィ」が演奏されるのが鉄板。)

以前にも書いたが、ヌーベルミューズの曲に「SAKURA」というのがあり、これは日本古謡「さくらさくら」とインド古典音楽のラーガ「グンケリ」をベースにアレンジされたものである。

「さくらさくら」の音階については、二十五弦箏の千絵子さんからは様々な角度から解説をしていただき、よく理解できたこともあったし、残念ながら私にはまだ早い(涙)と思うこともあった。

理解できたことを、インド音楽とも結びつけながら、ここで整理しておきたい。

「さくらさくら」は、5音階の「都節音階」。陰旋法ともいう。
「都節音階」は一般的には 「ミ・ファ・ラ・シ・ド・ミ」
ただしヌーベルミューズの演奏では「レ」を基音にしているので、
固定ドにおいては「レ・ミ♭ ・ソ・ラ・シ♭・レ」としている。

これを音幅で表記するなら、「半・全2・全・半・全2」
「半・全2」(短2度+長3度)という3音の構成が2回、同じ形で繰り返されているのが特徴的。
この半音のところが、日本人の心にはぐっとくる。
「都節音階」では、半音よりさらに少し狭く調弦するそうだ。

これをインド音楽のSRGM(サレガマ)で言えば、
「S・r・M・P・d・S」となる。 (基音Sa=レ)
※ フラット♭(インド音楽では「コーマル」)の記譜については、一般的なヒンドゥスターニ記譜法だと音名の下にアンダーランを付けて半音下げを表すのだが、ローマ字表記にした場合はこのように小文字で表すことが多い。この記譜法をあみだした人が誰なのかは不明)

これは、北インド音楽のラーガ・グンカリ(グンケリ)の音階と同じである。
※ラーガによっては、上行と下行の音階が異なったり、単純な使用音というだけではなくて様々なルールがあるので、音階だけで定義づけられないものもあるが、グンケリの場合は大丈夫だと「思う」。

こういうラーガを聴くと、夜がうっすらと明けていく景色、暗闇から少しずつ物のカタチが立ち現れ、色が見えてくる様子を思い浮かべる。

カヤールでももちろん演奏されるが、大変古い伝統的なラーガなので、ドゥルパド・スタイルでもよく演奏されるようだ。

ちなみに、無数に存在していた「ラーガ」は、19世紀になってバートカンデによって「タート」と呼ばれる10種類の親スケールに分類された。

ラーガ・グンケリは、「バイラヴィ・タート」に分類されるということになっている。
バイラヴィ・タートは、「S・r・g・M・P・d・n・S」

ただ、「バイラヴ・タート」に分類されている例も見つけた。
バイラヴ・タートは、「S・r・G・M・P・d・N・S」
確かにグンケリはどちらにも当てはまる。使わない音にフラットが付くか付かないかの違いだ。
バイラヴィとバイラヴ、どちらも、夜明け〜朝の雰囲気を持つタートである。


さて、ヌーベルミューズのラジオトークでバイラヴィについて取り上げ、たどたどしく説明していたところ、「フラット4つで、西洋音階でいうとフリジアン・モードだね」と、二十五弦箏奏者の千絵子さんやピアニストの神田さんは即答した。さすが。なるほど、「そう言ってくれれば話がはやいのに!」とヤキモキすることなのだろう。

ただ、ラーガ・グンケリの例でも書いた通り、ラーガやタートは単純な音階分類ではないので(バートカンデさんは音階のみに注目して大分類をしたけれど)、西洋音階名とイコールにしてしまうのは違和感がある。ラーガやタートには、大事な音、2番目に大事な音、大切な音の並びなども細かく定められていて、それによって表現すべきもの、たとえば時間や季節や感情があるからだ。

とはいえ、日本では西洋音楽理論のほうが一般的なので、これを共通言語に会話をするのがはやいのだとは思う。
私はもはや北インド音楽分類のほうが脳内を占めてしまっているので、インドのタートと西洋スケールの対応表を見たりしながら、今後はたどたどしくも応えていければと思う。

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キャプチャを載せておく

ユーディ・メニューインの「Prabhati (Based on Raga Gunkali)」、こちらもグッとくる。半音を狭くとっているのだろうか。
ラヴィ・シャンカールの作曲。タブラはアララカジー。



ヌーベルミューズの「SAKURA(Based on Raga Gunkali)」も是非。


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