ベンダによる自治体情報システムの標準化対応と自治体による標準基準への適合確認についての一考察
本稿では、ベンダーから自治体情報システムの標準化への対応を示された自治体が、標準基準への適合確認をどうすべきか、その判断の一助になることを目的として考察を述べます。
1.ベンダによる標準化対応のための改修について
システム開発を行うベンダは、標準仕様書が想定しているシステムとの差異をなくすようシステムを改修します。
筆者が観測する範囲では、システムの改修にあたって、以下のような問題が生じているか、あるいは生じる見込みです。
(1) 改修するためのリソースがベンダに不足しているため、標準仕様書の実装必須あるいは実装不可の項目について、自治体の業務への影響考慮して期限内での実装と期限後での実装を分けるスケジュールになっている。
(2) 標準仕様書が想定している実務に対する理解が不足しているため、実務を行う自治体から見れば、標準仕様書に記載された機能要件・帳票要件から想定される機能や帳票とは異なり、標準仕様書の文言に形式的に対応した実装が行われる。
(3) 既存の機能を維持したまま改修した結果、標準仕様書の文言通りの機能ではないが、代替手法があることなどにより従来の業務は行えるような実装が行われる。
(4) 標準仕様書の機能要件及び帳票要件はホワイトリスト形式であることを理由として既存の実装を変更または廃止する改修となっているが、実際の業務が不便になる(都道府県への提出資料がカスタマイズ機能で作成されていた場合、業務効率が悪くなる場合、住民満足が低下する場合等)。
これらの問題は、自治体による標準基準への適合確認を困難にします。
2.自治体による標準基準への適合確認基準及び手順について
(1) 国からの文書として、自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書では、以下の記載があります。
また、自治体は各制度所管省庁に適合性について疑義照会を行うという方法がありますが、1.で述べたベンダの個々の対応について、省庁が数多く、迅速に回答することは現実的には無理があると考えます。
(2) 自治体が作成した文書として、戸田市情報システム標準化基本方針が白眉です。
3.考察
自治体が標準基準への適合性の確認を行うべき期限は令和7年度末であるため、それまでに、国からより具体的な標準基準への適合確認基準や手順が示される可能性があります。しかし、自治体においては、現在、ベンダーから示された標準化への対応について適合性をどう判断すべきかが問われている状態です。
ここでは、1.のベンダによる標準化対応に合わせて、2.の適合性の確認基準についての試論を行います。
(1) 実装必須機能が期限までに実装していなければ移行困難システムになります。もし移行困難システムにできない事情があれば、当該実装必須機能は手順書の「対応方針案を検討する必要のない課題」であるか、戸田市基本方針の「準適合」または「一部適合」にするか、どちらかで整理することが考えられます。
(2) 自治体から見れば、実務的にあり得ない(業務の効率化に寄与しない)実装は標準基準に適合しないと判断することになるでしょう。しかし、7年度末の期限までに、ベンダは自治体の意見を十分に聞く機会がないまま標準仕様書の文言に形式的に対応した実装を行って納品することが十分に予想されます。そうなると、適合性を確認するときには手遅れになります。自治体は、業務にとって有益な機能はなんであるかという観点からの要望を事前にベンダに伝えておくことが重要です。なお、その要望をベンダが受け入れないことはありえます。
(3) 実装される予定の機能が標準仕様書の文言通りの機能ではない場合のような、不完全ともいえる実装をどのように判断するかは難しいところです。設例のように代替手段があるのであれば、戸田市基本方針の「準適合」に該当すると整理しやすいです。しかし、代替手段が見当たらない場合は、実際の業務での必要性やシステムでの考え方に基づいて、手順書の「対応方針案を検討する必要のない課題」と整理するか、整理できなければ適合性確認を一時的に保留してベンダに機能の追加実装を求めるか、または戸田市基本方針の「一部適合」として標準準拠システムに適合させることを条件に例外的に導入を可とすることが考えられます。
(4) ホワイトリスト形式であることを理由として既存の実装を変更または廃止する改修に対しては、適合性の観点からは、拒みえないものと考えます。ただし、都道府県への提出資料を作成する機能は、ないと誰もが困るので、国の(検討会での)資料などでは暗黙的に認められているかのような記載があることもあります。業務効率が悪くなる場合や、住民満足が低下する場合には、自治体が標準化対象外システムの導入やBPRの実践、RPAの活用を積極的に取り入れること等で業務を行うことになります。(もし、標準化準拠システムに標準仕様書に記載がない機能の名称を持ったボタンやリンクがあれば、それは標準化対象外システムの画面に飛べる便利なボタンやリンクなのかもしれません。)
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