【論文メモ】Roles and Issues of Bioenergy in a Decarbonized Energy System (Aikawa, 2022)

1. 概要

エネルギーシステムの脱炭素化のためにバイオエネルギーに期待される役割を概観した上で、温室効果ガス(GHG)削減効果を評価するLCA手法の基本的な枠組みと論点を整理した。

2. メモ

・気候変動対策としてバイオエネルギー利用を推進する際の根拠は、バイオマス起源のCO2が、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収されたものであり、燃焼時に大気に放出されるCO2を差し引きゼロとみなすことができるためである(炭素中立/カーボンニュートラル)。

・IEA (International Energy Agency)が2021年5月に公表したNet Zeroシナリオは、2050年には、再生可能エネルギーが全エネルギー供給(543EJ)の67%(362EJ)と、太宗を占めるとされている。このうち、バイオエネルギーは、一次エネルギーの2割弱を供給する。

・それに伴い、エネルギー転換部門からのCO2排出は、2020年の34Gtから2Gt弱に削減される。残る排出については、CCS(Carbon Capture and Storage)など負の排出技術で相殺され、ネットゼロが達成される。

・IEAのものも含めて、多くのシナリオにおいて、脱炭素化を進めるエネルギー転換の主要なドライバーとして想定されているのは、太陽光・風力発電の躍進である。

・背景には、これらの発電設備では燃料コストが不要であることに加え、設置コストの下落が急激に進んでいる実績と、今後のコスト低下の予測がある。IEAシナリオでも、太陽光と風力だけで、電力供給の5割を占める見込みとなっている(それぞれ23%と24%)。

・一方で、バイオエネルギーによる発電量の予測も全世界の5%と、決して小さくない。太陽光・風力は、天候によって出力が変わる。従来の電力システムにおいては、化石燃料を用いた火力発電所が出力を調整して需給変動を同期させる調整力を提供してきた。

・将来のエネルギーシステムの中で、自立的に出力の調整を行うことができるバイオマス発電は、脱炭素電源の1つとして調整力を提供することになる。また、2050年のバイオエネルギー由来の発電の中で、CCS付きのバイオマス発電(BECCS)が全電力供給の1%を占め、1.3GtのCO2を吸収することが期待されている。

・交通部門については、乗用車の多くは電気自動車となり急激に電化が進展する一方で、航空や船舶、長距離陸上輸送などは、当面電化が難しいと考えられている。そのため、水素由来の合成燃料とともに、液体バイオ燃料の活用が期待される。

・バイオエネルギーはエネルギーの脱炭素化に向けて、太陽光や風力とは異なる固有の役割を果たすことが期待されているが、前提となっているのはその持続可能性が確保されることである。このことは、必要なバイオマスをどのような生産方法・経路で供給するかという問題が深く関わってくる。

・IEAの供給経路の予測において第一に重要なのは、伝統的バイオマス利用と呼ばれる、発展途上国で煮炊きや暖房に使われる、効率が低く、ばいじんによる健康被害も大きな利用方法は、2030年までにフェードアウトさせるとしている点である。

・同時に、穀物や植物性油脂による従来型エネルギー作物も徐々に減少する。その一方で、増加が見込まれるのは、有機性廃棄物由来のバイオマスである。

・バイオマス資源は大規模なプランテーションから調達されることが多く、いわゆるグローバルサウスで特に深刻な問題になることが多いからである。

・国際航空や海運で使われるバイオ燃料については、国際機関が主導的役割を果たし、航空ではICAOがすでにLCA手法を整備している。

・日本においても、運輸部門においてエネルギー高度化法(2009年)により、液体バイオ燃料(主にバイオエタノール)の導入促進が行われることになった。2018年度から2022年度までの利用目標量は50万kL(原油換算)とされ、2020年度には日本のガソリン消費量のおよそ1.9%にまで増加している。

・バイオエネルギー利用による環境負荷の多くは、土地利用部分を除けば、エネルギー利用、特に化石燃料使用に伴うものである。したがって、各工程のエネルギー効率を高めることに加え、使用エネルギーを再生可能エネルギーに切り替えていくことで、環境負荷を低減できる。

・燃焼などエネルギー利用時に発生するバイオマス起源のCO2については、ISOの最新基準では含めることが推奨されているものの(ISO 2018)、政策や実務で用いられるLCA計算手法では、カーボンニュートラルとしてゼロとみなすことがまだ多い。

・森林とエネルギー利用からなるシステムを想定した際に、排出されたCO2の再吸収にかかる時間が長期に渡り、「炭素負債」が発生しているとして、気候変動対策としての効果そのものを問うものである。

・この時の土地利用変化に伴う炭素蓄積の変化をエネルギー利用のための排出とみなすと、化石燃料比でCO2削減効果があっても、その「負債」の回収に長期間を要するという主張がなされた。

・一方で、炭素負債の問題に対して、バイオエネルギー利用による気候変動対策の便益は、そもそも長期的なものであるという主張もある。

・2015年のパリ協定がそうであったように、気温上昇を2°C未満に抑えるために、今世紀後半に脱炭素化を達成するというものであった。そのため、バイオマス由来のCO2により、大気中の炭素濃度を一時的に増加させたとしても、多くのケースで今世紀後半には取り戻せる、という主張もあった。

・しかし、平均気温の上昇がすでに1.1°Cに迫り、毎年のように世界各地で森林火災や水害、熱波などの異常気象が続いていることを考えれば、大気中のCO2量を一時的であれ、増加させることには避けるべきであろう。

・IEAのシナリオにおいても、2050年時点での化石燃料の消費はゼロにならず、ネガティブエミッション技術の大量導入が必要とされていることを考えると、生態系の炭素ストックを維持・増加することを優先すべきであるという主張の説得力が増している。

・加えて、これまでは森林の炭素蓄積を維持・増加させることだけでは、経済的な利益を得られない点が問題だったが、森林の吸収源確保などの自然に基づく解決策が注目され、炭素オフセット市場が活性化しており、状況が変わってくる可能性がある。

・LCAを通じて、工程ごとの様々な環境負荷を、統一的な指標で示すことができることは大きなメリットであるということである。

3. 出典

AIKAWA, T. 2022. Roles and Issues of Bioenergy in a Decarbonized Energy System. Journal of Life Cycle Assessment, Japan, 18, 3-10.

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