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位相と論理と私5:ブール代数(pp.7-10)

ブール代数はG. Booleによって思考過程の記号化として導入された.
田中俊一『位相と論理』(日本評論社,2000年)p.7

かっこいい言い回しで始まる.$${PX}$$(ベキ集合族)が典型的なブール代数であるとのこと.抽象的過ぎて混乱した時はベキ集合族で考えるとよさそう.

補元

定義1.17 束において,$${a\land x=0, a\lor x=1}$$となる$${x}$$を$${a}$$の補元という.

束には最小元0と最大元1の存在が保証されていました.補元はベキ集合で言えば「補集合」というやつですね.台集合$${X}$$に対して部分集合$${A\sub X}$$の補集合$${A^c=X- A}$$です.

補題1.18 分配束では補元は存在すれば一意的である.
証明 $${x,y}$$ともに$${a}$$の補元とすれば$${x=y}$$であることを示せばよいです.$${x=x\lor 0=x\land 1}$$のように$${x}$$に0や1を生やすことができ,$${0=a\land y, 1=a\lor y}$$のどちらかを使って,さらに分配束も使うと示せます.

分配束では補元の一意性が保証されたので,$${a}$$の補元が存在するなら$${\lnot a}$$と書いて表すこととします.

ド・モルガンの法則

$$
\lnot(a\land b)=\lnot a\lor\lnot b\\
\lnot(a\lor b)=\lnot a\land\lnot b
$$

証明は$${\lor, \land}$$が結合律や分配律を満たすことや,補元の性質を使ってやれば簡単にできます.

定義1.19 すべての元が補元をもつ分配束をブール代数という.

はい,ブール代数が定義できました! ブール代数は順序集合の特殊なやつなんですね.

ブール代数の例として,さっきも書きましたがベキ集合族があります.

また,位相空間において開かつ閉である部分集合全体もブール代数になるとのこと.確かに一般には開集合の補元(補集合)は閉集合なので,開集合だけを集めた部分集合族ではブール代数にならないですが,開かつ閉なら補元をとることで閉じているのでブール代数になりますね.すごい.

ブール代数では以下が成り立ちます.

$$
a\land \lnot b=0\iff a\le b\quad(1)\\
a\lor \lnot b=1\iff b\le a\quad(2)\\
a\neq b\iff(a\land \lnot b)\lor(b\land \lnot a)\neq 0\quad(3)
$$

(1)の証明:
(⇒)
$${a\land b=(a\land b)\lor 0=(a\land b)\lor (a\land\lnot b)=a\land(b\lor \lnot b)=a\land 1=a}$$.
よって$${a\land b=a}$$が示せた.これは$${a\le b}$$を表す.
(⇐)
$${a\land\lnot b=(a\land b)\land\lnot b=a\land(b\land\lnot b)=a\land 0=0}$$.

(2)も同様.(3)は簡単.

アトム

また新しい概念が登場します.

定義1.24 ブール代数$${B}$$の元$${a\neq 0}$$が$${0\le b \le a\Longrightarrow b=0またはb=a}$$という性質をもつならば,$${a}$$はアトムであるという.

アトムというのは最小元0の直後の元たちということですね.ブール代数は順序集合であり,順序集合では任意の2元が比較可能とは限らないので,アトム(0の直後の元)は複数あってもよいですね.

アトムの例としては,ベキ集合族の一点集合たちが挙げられます.

また,自然数$${\N}$$に$${a\le b \iff a\mid b}$$で順序を入れたら素数がアトムになるかなと思いましたが,これは以下の理由でブール代数にはなっていないのでちょっとダメでした.

$${\N}$$はこの順序でjoinを最小公倍数,meetを最大公約数と思えば束になっています.1が最小元.そして0はどんな数によっても割れると思うことにすれば0が最大元! 分配束でもある.しかしどの数にも補元が存在しない.なぜなら2数の最小公倍数はかならず有限であり最大元0にならないから.よってブール代数ではない.しかし素数たちは最小元の直後の元にはなっていますね.

アトムの性質について.

命題1.25 $${a\neq 0}$$がアトムであることの必要十分条件は,すべての$${b,c\in B}$$に対して$${a\le b\lor c\Longrightarrow a\le b またはa\le c}$$が成立すること.

必要条件の方について,逆側の矢印(⇐)は自明です.アトムなら「$${\lor}$$」という記号は「または」にしてよいのですね.joinの記号は「または」の意味で理解してよいということ.

証明.十分性について.
・$${0\le b\le a}$$とする.$${b=0またはa}$$を示したい.
・$${a=a\land 1=a\land (b\lor \lnot b)=(a\land b)\lor(a\land \lnot b)}$$.
・これは$${a\le(a\land b)\lor(a\land \lnot b)}$$の意味も含んでいる.
・仮定より$${a\le a\land b}$$または$${a\le a\land\lnot b}$$.
・$${a\le a\land b\iff a\land a\land b=a\iff a\land b=a\iff a\le b}$$.反対称律より$${b=a}$$.
・同様に$${a\le a\land\lnot b\iff a\le \lnot b}$$.$${b\le a\le \lnot b}$$なので$${b\le\lnot b\iff b=b\land\lnot b=0}$$.すなわち$${b=0}$$・・・(4)

必要性は次の補題を使うようです.

補題1.26 ブール代数$${B}$$において,$${a}$$がアトムならば,任意の部分集合に対して,$${a\le\lor S\Longrightarrow \exists s\in S(a\le s)}$$.

証明 背理法でやります.$${\forall s\in S(a\nleq s)}$$と仮定すると,

・$${a\nleq s\Longrightarrow a\land\lnot s\neq 0}$$(上の(1)式より).
・$${\Longrightarrow a\land\lnot s=a}$$($${a}$$がアトムかつ$${a\land\lnot s\le a}$$より).
・$${\Longrightarrow a\le \lnot s}$$(順序とmeetの関係より).
・$${\Longrightarrow \lnot a\ge s}$$(上の(1)(2)から示せる).
・$${s}$$は$${S}$$の任意の元だったので$${\lnot a\ge \lor S}$$.
・仮定より$${a\le\lor S\le\lnot a}$$.
・このとき$${a=0}$$となることは上の(4)ですでに示した.
・$${a}$$がアトム($${\neq0}$$)という条件と矛盾.

ブール代数で任意の非零元に,それ以下のアトムが存在するとき,$${B}$$はアトミックといいます.ベキ集合族はアトミックです.

ブール代数が完備かつアトミックならば,あるベキ集合族に同型であるという事実があるようです.証明は省略します.

まとめ

ブール代数が特別な順序集合として定義されました.また,アトムという概念があることを述べました.

次回は「ブール環」についてです.え? ブール代数とブール環って異なる概念なのですか?

(つづく)


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