第一話 コロナ、襲来

2023年8月15日火曜日、学生としての人生最後の夏休みを謳歌していた私は、ベッドの上で猛烈な重力を感じた。

その日は記録的な台風の接近でバイトも休みだったのでゴロゴロすることにしていたのだが、それ以上に体の芯からやる気が出ない。台風の低気圧のせいだろうと思っていた私の体調は、午後3時を過ぎたころから急激に悪化し始めた。

夕方ごろに体温を測ると、なんと39度。
たまたま家にあった検査キットを使うと、案の定コロナ陽性だった。

コロナになったら5日は外出できない。
しかし、今週あと3回バイトを控えており、明日もシフトが入っている。
代わりを探すためにLINEを送りまくり、コロナに罹った旨をチーフに伝えたのだが、この作業の面倒くささは尋常ではなかった。

高校までもそうだが、欠席するという行為が一番面倒くさいし、この面倒くささはこの社会から根絶されるべき類の面倒くささである。
思いのたけを書きすぎると長くなってしまうので避けるが、社会はもっと休みやすい仕組み、休むことを前提とした仕組みを取るべきであると私は固く信じている。

話を戻そう。
当時の私は悠長に社会に対して愚痴っている場合ではなく、なんと救急車を呼ばざるを得なくなるほど死にかけていた。

午後6時頃であっただろうか。布団にくるまっていた私は、徐々に手足に痺れを感じ始めた。
圧迫した後など日常的に感じられるものに比べ、筋肉の硬直がはるかに強い。手は何かを握ったような形から開くのが困難になった。またふくらはぎにも軽く攣っているかのような感覚があった。

それに加えて深刻だったのは、胸と口元のしびれだ。
手足のそれほど強くはなかったものの、呼吸に多少のやりにくさがあった。何よりこのまま呼吸ができなくなってしまうのではないかという不安が、私の頭を恐怖とともに支配した。

そこからの決断は早かった。
硬直した震える手で1,1,9と押し、救急車を呼んだ。
しかし、オートロックが壊れているため自力でマンションの前まで出なくてはならなかった。
発熱としびれでぜひゅーぜひゅーと浅い呼吸をしながら、もうろうとする意識でスマホと家の鍵をポケットにしまい、痺れる脚を引きづって何とか玄関前にたどり着いた。

そこから救急車の到着までの時間は永遠のようだった。
熱と過呼吸で朦朧とする頭、しびれて動かないどころか硬直しきって痛みすら感じる手足。死の二歩くらい手前にいたような感覚のまま待ち続けた。

玄関前でうずくまりながら、近づいてくるサイレンの音が聞こえた時、助かったという安堵で心は埋め尽くされた。が、この安堵は本の束の間に過ぎなかった。

コロナに苦しんだ4日間で、最も苦悶に満ちた時間はこの直後に訪れたのだった。

to be continued…

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