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二眼レフのささやかな快楽

人物をモノクロで撮るのが好きだ。

それは被写体にカメラを意識させないように撮るスナップ写真ではなく、モデルに向き合い、カメラと撮影者を意識させて撮る肖像写真のスタイル。使用機材は1963年ドイツ製のRolleiflex。こいつはアントニオ カルロス ジョビンの名曲「デザフィナード」の歌詞にも出てくる縦に2個並んだレンズが特徴的なカメラ。フィルム巻き上げは手動。ピントと絞りとシャッター速度は撮影者のお好み次第。無数の組合せの中から自分なりの正解を選ぶ必要がある。つまり撮ろうと思ってからシャッターを切るまでにそれなりの手順が必要だと言うこと。その天辺にある6cm四方のフォーカシングスクリーには、この世界が美しく凝縮されて映っている。こいつにモノクロフィルムを入れて撮る。120という規格のフィルムに56×56mmのスクエアな12枚の像が撮れる。二眼レフは天辺にあるスクリーンを覗いてピントを合わせるので撮影者は被写体にお辞儀するような姿勢になる。きちんとモデルに向き合っていても対決する格好にならないのがいい。

二眼レフで写真を撮るうちに、動きのある被写体はもちろん、動きのないもの、植物や生命のない静物にさえもシャッターを切るべき瞬間があるのに気が付いた。被写体が発する波を捕らえ、それにうまくシンクロした瞬間がシャッターチャンス。波の大小、強弱、速度、振幅は被写体によって様々。撮影者の影響で被写体固有の波が複雑に変化することもある。この波は捉え損なっても、またすぐ来ることもあるし、二度と来ないこともある。いくら待っても全く感じないことさえもある。被写体の発するものが刻々と変化するだけでなく撮る側の感受性も常に動いている。今までの経験からは波が大きく強ければ撮りやすいと言うわけでもないようだ。うまく波を捕まえることができればすごく気持ちよく撮れる。でも、これって単に二眼レフのピントグラスに映った美し過ぎる影に幻惑されてその気になっているだけのことかもしれない。

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