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気候変動について講演をする全ての人へ。自分的講演マニュアルを作ってみた。

こんにちは、Isaoです。今までありがたいことに、気候変動についての講演をする依頼を何度もいただきました。その際に自分が気をつけていたことをFridays For Futureのメンバーに頼まれてまとめてみたところ、想像以上に「使える!!」と言ってもらえたので、公開してシェアしたいと思います。

講演をしている人が抱いている悩みや、何かの役に立てば良いなと思っています。

事前準備のプロセス

プレゼン準備はただ闇雲に、「気候変動のこと何を伝えようかな〜?」で始めないようにしています。オーディエンスは誰か、時間はどれくらいか、その会の趣旨は何か、他の登壇者はいるか、といった情報を整理することを出来る限り大切にしています。

講演をするときのゴールは何かを考えます。アクションをして欲しいのか、まずは気候変動について知って欲しいのか。どんな感情を抱いて帰って欲しいのか。などなど、自分の中で整理をする。

講演前の資料作成のプロセスは大体こんな感じ
1. オーディエンスの情報整理:年齢・講演時間・目的
2. 講演の目的/ゴール設定:気候変動への啓発、特定のアクションへの参加など
3. 相手にどんな感情を抱いてもらいたいか?(怒り、希望など)
4. アウトライン:全体の構成・内容整理
5. メンバー・信頼している人の意見をもらう
6. 資料作成
7. 先方と共有


資料作成について


ターゲットは誰か?を考える。
オーディエンスが小学生・中高生・ミレニアル世代の社会人・高齢者などどんな属性にあるかを確認して、相手が共感しやすいようなフレーミング・メッセージ・比喩・例を使うことを心がけています。
ターゲットによって、講演資料での表現・フレーミングは必ず修正することが大切です。相手に響きやすいメッセージになっているかを入念に確認することで、プレゼンの効果が全く違うなと正直感じています。
例)
・ビジネスマンが多い講演→ダボス会議のグローバルリスク報告書を見せて、世界のビジネスが気候変動対策に向かっていることを伝える。
・小学生→その地域で起きた災害を例に出す。

フレーミングについては前にnoteを書いているので参考にしてみてください。相手が理解しやすそうな、相手の価値観にあった比喩やメッセージを作ること。



発表の中における視聴者の感情をデザインする。(とはいえ、完全にコントロールできるわけではない)

自分は、「驚き(全世界で災害が多発している)→怒り(政策決定の不平等/世代間不平等/気候正義)危機感→希望/自己効力感(この数年での変化/3.5%の変化/)」という流れにすることが多いです。
Community Organizingでも言われていますが、人にアクションを喚起できるのは、怒り、希望、自己効力感(自分がいることで変えられるんじゃないかという感覚)が多くて、逆に絶望させてしまうとアクションに繋がらないことが多いといいます。
以前、災害事例を沢山見せまくって、危機感を煽りまくったら、アクションへの希望よりも絶望させてしまったことがあり、とても反省した経験があります。なので今は端的に1-2スライドで世界各地からの1年以内の災害を見せて、あまり絶望や悲壮感を感じ過ぎないように、けれど危機感は伝えるといったように気をつけています。
希望、自己効力感を持ってもらうために、「すでに起きている変化・実際に変化が可能であること・新しい社会を作れること」などをしっかりと示すことを意識しています。


アウトラインを作る(以下は自分がよくやるアウトライン、アクション喚起がゴール)

アウトラインを作ると、思考が整理されます。どのトピックに何分くらい割こうかとも考えられるようになります。以下に書いてあるアウトラインは、気候変動についてよく知らないオーディエンスに対して少し長めにレクチャーをするようなシチュエーションを前提にしています。

・フック(パーソナルストーリーやショッキングなデータ)
・自己紹介
・世界中で起きている災害(直近1ヶ月〜1年で世界中で起きている災害にフォーカスすることが多い)
・原因→温暖化、気温上昇(国立環境研究所の江守さんの解説
・深刻化の予測:1.5と2度の違い(参考記事:ロイターハフポスト
・ティッピングポイントについて(参考記事:Wired
・気候変動の不平等な影響:他の社会課題との交差点であること(参考記事:江守さんの記事ハフポスト
・気候正義について(FFF Japan
・必要な変化:IPCCやClimate Action Trackerが出している必要な排出量削減の量と期間を示す。
・現在の日本社会の状況:日本の排出量、高齢者・男性中心の政策決定など
・必要なシステムチェンジとは:開かれた政策決定、再エネの増加、CO2削減
・最も影響を受ける人々を中心においた変化
・変化が可能であること
  世界的な再エネ価格の減少/日本の導入ポテンシャル(参考:ATO4NEN
  世界のMAPA運動の盛り上がり(地球の歴史にないほど、気候変動を起点に世界中の若者が同時に連帯し、声を上げている)
  RE100企業の増加など(参考:JCLP
  3.5%の変化(参考:Wired
・こうなったらいいな、というビジョンをみんなで考えてみる
・参加者にすぐできるアクション例(参考:国立環境研究所
・まとめ

一つ一つ説明していると、とても長くなってしまうので、参考文献的なリンクを横につけておきました。
最初に参加者の興味を惹けるようなパーソナルストーリーやショッキングなデータを入れたり、絶望したくなるようなティッピングポイントの話を中盤に持ってきた後には、必ず世界ですでに起こっている変化、これからどう良い未来を作っていけるかを話すように心がけています。

気候変動対策をすることで実際にどんな良い未来が待っているか。僕が挙げるのはこんな感じ:
・もっと市民に開かれた形の民主主義が可能になる
・より団結力のあるコミュニティが生まれる
・エネルギーを市民が市民の手で作り、運営する未来が可能になる
・人間も自然も搾取されないような社会を作れる
これも少しの例ですが、こうして未来に対して一緒にワクワクし、どんな変化を一緒に起こせるだろうか?と参加者と考えることで、気候変動対策を「我慢」ではなく、自分たちにとって良い未来を作るチャンスと捉えてもらうことも可能になると思っています。


参加者のエンゲージメントを高めるために:
ここからは細かいテクニック的なことですが、講演する際に気をつけている点をいくつか書いています。

1. ワークや参加者を巻き込める工夫を入れる→
例)隣の人とディスカッション、簡単なクイズに答えてもらう(挙手、教室内移動など)

2. スライドは画像多め、文字少なめ
スライドに載せる情報は少なく、参加者がスライドを読む必要を無くすことを心がける。1スライド1メッセージが個人的には理想。

3. 敵を作るような攻撃的な表現や、結論ありきの話よりも問題提起をする
問題提起の例:
・社会のどの部分が変わる必要があるのか
・教育、ビジネス、消費、遊びはどう変われるか?
・いま化石燃料を売っている企業はどう変わるべきか?

4. 敵を作り上げない
・もしかしたら参加している学生の親はメガバンクや化石燃料企業に勤める方かもしれない
・それよりはその産業がどう変われるか、「公正な移行」を一緒に考える

事前準備で一番大事なことは、、、身近なメンバーや経験がある人に意見を聞くこと。
スライドやアウトラインなどの流れを共有し、改善できるところを遅くとも2~3日前には聞いておくことを心がけています。大抵の場合、このプロセスを置くだけでプレゼンの内容は2倍よくなる or 自信を持って話せるようになると思っています。(経験談)
一人でモヤモヤした時、自信がないときはとにかく意見を聞くことが大切!!客観的に自分のプレゼンテーションを振り返って、漏れているポイントを見直せます。

僕が意見を聴く際に確認している項目:
・ターゲットに向けて最適化された内容か
・問題のある表現・説明はないか
・流れで改善できるところはないか。

これを読んでくれている方、上の情報が使えるかもしれないし、使えなかったら全く別の方法もありだと思います。

講演する時

さあ、いざ講演に行く時。
自分が心がけていることをいくつか書きますが、色んなプレゼンテーションのスタイルがあると思いので参考程度にしていただければと思います。

・スクリプトは読まず、空で話せるように練習していく。
・事前に2度は練習して、歯切れが悪いところや、表現をこだわりたいところを確認しておく。
・参加者とアイコンタクトをしながら話すことを心がける
・懐疑論的な質問が来ることを予想して、準備しておく
・批判や問題提起には好戦的にならず、しっかりと向き合って共に考える姿勢を取る。相手の人間性は絶対に否定しない。(論破よりも相手との信頼関係を意識する。)

特に、最後のポイントですが、とても強く批判的・否定的な意見を持っている人を、たった1時間程度の時間で意見を変えられるとは僕は思っていません。その人の主張の奥底にある根本的な価値観にそぐわないことを僕のプレゼンが言っているとしたら、そこは何なのかを考えること。その人はどんな観点や価値観を大事にしているのか?(経済合理性、安全保障、などなど)その人といがみ合うよりも合意できるポイントを探せると、対話の糸口が見つかりやすいと思います。

そして絶対に相手の人間性は否定しないこと。気候変動コミュニケーションにおいて、その場で論破するよりも相手との信頼関係を築く方が長期的に見ても意見を変えやすいといいます。なぜなら人はメッセージよりもメッセンジャーに大きく影響を受けるから。極端な対立にはあまり出会ったことはないですが、絶対に異なる意見の相手の人格を否定せず、どう信頼関係を築けるかを個人的には大切にしています。

講演後

プレゼンテーションが終わった後には、必ずフィードバックや振り返りを心がけています。

・感想・フィードバックを必ずもらう
・自分で起こせそうなアクションは何だと思うかとか聞けるとよし。
・次回以降の改善点に役立てる。
・講演後には必ず主催者・先生・生徒にお礼メールを送る
・質疑応答やコネクトできる機会があるように、FFFのアドレスやinstagramアカウントをシェアする。

こういったところを意識しています。


最大の失敗

マジで失敗を何度もして学んだことを共有します。
「何度もやったことあるし、大丈夫だろ」
「前回も同じようなテーマでやったからあまり準備しなくて大丈夫かな」
お声がけしてもらっている以上、本当にそう思うなんてまず甚だおかしいことですが、そうタカを括ってしまったことで何度か爆発的に失敗した経験があります。もちろん参加者の方からしたらまあまあくらいだったかもしれないけど、自分としてはありえないクオリティでプレゼンを行ってしまいました。

絶対に準備を怠らないこと。どんなに時間がなくても落ち着いて情報を整理していくことが大切だと、失敗から学びました。入念に準備して、仲間にも意見を聞いたりして、なんとか満足いくプレゼンが出来たりします。

自分が高校の時に受けた気候変動の授業によって、人生の大転換があったように、自分が行うプレゼンが聞いてくれている誰かにとって人生を変えてしまうようなきっかけにもなりかねない。気候変動はそういうトピックだと思っています。

なのでこれを読む方も、参考になれば幸いです。

最後に

気候変動運動の先輩たちや仲間から、これまで沢山の素晴らしい気候変動のプレゼンテーションを見るチャンスをいただきました。彼ら彼女らのようなロールモデルに出会えたからこそ、そのテクニックを見よう見まねで、自分なりに咀嚼することが出来たと思っています。

そうしていただいたものが気づいたら、知識や経験となって自分の中にもたまっていました。ただ自分がお伝えしていることは、個人の主観を通したほんの一つのケーススタディに過ぎません。なので、使えることも使えないこともあると思います。絶対的にこうすべきだ!となんて言えません。
これを読んでいる方、一人一人だから話せる言葉があり、通じる人たちやコミュニティがいると思います。彼らに言葉を届ける時に、もし何かの形で役に立ったらそれはとても嬉しいことです。

ですし、もっとこうやったら上手くいったよおおお!っていう経験談などあったらぜひ伺いたいです。

気候変動対策はどんどん緊急度が増しています。ただ自分から見てもこの1年は本当に色んな、そして多くの人たちがアクションに参加している様子に希望を感じます。これからも一緒にワクワクする未来を作りましょう。


Isao

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