A night in Tunisia / その夜、チュニジアで何があったのか。: リズムラボ

 今回の記事は、「ラテン」のリズムと「スゥイング」のリズムの両面をもつジャズスタンダードとして良く演奏される "A night in Tunisia (チュニジアの夜)" について深堀していきます。

 A night in Tunisia

 "A night in Tunisia" は、1941年から42年にかけて、ジャズトランペット奏者のDizzy Gillespie (ディジー・ガレスピー) が、Benny Carter (ベニー・カーター)のバンドで演奏していたときに書いた楽曲です。

  Dizzy GillespieとBenny Carterの録音


チュニジア共和国

 チュニジア共和国の公用語はアラビア語。
 西にアルジェリア、南東にリビアの国境と接しています。北と東は地中海。地中海対岸の北東にはイタリアで首都はチュニスという北アフリカの共和国です。

1941 - 42 年のアメリカから見た「チュニジア」

 時は第二次世界大戦中。枢軸国のイタリア帝国に侵攻するため、アメリカ合衆国・イギリスの連合軍は北アフリカを抑えるトーチ作戦 (Operation Torch) を実行しました。
 作戦は、モロッコとアルジェリアへの上陸作戦とされていますが、チュニジアを含む結果的にチュニジアも制圧した後に、そこからイタリア南部へと侵攻する足掛かりとしました。
 
 1941年の独ソ戦開始以来、イギリス・アメリカはソ連へ援助をし続けていた。さらにソ連からヨーロッパで第二戦線を行うことを要求されていました。アメリカ合衆国・イギリス軍部隊は、枢軸国軍よりも先にチュニジアを確保しよう動きます。連合軍は枢軸国軍の補給線への攻撃を開始。シチリアからチュニジアへの補給線を攻撃することによって、枢軸国側に多大なダメージを与えることに成功しました。

 このようにトーチ作戦に始まったチュニジア攻略は連合軍がドイツ・イタリア軍と戦う上で非常に重要な作戦だったんですね。
 この事を鑑みると、この頃の合衆国内の報道で "Tunisia" の文字が頻出していたのではないでしょうか。
 トーチ作戦は1943年までの三年間行われました。このJazzの名曲 "A nighta in Tunisia" はトーチ作戦中に作曲されたジャズ曲という事実があります。

ニューオリンズにある第二次戦争博物館

 これは完全に余談ですが、私が "A night in Tunisia" と戦争の関連性に気が付いたのはニューオリンズを訪れた時でした。
 アメリカ合衆国の音楽を探る事を目的としていた私は、ミュージシャンが演奏活動を行わない日中に、第二次戦争博物館を訪れました。

 チュニジアからイタリア帝国へと連語国軍が侵攻した歴史がここ展示展示されていました。
 それを見た時に、このJazz曲とチュニジアを舞台とした歴史に関係があるのではないか、と思うようになり今回の記事につながりました。
 近現代史と音楽は同じ流れの中にある。調べれば調べるほどにそう感じずにはいられない事実に出会います。

A night in Tunisia をカヴァーしたアーティスト達

 さて次にチュニジアの夜をカヴァーしたアーティストとその音源に迫ります。それにしてもこの曲を演奏した人のなんと多いことか。
 この曲の人気っぷりがこのリストからも伺えますね。

Count Basie

 カウント・ベイシー・ビッグバンドのチュニジアの夜です。

Stefano di Battista (ステファノ・ディ・バチスタ)

 イタリア出身のサックス奏者 ステファノの録音。カリブ海域の打楽器音楽の感がある録音で素晴らしくダンサブルなリズムを感じる録音です。

Art Blakey (アート・ブレイキー)

 ドラマーの巨匠アート・ブレイキーの録音。
 独特のクラベスが響き、ダイナミックなドラムソロから楽曲に入る録音です。

Anthony Braxton (アンソニー・ブラクストン)

 シカゴ出身のサックス奏者アンソニーの録音、怪しげなピアノの和音展開から始まり、安心感のあるサビが聞かせどころか。
 ソロは複雑怪奇なものとなっています。

Dee Dee Bridgewater (ディー・ディー・ブリッジフォーター)

 テネシー出身のジャズシンガー、ディー・ディーのライブ録音。
 ダイナミックで力強い歌唱と、リズムカルなスキャットがとても心地よく響きます。

Chuck Brown (チャック・ブラウン)

 ワシントン出身のシンガー、チャック・ブラウンの録音。Go-GOやFunk、Swingを得意とした彼らしい録音。
 気持ち良いビートが脈々と流れます。

Clifford Brown (クリフォード・ブラウン)

 トランペット奏者クリフォード・ブラウンの録音。
 マンボを思わせるパーカッションフレーズから始まり、スィングへと移る様子は伝統のジャズといったところ。

Ray Brown (レイ・ブラウン)

 ペンシルバニア出身のベースプレイヤーのレイ・ブラウンの録音。
 間をふんだんに使ったベースフレーズから始まり、抜きの美学でアンサンブルされた録音を堪能できる録音です。

Michel Camilo (ミシェル・カミロ)

 ドミニカ出身のピアニスト、ミシェル・カミロトリオのライブ録音。
 彼らしい超高速フレーズをカリブ・ラテン・リズムをよりどころに自由自在に泳ぐような演奏は、座って鑑賞しても血が沸き上がるような興奮を覚えます。

Don Byas (ドン・バイアス)

 オクラホマ出身のテナーサックス奏者ドン・バイアスの録音。
 子気味良いテンポ感に伸びやかで渋いサックスの音色、思わず踊り続けたくなるようなスィングのビートが続きます。軽快なリズムの録音です。

June Christy (ジューン・クリスティ)

 イリノイ州出身のボーカル、ジューン・クリスティの録音。大編成のバンドでゆったりとしたテンポにアレンジされています。

Miles Davis (マイルス・ディヴィス)

 イリノイ州出身のトランペット奏者マイルス・ディヴィスの録音。サックスのチャーリー・パーカーも参加しています。

Roland Dyens (ローラン・ディアンス)

 フランスでクラシックギター奏者として活動するローランの録音。
ソロギターでのチュニジアの夜は、ギターの弦を弾くだけにとどまらずボディをパーカッシヴに打ち鳴らす。
 チュニジア出身というのも見逃せないところ。

Bill Evans and Tony Scott (ビル・エヴァンス と トニー・スコット)

 ピアニストのビルとサックス・クラリネット奏者のトニーの録音。
カルテットでみせるビルの演奏も見逃せませんね。

Maynard Ferguson (メイナード・ファーガソン)

 カナダのモントリオール出身のトランペット奏者、メイナード・ファーガソンの大編成バンドでの録音。
 一貫して中南米カリブ海域のリズムあふれるアレンジに終始鼓舞される事間違いなし。

Ella Fitzgerald (エラ・フィッツジェラルド)

 ヴァージニア出身のボーカル、エラの録音。
 6/8拍子と4/4が混合する変拍子で構成されたテーマのアレンジは非常に面白く、艶やかに歌う彼女の圧倒的な音楽性を感じる録音です。

Stan Getz (スタン・ゲッツ)

 ペンシルバニア出身のサックス奏者、スタンの録音。
 綺麗で正統派。ピアノとサックスで展開する優雅な録音です。

 Dexter Gordon with Bud Powell (デクスター・ゴルドン と バド・パウエル)

 カリフォルニア出身のサックス奏者 デクスター と、ニューヨーク出身のピアニスト バド による録音状態の良いカルテットの録音です。

Gigi Gryce (ジジ・グライス)

 フロリダ出身のサックス奏者、ジジの録音。
 鍵盤打楽器と変拍子アレンジされたテーマが特徴的。

Donald Harrison (ドナルド・ハリソン)

 ルイジアナ出身のサックス奏者 ドナルド の録音。
 レゲエ調にアレンジされたリズムが特徴的で全編を通してこのリズムに乗ったアレンジがされています。

Lambert, Hendricks & Ross

 男女三人のボーカルをアレンジしたユニークな録音。
 録音状態も非常に現代的でとても聞きやすいアレンジになっています。

Yusef Lateef (ユセフ・ラティーフ)

 テネシー州出身のサックス奏者。聞いてみると、なんですか??この曲。と曲のタイトルを見直したくなるアレンジから始まります。
 テーマに入ると伝統的なアレンジのJazzが流れ始めます。

Ibrahim Maalouf (イブラヒム・マルーフ)

 フレームドラムを用いた中東色あふれるアレンジ。
 テーマが始まるとそこは「ミッション・インポシブル」の世界観としか表現が出来ない私はまだまだ音を語彙力が不足していると認識した録音。
 レバノン出身である彼の出自を生かしたアレンジ。途中のベース音とトランペットの音色が目立つ部分のハーモニーはなんとも言えない揺らぎを感じます。

Hugh Masekela (ヒュー・マサケラ)

 南アフリカ出身のトランペット奏者 ヒュー の録音。
 太鼓をふんだんに用いた打楽器アンサンブルから始まり、ゆったりとしたテンポの中、彼のロングトーンが響きます。
 一貫したリズムでアレンジされており、この録音からも出自を活かしたアレンジが聞けます。

Bobby McFerrin with The Manhattan Transfer featuring Jon Hendricks

 声だけで作られた"チュニジアの夜"


Wes Montgomery (ウエス・モンゴメリー)

 インディアナ州出身のギタープレイヤー ウエスのライブ録音。
 当時の演奏の様子がよくわかる音源ですね。

Lee Morgan (リー・モーガン)

 ペンシルバニア出身のトランペット奏者。 とてもゆったりとしたテーマからサビのみ早めで構成するアレンジのテーマからソロへと移っていきます。

Fats Navarro (ファッツ・ナバロ)

 フロリダ出身のトランペット奏者 ファッツの録音。
 フレーズは所謂「ジャズ・アフロ」ながらも全編をとおしてswingリズムでアレンジされている。Jazzの多様性を感じる録音です。

Phineas Newborn (フィニアス・ニューボーン)

 テネシー出身のピアニスト フィニアスの録音。
 ソロやテーマなどで何かほかの曲を想像させるような仕掛けを色々と入れてくるとても"教養と知識"にあふれた録音。

Victor Wooten

ベースソロで魅せたソロパフォーマンス

Chaka Khan

 エレクトリックにアレンジされた部分が素晴らしくダンサブルな録音。

Eldar Djangirov

 モダンなライブ録音。3/4でアレンジされているサビ部分が美しく響きます。

おわりに

 まだまだ他にも数えきれないほどの A night in Tunisia があります。
 この楽曲に敬意をもちながら、A night in Tunisiaに対して向き合った世界中の音楽家たちの足跡を垣間見たように思います。
 原曲のイメージが持つエネルギーを翼に変えて昇華させた演奏はとても良いですね。

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