今cakes編集部に問いたいこと

昨年cakesが炎上騒ぎとなり、メディアとしての倫理観を問われる事態となった際に、このような記事をアップしました。

そして昨日から、この記事で言及した幡野さんの人生相談が再度、メディアとしての倫理観を問われ、批判を大きく受けている現状があります。

昨日から色々考えてこの記事をまとめることにしましたが、
公開に至った一番の動機は、「このまま無言でnoteを利用し続け、cakesで連載復帰を果たすことを疑問に思う読者の方もいるかもしれない」ということ、そして「cakesに掲載している作家陣への対応」に対して、今思っていることを残しておきたいと思ったからです。

現在問われている幡野さんの人生相談に関する倫理の是非や、未成年に対する大人の責任としてどうなのか、という部分については、個人的にとても思うところがあるのですが、今回はその部分よりも編集部の対応という部分にフォーカスして言葉を述べさせてください。

昨年、cakesは3度の炎上を経験しています。その中に、幡野さんの連載も含まれています。

cakes編集部は、再発防止の取り組みのために以下のように述べています。

再発防止策
・編集部のチェック体制、掲載フローの見直し
・公式SNSの運用ガイドライン見直し
・客観的にご意見をいただくためのアドバイザリーの起用
・編集部および全社でのDVやハラスメント、差別などの問題に関する勉強会の実施
・専門家へのインタビュー記事の掲載
・DVやハラスメント、差別など、さまざまな問題を考えるコンテンツの掲載

この一環として、幡野さんは専門家の信田さよ子さんと対談し、担当編集とともにインタビュー形式での記事を掲載していました。

この記事自体はとても良い記事で、信田さよ子さんは『中立の立場で聞こうとすると被害者の話は嘘に聞こえてくる。それは「中立」が実はマジョリティの立場に立つということだから。』といった専門家ならではの経験知や、『無自覚な暴力性を持たないためにできることは、マジョリティにあぐらをかいていることをマイノリティの突き上げでしか知ることができないので、誠実な対応を重ね身近な人の話を聞くこと』と仰られています。

この対談で幡野さんと担当編集の大熊さん、そしてcakes編集部の倫理観のアップデートを読者は期待していたと思うし、この対談があったからこそ「なぜ?」という気持ちが今回の炎上につながっていると感じます。

具体的には、幡野さんが未成年の相談者に子供らしく無責任でいることをアドバイスすること自体は悪まではいかないと思いますが、「無責任でいい。話をきくことしか今できないかな」という結論と同じ選択肢として、「もし本当に事態を変えたい場合、ネグレクトやデートDVにあたる場合があるので、児童相談所もしくは相談できる機関へのアクセス」も併記しておくことを編集部ができたのではないでしょうか。この相談だけでは、未成年の相談者がどこまで行動を起こしたいのか、本気度はわからないので、通報を焚きつけて当事者になることを勧めるのも無責任だという考え方はわかります。
ただ、本気度がわからないからこそ両方の選択肢を伝えた方がいいのでは?とシンプルに考えてしまいます。
そのバランスをとる機能をcakes編集部に求めるのはおかしいことでしょうか。結果的に、それができなかったことで「社会的弱者の話をコンテンツとして消費するメディアだ」と言われても仕方がない気がします。
「再発防止策」で皆が期待していたことは、おそらくそういう部分だったのだと私は思います。

そして、そもそもなぜこの質問をとりあげたのか?という部分に対して編集部に一番問いたいです。
私も含め、昨年のcakesの一連の炎上を受け、cakes掲載作家は一部ジャンルの題材を扱うことができなくなり、連載を打ち切られたり、あさのますみさんの記事掲載を取り下げたり、ネタがボツになり書き直しや書き足しを要求された作家さんもいます。
そういった負担を他の作家さんに強いる中で、幡野さんの人生相談はなぜこの質問をとりあげたのでしょうか。
私たちに「このテーマは今のcakesでは扱うことはできない」と言う対応をしていた編集部にとって、「未成年の友人の彼氏が避妊しないセックスをしていること、家庭環境が劣悪なこと」に対する相談と回答は扱うことが可能なテーマだったのでしょうか?
私は掲載作家としてあまり納得がいかないので、私個別でなくていいので、掲載に関わった方がオフィシャルに判断の根拠となった理由を説明していただかないと納得ができないです。

そして、cakesは有料会員の方の月額課金が私たちに原稿料という形で反映されます。cakes編集部が信頼を落として、有料会員離れを招くたびに、しわ寄せが来るのは今cakesに残っている掲載作家たちです。
もちろん私たちには連載を辞めるという自由意志があります。最終的にはその権利がありますが、生活が懸かっている作家だっているわけだし、他の媒体に移るとなったら何か月も準備が必要になります。色んな背景のクリエイターが参加しているからこそ、その選択肢が持てない方もいると思います。
cakes編集部には炎上で媒体への信頼を損ねることは、掲載作家に一番しわ寄せが来るということをもっと認識してほしいです。

私個人の話になりますが、ちょうと猫育児も落ち着いてきたので、cakes連載復帰のための準備や作画の調整をしていた時期でした。
復帰の際は新しい魅力を作品で発信していきたいと考えていたので、試行錯誤していた矢先のこの出来事に、創作への気持ちが一気に削がれて真っ暗な気持になりました。
再発防止策の発表を受けて、今後の編集部のアップデートを期待し、cakesという媒体で私が今後何ができるかに集中しようと思っていたので、その期待が崩れ去ってしまったことも残念でした。

今連載復帰しても、読者の方が喜んでくれない可能性すらあるな…ということをとても今憂慮しています。
似たような思いの作家さんが、ひょっとすると他にもいらっしゃるかもしれません。そういうクリエイターの気持ちに、向き合ってほしいです。
なので、私はcakes編集部に変わってほしいと思っている、とこの記事で伝えたくてまとめることにしました。
昨年末に復帰に向けて打合せをした際は、担当さんととてもいい話し合いができたので、その時の気持ちを作品にしたいと思っています。

読者の方に伝えるべき私のスタンスとしては、
私の担当編集さんの対応に納得ができる限りはcakesやnoteを利用し続けたいと思っています。ただ、もう課金したくない方もいらっしゃると思うので、別の方法も並行して考えようとは思っています。
今言うべきことではないですが、cakesで連載していて、他の媒体にはない良い対応を受けたこともありました。
そのことをすべてcakes編集部という組織のカテゴリだけでざっくり評価して決断したくないなと私は思っています。

何も言わずに離れる、という選択肢ももちろんありますし、人によってはそれが大人な対応だと評価されるのかもしれません。多分私は、関わっている人の顔を知っているからcakesにまだ変わる期待をしたいんだと思います。
「社会的弱者をコンテンツとして消費する倫理観のメディア」ではないと思いたいし、それを誠実に目指してほしいです。

他の方にこの意見を押し付けたいとか、他の作家さんに同調してほしいという心はありません。ただ個人的な要望を記録としてまとめさせていただきました。立場が違うと意見も違うと考えていますし、人権問題を軽く見ているつもりもありません。飽くまで私が見聞きしたものを前提としたうえでの、私個人の今の考えだと思っていただければ幸いです。

いただいたサポートはすべて原稿製作・設備保守・資材投資・スタッフへの外注費として作品をつくるために使用させて頂きます。