見出し画像

沖縄振興計画(素案)に幸せが増えた件

先週は久しぶりに沖縄滞在。このコロナ禍なのでほぼ家にこもってましたが、沖縄県振興審議会離島過疎地域振興部会の会議日程と重なったので、久しぶりにリアル会議に出席できました。昨年はすべてリモート参加で、リモートはリモートでもいいけれど、リアルはリアルでうれしいものですね。

そんな会議のこと、島嶼学の権威である嘉数啓先生に座間味村の宮里村長ほか財界学界の委員方の隣に学歴希薄な自分が混ざりこむときの野良猫感は何年経ってもぬぐえませんが、私のような人間の意見も取り入れてくださる沖縄県のおおらかさに感謝しつつ、この日も沖縄県の次期振興計画素案について話し合いました。

画像3

私の生業は編集者で、専門は日本の島を中心に、スモールコミュニティ、そこに生きる人と地域づくり、情報コミュニケーション、教育、人材育成あたりが守備範囲です。

なので、意見も観点もそこに寄っていますが、会議の数日前に渡されていた2022年〜2031年版振興計画(沖縄21世紀ビジョン)の素案資料を確認すると、そこに「幸福」「SDGs」の文字がたくさん並んでいたので、じわじわうれしくなりました。

言葉尻を追いかけるのは職業病ですが、私が委員を拝命している沖縄県の会議でいえば、沖縄県振興審議会(=沖縄全体の方針を検討する会議)だけじゃなく、新たな離島振興計画策定に向けた有識者委員会(=沖縄の離島地域の方針をさだめる会議)でも、多様な人材育成に関する万国津梁会議(=沖縄全体の人材育成の方針を定める会議)でも、沖縄県地方創生推進会議(=沖縄全体で行われている地方創生関連交付金事業の効果検証をする会議)でも、資料に「幸福」の文字がみられなかったので、意外に思いつつ、ひそかにもやっとしてました。

税金をつかって実行する事業では、事業の成果目標(いわゆるKPI)を示しにくい文言はそもそも記載しにくいのだろうと理解してますが、私を委員に入れてくれるようなおおらかな県ですし、イチャリバチョーデー(一度あえば兄弟)にチムグクル(肝心)など、心のありようをあらわすすてきな言葉がたくさんあって、それが沖縄の良さでもあるので、行政計画の最上段に「島人の幸せ」があっても良さそうだと思っていたわけです。

そこで職業病がでて、現計画資料をPDFでワード検索したところ約170ページのうち「幸福」が出てきたのは2ケ所のみ(あくまで自分調べ)。

似た意味の「満足」はもう少しみられたけど、言葉の意味として、満足は「不平がないこと。十分に満ち足りていること」で、幸福は「不自由や不満もなく心が満ち足りていること」なので、満足だけだと「心」への配慮が足りない印象......。

子どもたちが大好きな鬼滅の刃では、主人公の炭次郎も「人間は心が原動力だから!」と言ってたし......。ここは心を大事にする沖縄だし、やはり「幸福」にこだわりたいと感じる自分。

なので、一昨年から参加しているこの会議で、ちらちらと「幸福」の記載について意見させていただいていました。

そして昨年の秋、令和2年10月「沖縄振興審議会総合部会専門委員会調査審議結果中間報告」資料をみると「沖縄経済社会の現状と課題」の課題に

「GDPや経済成長率、一人当たり県民所得等の指標の重要性は変わらないが、今後は幸福度やSDGsなど、必要に応じて新たな尺度を取り入れていくことも課題」

と書かれていて、ふふふと思っていたところ、今年でてきた次期振興計画素案には「幸福」が14ケ所も登場したので、とてもうれしかったわけです(もちろん、意見しているのは私だけでなく、たくさんの委員や県職員の叡智による結果です)。

画像1

鬼滅の炭治郎のように鬼と戦ってはいるわけではありませんが、自分が幸福にこだわりたい理由には、沖縄への願いがあります。

九州育ちの自分は20代前半くらいまでは、沖縄にはちゅらさんに出てくるようなニコニコ可愛く、愉快で、いつも幸せそうな島人がいっぱいいるんだろうなぁとふんわり思ってました。

でも、20代後半でリトケイを立ち上げ、その後、ウチナーンチュの家族ができて、一時は沖縄県民になり、じっくり沖縄を知っていくとそれだけではなかった。

どの島も壮絶な戦争を乗り越えていて、地元紙に戦争関連の記事がのらない日はなく、基地をかかえる地域には特有の困難があり、シマチャビといわれる離島苦にオーバーツーリズムがあり、子どもの貧困率もおそろしく高い。

底抜けに明るいイメージと、目耳をふさぎたくなるような現実が、ひとつの島のうえで共存する沖縄には、その両義性のなかで強く、明るく、心を大事に生きる島人がいるわけで、那覇で子育てをしていた頃は、そんな沖縄社会の中で生きる人を尊く思いながら、その暗闇にどう役立てるのかわからず落ち込む日もありました。

画像2

リトケイ的な観点でも愛しの島がたくさんある沖縄は、個人的には夫や子どもたちの大事なふるさとでもあり、大好きな人が数えきれないほど住んでいます。なので、自分が仕事で沖縄の役に立てるとしたら、そうした皆の幸せに貢献したい。

だから、沖縄県が掲げる振興計画のように大事な方針には、しっかり「幸福」の文字が記載されてほしかった。加えて今はSDGs(持続可能な開発目標)の達成も前提条件。

「幸福」に加え、あちこちの項目がSDGsで補強されれば、少なくとも次期計画が履行される2022年からの10年間は、沖縄県がすすめるあらゆる事業が、人の心や島の自然に配慮した形で行われることになるから、まわりまわって自分の仕事でも、沖縄に住む人の幸せに貢献しやすくもなるわけです。

ちなみに、リトケイを通じて島々から教えてもらったことのひとつに、

「島暮らしは競歩ではなく共歩」

という言葉があります。

教えてくださったのは西表島に住む女性で、自分が言語化できていなかった島で生きる人の感覚のすばらしさを、このひとことが解してくれました。

ここでいう「共歩」は持続可能な発展(いわゆるSDGs)を求める上でも大事な感覚といえ、仮に、世界中でまきおこってきた「競歩」が地球の持続可能性を低くしてきたとすれば、世界中が共歩を目指すことで持続可能性を高められるかもしれません。

愛しの沖縄が掲げる県の振興計画はまだ素案なので、引き続きの会議で「幸福」「SDGs」のゆくえをじっくり追いかけていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?