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ノニの肝毒性の噂はどう広まったのか?

日本医師会は「ノニについて」というポスターを制作し、医療機関に配布しました。

内容をまとめると、以下になります。

■副作用については不明
■妊娠中に摂取してはいけない
■母乳授乳期の安全性については、情報が十分ではない
■多量のカリウムを含んでいるため、腎臓病患者の方には有害
■肝臓病のいくつかの症例と関連性がある。肝臓病患者の方は、摂取を避けるべき


これだけを読むと、大変危険なものに聞こえます。ノニ自体は伝統的に食べられてきたものです。ポリネシアでは子どもを授かるために食べる慣習もあります。タヒチの大統領は訪日した際、「日本は少子化だから、ノニジュースを飲んで小づくりに励んで」なんて冗談を言ったこともあります。

「妊娠中に摂取してはいけない」と言われると、ポリネシア人はびっくりすることでしょう。加えてEU(欧州連合)のノベルフード認証も受けており、科学的にも安全性が担保されています。いったい、なぜこのように不安を煽るポスターを作成し配布するのでしょうか?

ウコンにも注意

日本医師会はノニを目の敵にしているわけでなく、植物素材の健康食品に対し注意を促しています。ノニだけでなく「ウコン(ターメリック)」も同じように扱われ、注意しています。

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日本医師会のポスター。ウコンは伝統的に食品として利用されてきたが、健康食品では成分が濃縮される。高濃度の成分が健康被害を及ぼすかもしれない。


ある種類の健康食品は、薬に作用します。肝臓の分解酵素が活性化される(つまり、「デトックス」される)ことにより、薬の効果が弱まることもあります。セントジョンズワート(西洋オトギリソウ)はその一例で、ワルファリン(血液凝固抑制剤)を含めたいくつかの医薬品の効果を減少させることが知られています。

また、処方される薬よりも、サプリメントを選ぶ人もいます。「サプリメントを控えよう」と説く医師の気持ちも分かります。

では、医師会のまとめた「ノニについて」は事実を正確に反映しているのでしょうか? ここでは肝臓毒性と肝臓保護作用について、研究結果を共有したいと思います。

ノニの肝毒性を発見?


「ノニの肝毒性」を検索すると、「ノニが肝臓を損なう」という情報が見られます。ノニが肝臓を保護するという論文もあるのですが、「ネガティブな情報」は「ポジティブな情報」より広まりやすいため、情報が偏ってしまいます。

実際、ノニの肝毒性を疑う論文は存在します。

2005年、World Journal of Gastroenterology誌に発刊された「ノニジュースの肝毒性: ふたつの症例」というケーススタディです(参照)。オーストリアの医師により報告されています。

この記事をまとめますと:

▪️29歳男性の症例:上気道感染の治療後、急性肝炎を発症。その後、漢方とノニジュースを試す。3週間後、急性肝炎を発症、肝臓移植手術を受ける。
▪️62歳女性の症例:白血病の患者。化学療法により完治するが、三年後、吐き気と下痢により入院。検査の結果、急性肝炎だと診断される。4ヶ月の間にで2リットルのノニジュースを飲んでいた。
▪️ノニジュースとの関連:この二件はノニジュースを摂取後、肝炎を起こしており、私たちが初めて報告をする。ノニジュースには多様な成分が含まれており、なかでもアントラキノン類(ダムナカンタール、モリドン、ラビアディン)が肝毒性を引き起こす可能性が高い。
▪️医師は注意を!:詳細な研究が望まれるが、医師はノニジュースの肝毒性に注意を払うべきである。 ” HEPATOTOXICITY OF NONI JUICE: REPORT OF TWO CASES ” WORLD J GASTROENTEROL. 2005 AUG 14; 11(30): 4758–4760.


日本医師会の「ノニについて」はこの記事をもとに「肝臓病と関連する」と注意を喚起しています。

メーカー側の反駁


この記事にノニジュースのメーカーがいち早く反応しました。「論理的でない」という論旨です。

■どちらのケースも他の疾病を抱えており、ノニジュースと肝炎の因果関係を示唆するのには無理があるのではないか。

■アントラキノン類が肝炎の原因ということだが、ノニジュースにはアントラキノン類は含まれていない。発酵・製造過程でなくなってしまう。

■動物実験では8 mL/kgを与えているが、肝臓毒性は認められない。これは60kgの成人に換算すると、4.8リットルに相当する。

■臨床試験では1日750mlのノニジュースを飲んでもらっているが、肝毒性は観察されなかった。このケースレポートでは男性が1日160mlを消費し、女性が1日16mlを飲んでいた。


ヒトを対象にした安全試験。ノニジュースを飲んでもらい、肝臓の数値(ALP、ALT、AST、ビリルビン、GGT)を測定する。6週間を経過しても肝臓機能が変化することはない。

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参照:World J Gastroenterol. 2006 Jun 14;12(22):3616-9. Noni juice is not hepatotoxic.


EUノベルフード委員会の反駁


タヒチアンノニジュースはノベルフード認証を受けていました。

「ノベルフード」とは、EU(欧州連合)の制度です。ヨーロッパにて一般的な食習慣のない食品は、登録を行う必要があります。

チアシードやバオバブなど他の国で食べられていても、欧州の食経験がないものも登録が必要ですし、アスタキサンチンなどサプリメントの成分にも登録が必要です。

登録には厳しい安全性試験が課せられます。 Wikipediaによると「安全試験費用は制度が始まった当初は10億円以上かかったが、現在は1千万円ほどになった」とのことです。これほどの費用がかかる安全試験を求めているわけですから、ノベルフード認証を受けた製品に肝毒性があるのならば、制度の沽券にかかわります。

そこで、ノベルフード委員会は、安全試験のレビューを行い、ノニジュースの安全性を再確認し、発表しています。

結果:パネルメンバーは急性、亜急性、慢性毒性試験と、遺伝毒性、アレルギー性試験の結果を確認した。毒性学の観点からこれらの試験は適正に行われており、追加の試験は不要であると考える。
パネルメンバーは現在の情報を基にノニジュースの消費が肝臓に悪影響を及ぼすことがないと結論付けた。急性肝炎と今回の症例報告には納得できる根拠はない。 THE EFSA JOURNAL (2006) 376, 1-12


ネガティブな情報はポジティブな情報を上回る


このように「ノニに肝毒性がある」という論文は、メーカー側と欧州連合のノベルフード委員により否定されました。

しかし、一度掲載された論文は削除されることなく、インターネット上で検索・閲覧ができます。この情報を利用し、悪意ある噂を流す人もいます。

一方、「ノニに肝毒性があるという論文は誤りである」という論文もインターネット上で閲覧できます。それどころか、ノニに肝臓保護作用があるという論文もあります。興味深いところは、これらの情報は拡散されないということです。

参考資料:肝臓保護作用の論文

Hepatoprotective effects of naturally fermented noni juice against thioacetamide-induced liver fibrosis in rats. (J Chin Med Assoc. 2017 Apr;80(4):212-221)
Hepatic protection by noni fruit juice against CCl(4)-induced chronic liver damage in female SD rats (Plant Foods Hum Nutr. 2008 Sep;63(3):141-5)
Hepatoprotection of noni juice against chronic alcohol consumption: lipid homeostasis, antioxidation, alcohol clearance, and anti-inflammation. (J Agric Food Chem. 2013 Nov 20;61(46):11016-24)
Regulation of glucose metabolism via hepatic forkhead transcription factor 1 (FoxO1) by Morinda citrifolia (noni) in high-fat diet-induced obese mice. (Br J Nutr. 2012 Jul;108(2):218-228)

参考動画: 毒性の噂がたったとき、対応に当たったブレット・ウエストさんのインタビュー

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