マガジンのカバー画像

完全版奴隷日記

14
映画業界・映画を教える高等教育機関で実際に私が経験したことを、ノンフィクションでお届けするシリーズ。
運営しているクリエイター

記事一覧

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#13】

昨日までの記事、長々とご愛読ありがとうございました。キリよく全10回にまとめようとしていたのですが、色々と描写を削っていくうちに、 「映画業界の実情を話すのなら、カットしちゃいけないんじゃないか」 と思うようになり、結局全13回となりました。 私がこのハラスメント体験記、奴隷日記というのを書き始めたのは、2020年の夏にまで遡ります。このnoteに活動を移行させる前、個人ブログにて多くの反響を読んでいたシリーズで、noteに移行させる上で、このシリーズだけはきちんとした

有料
200

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#12】

突然のクビ宣言!昨夜の胸糞悪い居酒屋のことは、すっかり忘れているアキさん。いつものように早朝、アキさんとJ太郎を乗せ、現場に直行する。この頃には、駐車場での長時間待機も慣れたもので、アキさんのいない隙にコンビニでジャンプを買ったり、仕込みで買っていた小説を読みながら過ごしていた。悠々自適、明日には撮影休日で大阪に帰れる。いい気分だった。 昼時になって、J太郎が入ってくる。 J太郎「お疲れ〜!暇やろ〜、飯休憩やって」 飯場に向かった。J太郎は周りのスタッフに可愛がられてい

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#11】

※今回の記事では、差別用語が複数出てきます。ありのままの事実を伝えるためのものです。差別を助長させるためのものではありません。読んで不快になる方も、存在するかと存じますが、ご承知の上でお読みくださいますと幸いです。 無人の居酒屋、明日が終われば撮影休日前回の1000円事件から一夜明け、J太郎が金を払った日の夜の事。 本作品の現場では、新型コロナウイルス対策として、全スタッフ・キャストに外食禁止令が出され、現場でのマスク着用や、手洗い消毒の徹底管理が為され、現場に入る人間に

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#10】

訣別の狼煙、周到なJ太郎!前回の記事から数日が経った日のこと。この日は現場へアキさんだけを送っていった。その後、私とJ太郎は別シーンの家の掃除に向かった。清掃の他に、仕込みの美術(家具)を買い出し、運び込んだ。ずっと愚痴を吐いてはいたが、作業だけは手を止めず続けていた。そんな我々は、反逆の狼煙を上げる。 この日、アキさん抜きでの作業途中、ナガサワさんが遊びに来る。彼も美術助手としての仕事がない一人だった。実際には仕事はあるのだが、何度も言うように、ギャラを払いたくないが為に

有料
200

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#9】

激動の一日、それぞれの空前日の酒も覚めぬまま、「今日はクランクイン」と、意気揚々と起床した。散々な仕込み期間を終え、ようやく訪れたクランクインだ。 が、私は前日から「次の場所の仕込みの買い出し」をナカと共に仰せつかっていた。買い出しとはいえ、朝の6:00に店は空いていないので、ナカはまだ寝ていた。名古屋までお使いを頼まれていたハチ子も、同じくまだ起床の必要はなかった。J太郎とアキさんと恋ちゃんは現場組だったので、私は彼らを送るために同じ時間に起床した。 アキさん凡ミ

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#8】

深夜の爆走、タイムリミットは日の出までに前回の予告通り、クランクイン前日の深夜の居酒屋の話を始める前に。 その前日の夜のこを書こうと思う。私は前作『濡れたカナリヤたち』の映画祭出品の締め切りのために、大阪に戻らなければならなかった。当初は3日間だけの愛知滞在予定だったが、それが延びに延びたことが要因だ。 私「大阪戻らないといけないんですが」 アキさん「なんや」 私「カナリヤの件で」 アキさん「それやったら今から帰るか?あ、でもそれじゃこっちが動かれへんなるなぁ。夜に

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#7】

美術予算問題ハチ子たちが来て2日目のこと。私が愛知に来て、5日目のことだ。クランクイン前日であり、アパートの仕込みに監督チェックが入る日だった。前日に間に合う算段はついたとは書いたが、その算段は、あくまで7:00~22:00の労働を前提としている。やはり早朝から作業は始まり、ここまで5日連続15時間労働を繰り返した我々は、かなり疲弊していた。その日の昼飯で事件は起きる。もう何度目の事件かわからない。 この日も昼飯をとばして作業を進めた我々は、空腹と疲労感一杯の中、15:30

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#6】

モラハラ・アルハラ・暴力暴言は湯水のように私たちが愛知の現場に入って2日目の終わりのお話。1日目に続いて、我々は居酒屋”世界の山ちゃん”に行かされることになる。確かに無理矢理連れて行かれるのは、至極面倒だったが、お酒もアテもたらふく食わせてくれるので、まぁいいかと思っていた。しかし、いつもの気前のいいアキさんは、そこにはいなかった。 この日J太郎は、美術助手に就いていたナガサワさんというおじさんと1日の大半を過ごしていた。アキさんとは違う美術の人間と初めて絡んだからか、アキ

有料
200

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#5】

いざ愛知到着!アキさんの司令の元、愛知の商業現場へ向かう道中、美術準備の大まかなスケジュールやクランクインの時期の話を受け、ようやく私とJ太郎は、作品の全貌を理解し始める。が、そこで出た宿泊場所が今後大きな問題を孕むことになる。 当初の説明では、急遽私の参加が決まったため、ホテルが取れないという事だった。そのため最初の数日間は、現場近くの寺の宿坊で寝泊まりするとの説明を受けた。しかし、いざ到着し、プロデューサーと制作部チーフのマキさんに会うと、どうも様子がおかしい。どういう

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#4】

産学協同映画クランクイン!ついに、問題だらけの産学協同映画がクランクイン。この現場では、数人の「プロ」で活躍するOBが演出部や制作部のチーフを務め、その他の部署でも各部署の先生方が学生に教えながら現場が進む。監督領域も8人体制で各シーン分担していた。 カメラこそ学生が回すものの、その構図やカット割は基本的に教授陣が行う、誰が主体かよく分からぬ映画だ。無論、監督が八人もいるのだから、一貫した作品になる由もなく、1日1日全く異なる手法で演出付けされる俳優部も、それに合わせる技術

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#3】

2019年秋、J太郎が遂に爆発する。そろそろ外でダベるのがしんどくなって来た季節の話。この頃、一つ上の先輩、スナフキンと私とJ太郎の三人でよく一緒にいた。スナフキンは卒業後、東映に入社する美術部の先輩で、ポンコツながら愛嬌のある人間で、「飲みに行こうよ〜」と纏わりついてくる姿が脳裏に残っている。いつも木陰から手を振っていた印象があり、私は彼をスナフキンと呼んでいた。見た目は完全にアカルイミライの浅野忠信だが。やはり黒沢清が好きなようで、美術監督の安宅紀文さんを崇拝していた。

有料
200

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#2】

夏きたりて、セット完成!!『濡れたカナリヤたち』クランクイン約1週間前、ずっと付きっきりだったラブホテルのセットがようやく陽の目を浴びる。途中で何度も怒られながら、殴られながら、そして時には孤独な作業を強いられながら、遂にJ太郎はセットを完成させる。嬉しさの余り、予定に無かったセットでの「テスト撮影」を行い、照明を仕込み、俳優部も呼び、本番さながらの予行演習が行われた。セットをスタジオに建て込み、イメージ画と殆ど同じ見栄えになったセットを見て、 「俺、やってみてほんまに良か

映画業界 ハラスメント体験記【奴隷日記#1】

アキさんと出会った2019年春私がアキさんと親しい間柄になったのは、2019年春のこと。我々は当時、大学3年生だった。それまでは、単なる大学の先生という認識くらいで、ほとんど話したこともなかった。 当時の授業内課題で制作することになっていた、映画『濡れたカナリヤたち』において、ラブホテルのセットを作ろうと画策し、アドバイスを求めに行った事から、交流は始まった。セットを作らないかと私に提案したツイマ君、そして美術志望のJ太郎、私の三人で学内スタジオに赴いたのが始まりだ。以下、

”お前らはタダで働く奴隷” 【映画業界 ハラスメント体験記#0】

はじめにアップリンクの浅野氏によるパワハラ問題の告発に端を発し、続々と映画業界の労働環境を是正するよう求める声がSNS上に溢れている。それはプロフェッショナルとして働く映画製作の場においても例外ではなく、あろうことか高等教育の場に於いても例外ではない。死にゆく現代日本の映画業界とは、こういったハラスメントや暴力暴言・ほぼ無給とさえ言える給与形態、それを甘んじて受け入れている若者がいてこそ成立しているのだ。 今回は、私の実体験を記そうと思う。今後、映画業界で食っていこうとする