大黒ネズミ

「ヌシさん、見かけはりませんでしたぁ?」

 不意に足元から関西弁な声がした。ボクは飲もうとしていた牛乳のコップを微妙な角度で止めたので、チョビっとだけ口の中に入った牛乳が、ノドの変なところに流れて咳き込んでしまった。

「昨夜、ウチん家の家守りさんと遅ぉまで呑み散らかして、ご機嫌さんで酔ぉたまんま、出立してしまはりはったみたいで。気になって見回ってみたら、案の定、大事な小槌、忘れて行かはりましたんやわぁ」

 ランドセルを背負ったまま、牛乳を持ったボクの足の間に、丁度産み落としたみたいに、デッカイ、ネコくらいのサイズの白いネズミがボクを見上げていた。多分、理科の教科書とかに出てくる、ハツカネズミ。目が真っ赤な。でもサイズがハンパなくデカい❗️

 袋みたいな丸い赤い帽子かぶってるし、肩に柄の短い、木のトンカチを軽々と担いでるし。チョロっと見えてる前歯が長いし、困ったように口がへの字になってるし。

 どう反応していいのか分からなくて、固まったままのボクに、デッカイ白のハツカネズミは、ため息をついて目を逸らした。

「しゃぁないわな、追いかけまひょ」

 そう言うと、白ネズミは、トンカチ担いだまま後ろ足で立ち上がって廊下に走り出した。見てみると、玄関のドアに突っ込み、そのまま、消えて。

 とりあえず、牛乳を飲み干して、空のコップに水を溜めて、シンクに置いた。そうしておかないと、母さんのカミナリが落ちる。コップを出した食器棚のガラス戸も閉めておかないと。

 雑貨好きの母さんが、出かけるたびに買ってくる置物が、家中、ダイニングにもいっぱい並んでいる。なんで食器棚の中に置くのかなあ、っていつも思うのが、今年の干支の置物。赤い袋みたいな帽子かぶってニカッて笑ったシロネズミ。かわいいんだけどね。

 おっと。牛乳パックも冷蔵庫に入れておかないと。

 先に宿題か、遊んでからか。

 いや、オヤツ、まだだった❗️

 


 

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