スーパーマン
ふわっと視界が白い。
カーテンが揺れていた。
目を覚ますとすぐに看護師が来た。
起きたね〜とか気分どう?とか聞いてくる。
よくわからなくてぼーっとしていた。
しばらくすると
男性の医師が来て、私の手を握った。
これから傷を縫うからね。
私の左手は親指の付け根と
甲側の手首に大きな傷があった。
昨夜は応急処置をしたらしく
ホチキスのようなもので傷口が塞がれてあった。
先生はニコニコしながら(マスクをしていたからよくわからないけど、多分ニコニコしていた)
傷を丁寧に縫っていた。
先生はなぜか
自己紹介をした。
救急の医師です、と。
救急の先生って大変なんじゃないのと私は聞いた。
「僕はスーパーマンになりたかったんだ」
「救急の医師はね、大きな病気は治さないけど、ほんの少し、命をつなぐことができる」
「瀕死の患者さんでさ、もう絶望的な状態だとしてもさ、僕たちがどうにか、1時間でも、1分でも延命させてあげられたら。
ご家族や身近な方が看取れるかもしれないんだ。
最後に言葉を交わせるかもしれないんだ。
温かい手を握り合えるかもしれないんだ。
何もしなければ叶わなかった最期の僅かな時間をね、過ごしてもらえるんだよ。
スーパーマンな気がしてね。」
穏やかにニコニコしながら語っていた。
世の中にスーパーマンがいるなんて知らなかった。
気づけば左手は縫い終わっていた。
医師は
神経に傷がついているから、
痺れたり、動かしにくいと思う。
でも、時間をかけて、ゆっくりゆっくり、痺れも無くなってくると思う。
と言った。
さらに
傷は残るけど、キレイに縫っておいたから大丈夫。
と自画自賛するように言って
二人の空気が一層和やかになった。
医師が去り
その他一通りの処置が終わると
看護師が「ご家族来てるわよ」と母を呼んだ。
隣に姉もいて、何故か同期も一緒だった。
母も姉も疲れた顔をしていた。
夜中に呼び出されたのだから当然だけど。
良かった、良かったとホッとしたように
どんな言葉をかけて良いのかわからず混乱しているようにも見えた。
詳しいことは恐らく何も分かっておらず
私が刺されて運ばれたという
曖昧な情報に
さぞ不安だったろうなと思う。
私はなんだか
ハイテンションに
よく笑っていた。
これが、刺された翌朝の話。