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【Event】第2回 メタバース総合展【夏】 meta NEXT 問われる「次」のメタバースの在り様

 2024年7月3日から5日まで、東京都江東区の展示会場である「東京ビッグサイト」にて、RX Japan株式会社主催の「第2回 メタバース総合展【夏】 meta NEXT」が開催された。
今回の記事では併催された「第4回 XR総合展【夏】」も併せて会場に出展している幾つかの企業を取り上げ、その内容を元に業界の様子を追いかけていく。


多様化するデバイスと高機能の追求

 最近ではxRやメタバースという言葉が「知る人ぞ知る」という時代から少しずつ「知られてきている」状況となっている。
様々なデバイスからアクセス可能なコンテンツが増える中で、産業用途やコミュニケーション用途、あるいは生活を豊かにする為のガジェットとしてより高品位かつ低負荷な物の追求が行われている。
今回の会場ではデバイスそのものに関しても幾つかのメーカーが出展を果たしており、コンテンツも含めて興味深いソリューションを提示している企業を挙げてみる事にしよう。

 「日本XREAL株式会社」の提供する製品「Air 2 Ultra」や「XREAL BEAM PRO」は会場で長蛇の列が形成されており、早々に整理券が捌ける程であった。
これは同社の手掛けるARスマートグラスと、それをサポートするスマートフォン様のデバイスである。
元々開発・提供されている「XREAL BEAM」は単眼のモデルであったが、BEAM PROは50mmの幅で2つのレンズが搭載されている。
これを用いる事でAirシリーズのディスプレイの精度を上げたり、より自然な立体視映像の撮影が行えるというのである。
このガジェットはその機能に特化している為、いわゆるスマートフォンの様な音声通話機能は擁しておらず、データ通信にのみ対応している。
つまりは2つセットで十全に機能するものと見て良いだろう。
なお、Xbox GamepassやSteam Linkといったクラウドゲーミングサービスにも対応しており、大画面でゲームを楽しみたいというユーザーにもうってつけのガジェットとなっている。
娯楽を一歩先へ進めたいというアーリーアダプターには垂涎ものではないだろうか。


 「SKYWORTH XR」は今回独自のデバイスである「PANCAKE」シリーズを主軸に参戦。
従来モデルである「PANCAKE 1」はSnapDragon XR Gen1を搭載したMicro-OLED 5Kというスペックながら跳ね上げ式、かつスタンドアロンで動作可能というモデルであった。
そこに今年発売予定となる「PANCAKE 2」が新たに登場したのである。
同モデルはSnapDragon XR Gen2を搭載しOLED 8Kかつカラー映像のパススルーにも対応。
それでいて跳ね上げ式ながら重量は250gと極めて軽い。装着には後部のヒンジを締める必要があるが、HMDユーザーであればお馴染みの「鼻の隙間から外の様子を伺う」事なくハイクオリティな3D体験が保証されるのは嬉しい事である。
ハンドトラッキングにも対応しているという念の入れようであり、価格はPANCAKE 1は750$、2は1500$と高品位なHMDへの対抗馬としてはだいぶ安価に仕上がっている。
何より跳ね上げ式で軽量というのは思った以上に装着感が薄く、またバッテリーを外部から有線で給電するモデルも提供予定との事である。

纏うファッションとしてのアバターと外から交流するコンテンツのインパクト


 今回のイベントにおいて会場入口付近に陣取り、他のブースとは一味違う和風の落ち着いた構成を打ち出していたのは「株式会社 大丸松坂屋百貨店」である。
J.フロント リテイリングの完全子会社である同社は、百貨店としては老舗にあたる大丸と松坂屋の両店舗の運営を中核としている。
そんな同社は以前からVRChat等のアバターを用いたコミュニケーションサービス向けに、高価格高品質のハイブランドモデルを販売。
「正装として」着ていくアバターの触れ込みは伊達ではない完成度の高さに、これまで直接展開し得なかった百貨店ブランドのアバター事業参入という要素も合わさって大きな話題となった。
今回は展示会イベントに際し、自社ブースに販売アバターの原画を展示。
それだけでなく、他のブースが割と原色のビビッドな色合いで展示を行っているところに和の空気を生み出す様な枯山水の様な苔むした岩を玉砂利の上に設置。
ブースにも暖簾がかかり、木目調をベースにした壁を配置するなど同社の落ち着いたブランドイメージを前面に押し出していた。
結果として多くの人が足を止めると共に、「あの大丸松坂屋がこの領域に参入している」という文化認知の向上にも繋がっていた。
今回の展示では装飾チームにも協力をしてもらった上でこの形になったと担当者は語っており、まさしく訴求力の高さを売りとする同社の戦略が見事に響いたと言っても過言ではないだろう。



 アバターの使い道という点で、xR文化に全く馴染みのない一般人を釘付けにしていたのは「ミラクルマイル株式会社」のブースである。
同社のサービスである「RxVU(アールビュー)」は、元々別々の機能を持つソフトウェアを一つに統合して生まれたものである。
同社が手掛けた3Dオブジェクトを空間に配置するツール「PINTO」と、3Dモデルと現実空間上で擬似的にコミュニケーションを取れるソフト「MARINE」を一体化させたもので、リアルタイムにAR空間の模様替えをしながらその風景を仮想空間上で同期させ、相手とコミュニケーションを取ることが出来るという変わった機能を持っている。
その最大の特徴は、会場内での交流デモですぐに発揮された。
会場の仮想空間上には二人のバーチャルYouTuberが待機しており、参加者はゴーグルを被ってリアルの空間に展開するバーチャルYouTuberと文字通り「交流」出来るのである。
その効果は抜群であり、参加者は眼前の可愛らしいバーチャルYouTuber相手に黄色い声援をあげながら頭を撫でたり屈んでハイタッチをしたりと、あたかもそこにいるかの様な反応を見せていた。
もちろんこの交流は遠隔地からの接続で成り立っている為、ハイクオリティなモデルを遅延なく動作させるだけの最適化が必要になる。
こうした努力の果てに生まれる双方向コミュニケーションは思った以上の効果があったのか、その様子を見た参加者から「メタバースのメの字も知らないが、やってみたい」という話があったとは関係者の弁である。

必要な次の受け皿へ

 先述した様に熱を帯びつつあるメタバース・XR界隈ではあるものの、その一方で昨今先行きに対する懸念の声が上がっている。
ゲームの開発環境においては昨年でソースにより異なるものの、6500人と報道する声もあれば10000人がレイオフの対象となったとある他、VRChatでは社員のうち30%をレイオフするというメールが公開され、メタバースプラットフォーム「Cluster」を運営するクラスター株式会社は2023年12月期(第9期)の決算において最終損失が18億6700万円となるとの報道がされている。
また意欲的なタイトルとして知られる「Hi-Fi RUSH」の開発元であるTango Gameworksの閉鎖も発表されるなど、業界全体が大きな変革と脅威に晒されている。
今回そこについて食い込んだコメントを寄せたのは、ホール入口付近での展示を行っているクリエイター企業「株式会社アオミネクスト」だ。

 同社はメタバースを活用した事業に対するコンサルティングや開発といった事業を主軸としており、独自のメタバースプラットフォームである「Planeta」を開発し展開を行っている。
その事業の幅は広く、自治体や官公庁、企業のみならず通信制高等学校である「学校法人青叡舎学院 勇志国際高等学校」の「メタバース生」の企画を担当。卒業者が全日制高等学校と同様に高校を卒業したものと見なされるという、日本初のアバターを利用した教育カリキュラムの実現に一役買っているのだ。
このシステムについては現状、通信制大学や高等学校のいずれもなし得ていないものであるが為に大きな注目を集めている。


 そんな同社の担当者が語るのが、メタバース業界における風向きである。
どういった事業も資金を回収し、事業を継続していかない事には最終的にサービスが立ち行かなくなり終了してしまう。
それは新しい文化圏として定着しつつあるメタバースという領域においても同様である。
先述したVRChatやClusterといったサービスが抱えるマネタイズの困難さがある一方で、近似的なサービスであるREALITY株式会社が運営するバーチャルライブ配信サービス「REALITY」は黒字を叩き出している。
株式会社アオミネクストも自社のサービスであるPlanetaを今後一般向けに展開する予定はあるそうだが、その決断の背景には万が一であるが大手のVRSNSサービスが倒れた場合に、その後の受け皿の不足が予見されるからであるとの事だ。
もちろん既存のサービスと同様のサービスを提供できるかは未知数であるものの、出来る限り文化を継承し残していくに足るサービスが増えれば、企業は変われど文化が「継続する」可能性は大いに出てくる。
VRChatのヘビーユーザーが立ち上げた企業なだけあって、業界の風向きとそこから先を見据えたビジネスに鋭く切り込んでいくのは流石と言える。

見えてくる次のメタバースの立ち位置

 本記事では多くの企業を特集してきたが、これまでのXR総合展やメタバース総合展の様な「新規事業としてメタバースを立ち上げました!」というだけの企業は今回淘汰された様に見える。
その一方で地に足をつけた、メタバース業界という地盤にどの様に軸足を置いていくのかを定めている企業が多く、業界に対する理解度がかなり高まっているのではないかという印象である。
その一方でデバイスの利用法としてはまだまだARやVRの危険予知といった事業しか一般的ではなく、幾つかの企業はそういった事業に寄り添う展示であった。

 しかし今回展示している企業の要素を見てみれば、「軽量かつ高性能で割と安価なHMD」「リアルタイムで空間をカスタマイズし、アバターとリアルの身体を交流可能とするシステム」「メタバース空間に着ていけるハイブランドなアバターモデル」「学校といった企業活動以外の実用性を見出すビジネスモデル」など、メタバースという領域を大きく後押しするものばかりであった。
「アバターモデルを踊らせました!」「展示会場を作りました!」という、システムや箱物だけをアピールするある種の刹那的な消費と生産のあり方ではもはや事業としては立ちいかず、しっかりと継続するに値する価値を提示出来なければ企業としては「負け」に入るのではないだろうか。
現在半導体の需要に対する生産の復調が予定されている中で、改めて注目されていくメタバースという領域は、生半な「オワコン」程度の技術ではなく確たるコアを持った「フロンティア」としてまだまだ価値が見いだせる市場となりそうだ。

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