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【Event】バーチャルマーケット2024Summer 一般展示ワールドレポート

 2024年7月20日から、同年8月4日の期間中にオンラインVR対応SNSサービスである「VRChat」にて、株式会社HIKKYが主催する「バーチャルマーケット 2024 Summer」が開催されている。
今回の記事では、一般参加者が出展出来るワールド「Groove Ground GraffCity」「魔女の森ノクトール」「The Alter Vista」「灼壁の皇城ゴリベグ」「九龍帝国城下町 捌番街」「フォールンエデン・オルタ」「籠岬村」の七箇所を紹介する。


Groove Ground GraffCity ストリートでキメるグラフィティ

 「Groove Ground GraffCity」はサムネイルからもにじみ出るようなポップ感が特徴のワールドだ。
グラフィティアート、ヒップホップ、ストリートカルチャー、スケートボードがキーワードとして上がるこのワールドの特徴は、何と言っても「ヒップホップ」である事だろう。
往年のゲーム作品として「ジェットセットラジオ」というタイトルを知っているならば景色の理解は早く、最近では「Hi-Fi RUSH」にも見られる様な、景観のカラーを極度に高めて配置するビビッドな雰囲気はまさにストリートカルチャーとしてイメージされる要素と近しいものと言って良い。

 ワールド内では独自のギミックとして複数箇所にペイント可能なスプレーが配置されており、指定された範囲に吹きかける事でグラフィティアートを描きだす事が出来るようになっている。
ゴキゲンな効果音やエフェクトと共にストリートを自分色に染める事が出来るのは、まさに仮想空間ならではのやんちゃ行為だ。
ストリートを進めば大型のDJブースや跳ねまくるローライダーに道路をチェイスする車両、各所で踊りまくるキャラクター達や薄暗く入り組んだ路地などが次々に現れる。
最後の最後では壁面に巨大なグラフィティアートを描き、自分の存在をしっかりとタギングするという大一番が待っている。
常にハイテンション、ノリ良くリズム良くストリートを駆け抜けてポップなアバターやファッションを見つけてみるのはいかがだろうか。


魔女の森ノクトール 夢に囚われた先の案内人

 「魔女の森ノクトール」はその名の通り、今回のVketにおけるファンタジー枠を受け持つ会場の一つである。
こちらはいわゆる剣と魔法のファンタジー、あるいは森、ユメかわに魔女、多少の人外アバターや発光植物といった幻想的なカテゴリのものが多く出展されている。
このワールド独自の要素として、バーチャルマーケット2023 Winterの「竜の背中」ワールドにも出てきた謎の生物「ムーイ」が相棒として探索に加わる事になる。

 ワールド自体は一直線の導線となっているが、ところどころにムーイにそっくりな生物たちが泡に囚われて眠っている。
彼らを起こしてやる事がこの世界を突破する鍵であり、夢に囚われてしまった飛空船を取り戻すために必要な手段だ。
浮遊する蝶やクラゲ、巨大なキノコに鬱蒼としたほのかに光る森を抜ければ、ちょっとした村や遊園地の様なちぐはぐな場所を通る事になる。
最深部で待ち構えるのは、その名の通りこの領域一体を夢の中へと引きずり込んだ「魔女」である。
果たして主人公とムーイはこの夢から脱出出来るのか、是非ともこのワールドに点在する幻想的なアバターや出展品を纏いながら、幻想からの脱出を果たしてみるのをオススメする。


The Alter Vista 現実と仮想が交差するモール

 「The Alter Vista」は現実のショッピングモールを舞台にした様な、静謐感あふれるワールドだ。
キーワードとしてアバター、ファッション、リアクロ、ショッピングモールという言葉が入っている事からわかる通り、アバターやファッションアイテムの中でもより現実的な衣服に近しいものを主軸とした、いわゆる「オシャレさ」を全面に打ち出した構成となっている。
なおキーワードとして脱構築主義という言葉も入っているが、これは脱構築主義建築という既存の建築概念に囚われない新しい建物を生み出す思想に即したものであり、現にこのワールドの大半は曲面の壁や通路が中心であり建物を支える柱を無くした独創的なデザインとなっている。

 ワールドはエントランスの様な所からスタートし、そこから階段を登ったところで庭園を擁したフロア入口に差し掛かる。
このワールドの形状はすり鉢型になっており、下から上へと登っていく過程で各ブースを見ていく事になる。
ブース自体は接近した所で覆いが格納され中のブースが見えるという構造になっており、ワールドにおける描画負荷を抑えるとともにどのブースも覆われている事で不自然さを与えない一石二鳥の仕組みと言えるだろう。
ブースのあるフロア付近にはそれぞれ花の名前が付けられるオシャレ感もさることながら、このワールドでは幾つかあるフォトブースでギミックを用いて撮影する事で自分のアバターが「本の表紙」になる仕掛けがある。
最上階にあるランウェイでは、上記ギミックで撮影したものがポスターとして表示されるという要素もあり、各所にあるミニチュアでのアバター確認ギミックと共に、自分の推しているファッショナブルなスタイルを見せつけてみるのも良いだろう。


灼壁の皇城ゴリベグ 火焔と若干のモフモフが舞う城塞都市

 「灼壁の皇城ゴリベグ」はワールド名からある程度想像がつくだろうが、現在も噴火しマグマ吹き上がる火山地帯に作られた都市が舞台となっている。
活火山やマグマ、大地の恵み、動力機関に製錬技術に軍事帝国というキーワードから分かる通り、ワールド全体として鉄と炎の香りが強い雰囲気が特徴だ。
モクリというワードが入っている事から分かる人もいるだろうが、今回のバーチャルマーケットにおけるモクリワールド枠がここであり、ファンタジー枠のアバターでもよりパワフルな印象を受けるものが出展していたりもする。
モクリ達が生活する大陸、マホラ全土を併呑するべく強硬な姿勢を取り続ける軍事国家こそがこのゴリベグなのだそうだ。


  ワールドは宿場街から鍛冶場を経由し、城内の各所をめぐりながら様々なモクリ達が暮らす様子を見る事が出来る。
ワールド内は独自言語で構成された看板が至る所にあり、軍事国家という割にはきちんと市場などもある事から、ゴリベグにおいてはある程度市民の生活は保証されているようである。
なお溶岩内に潜む生物を釣り上げるミニゲームも遊べたりするのだが、デスクトップモードではいまいち遊びづらい仕様のため出来ればVRモードで入る事を勧めたい。
極彩色の鉱床を抜ければワールド最深部のゴリベグ全体が一望出来る高台に出るが、その奥にはトロッコがありワールドのバリエーションごとに違った案内役とトロッコに乗ることが出来る。
「灼壁探訪」ではすっかりお馴染みのペチカさんがガイドだが、「皇城稽古」ではゴリベグにおける軍事部門の担当者と見られるダオタオさんが案内をしてくれる。
貴重な男性ボイスモクリの案内とあれば、その手の皆様には非常に需要がある。是非この火焔と熱気に彩られた鉄の王国を、隅から隅まで回ってみるのはどうだろうか。

九龍帝国城下町 捌番街 ダークアジアンテイストの奥に潜むディストピア

 「九龍帝国城下町 捌番街」は、バーチャルマーケット3から続く「九龍帝国城下町」シリーズのワールドとして最も新しいエリアとなる。
サイバーパンク、工場、軍需、重機械、人体実験といったキーワードを通して見えてくる通り、今回のVketにおける機械やSF担当のワールドがここにあたる。
これまで地上や施設といった開放感あるワールドを中心とした九龍帝国城下町のシリーズとは違い、今回のワールドは主に通路や地下、機械群といった場所を進む事になる。

 ワールドに降り立てば薄暗く汚さも目立つ秘密の通路が広がっている。
スピレッシと名乗る何者かの通信を受け、潜入をサポートするスパイギアを相棒としながら九龍帝国に潜む暗い噂を検証しに潜入を果たすのが目的となる。
早速見えてくる料理屋らしき場所ではロボットが調理を行っており、一見すればそのメニューも「蕎麦」等の表記から美味しそうに見えるかもしれない。
そんな光景を見ながらスパイギアの助けを借りて潜入を続けると、怪しげな液体が流れるフロアや探し人のポスターが貼られた壁面、触れれば恐らく無事では済まないレーザーシャッターなどをくぐり抜ける事になる。
その先のビルに囲まれたフロアで先程の蕎麦らしき食べ物の組成がスパイギアによって判明するが、その内容は是非見て頂きたい。おおよそディストピア飯とすら呼べない凄まじいモノとなっている。
フロアを駆け抜けた最深部には「シミュラクラ」と呼ばれるこの世界における労働力の確保元にまつわる秘密の情報と、それを実現する為の研究施設があるが、その先で待ち受ける物についてはこのワールドでSF・ディストピア感あふれるアバターを見つけて潜入捜査度をより高めてみると良いだろう。

フォールンエデン・オルタ 箱庭の楽園と追放劇

 「フォールンエデン・オルタ」はバーチャルマーケットに足繁く通っている方ならおわかりだろうが、バーチャルマーケット2023 Winterで出展ワールドとなった「フォールンエデン」の直接的な系譜となるワールドである。
SF、幸福、統制、理想の世界というキーワードが並ぶ通り、世界観としては前回のフォールンエデン同様にAIに管理された楽園という風体となっている。
もちろんワールドそのもののギミックも変わっておらず、「アイン」「ソフ」のバージョンでは10m四方の規模のブースが出展でき、「オウル」では50m四方という超大型ブースが出展可能となっている。

 ワールドに降り立つとそこはフォールンエデンと変わりない様相ではあるが、一部のポッドが破損、落着しており天井部の照明もところどころ点滅している。
さらに入口をくぐった先の様子は大きく変わっており、青みがかった落ち着いた雰囲気の前回から一転して赤色の巨大な光球が頭上に浮遊した不穏な空間となっている。
ブース内ではアインとソフは6種、オウルは4種のチャンネルからブースを切り替える事ができ、前者では展示ブースを持たないデータについては合同一括展示区画を設ける形となっているのも今回変わらずといった状況だ。
一番の変化は選択時のアイコンやイメージアートにグリッチの様な文様が入っており、あからさまに現在の稼働状態がおかしい事を伝えてくる。
そして全てのブースを一通り表示し終わった際に、フォールンエデンについての真実を知る事が出来るのもまた前回と同じ流れとなっている。
しかし前回は知恵のリンゴをかじり、箱庭の外に「穏やかに」出る事ができたが、今回明かされる真実はより直接的な物となっている。
フォールンエデンが何なのか、前回のフォールンエデンと今回のオルタの間でどれだけの時間が経過しているのか、そのうえで「箱庭から出るか否か」を選ぶ事が出来る。
プリントされたブースで安楽な生活に戻るか、それともまだ見ぬ領域を目指して管理の外へと足を踏み出すのか。前回以上に直接的となったこの問いの先は、あなた自身に委ねられている。


籠岬村 上質なホラーと「おこもりさま」の恐怖

 「籠岬村」はその名の通り、日本の村をモチーフにしているワールドである。
とはいえ今回のキーワードは異変、都市伝説、ひなびた寒村、再開発といったワードに加えて地神、因習に行方不明に神隠しと本当に穏当ではない要素がずらずらと並んでいる。
今回の日本や東洋風、あるいは妖怪や怪異といったアバターやファッションアイテムがこちらに並んでいるが、ブースによってはワールドへの溶け込み具合が非常に高く、筆者も公式か非公式か判然としにくいものが幾つもある程であった。
それ程までにこのワールドの作りは本気さを感じるものである。

 籠岬村は「居守祭り編(こもりまつりへん)」「惹子守り編(ひきこもりへん)」の2つのバージョンが存在し、今回のバーチャルマーケットのワールドの中で明確に「2つのワールドを跨ぐギミックがある」という大掛かりな物となっている。
まず居守祭り編では村を訪れる日時が1981年7月20日の夏であり、青々とした草が茂る道路に繋がるトンネルをくぐると籠岬村付近へ到着する。
「ようこそ籠岬村へ」という大きめの看板や建設反対の文言が踊るバリケードやポスター、所々に貼られている不穏な空気を醸し出す看板達、道なりに進めばどことなく色褪せてうらぶれた住宅の数々が見えてくるなど、これだけでももう寂れた田舎感が良く出ている。
特産品の籠を称賛する声や所々に落ちている手記から、籠重工業(こもりじゅうこうぎょう)という企業の開発に対し村は反対しているとの背景事情が分かる。
その途上に「新悟(にいご)」という少女から、村の外の人間であるという事で興味を持たれる。


 こじんまりとした籠岬商店街やその先の惹籠宿(ひきこもりしゅく?)を抜けた先に、またも新悟の姿があるが、その言葉はどこか警告めいたものである。
その先にある村唯一の神社の参道「籠参道」で、村の神社である籠岬神社の巫女「巫羅乃(ふらの)」から挨拶を受ける。しかしその姿は各所に貼られた尋ね人のポスターに写る少女と非常によく似ている。
奇妙な石像を見ながら参道を登れば、その先は屋台が並ぶ籠岬神社へと続く道だ。
注意深く周りの人々の話を聞いたり手記を読んでいれば、この村に派遣された開発推進派の籠重工業の折衝役である親子2名が心を砕いており、行方不明となっている人物は「市子(いちこ)」という名前である事が分かるだろう。


 この籠岬神社の奥には「ホラー演出がある事を示す警告看板」が立っており、その先のエリアへ進むとややグロテスクな描写と共に「武威血統(ぶいけっとう)」という血筋に繋がりがある「おこもりさま」の存在がほんのりと示される。
一見「なんだこれだけか」と思うユーザーもいるかもしれないが、別バージョンである惹子守り編に繋がる関連性の高い場所であり、重大なヒントが転がっている重要な地点でもある。

 惹子守り編では居守祭り編では明らかにならなかった「おこもりさま」と、失踪者である市子という少女の足取りと顛末についてが明かされる。
村を訪れる日時が1980年12月02日となっており、村は冬の居守祭りの真っ最中となっている。
そんな状態の村に向かうトンネルの出口付近で、唐突にピンク色の髪の毛をした少女の姿を見る事になる。
しかし不意に少女の姿は掻き消えてしまい、村人たちは黙るか笑うばかりでまともに会話ができそうな人はいない。
建設反対の立て看板の近くでは、恐らく籠重工業から村に派遣されたであろう家族の一人、市子の父親が娘の姿を探している。昨夜からその姿が見えないという事らしいが、それでは村の入口で見えた少女の姿は一体誰なのであろうか?

 村の中には新悟の姿もあり、彼女も市子の姿が見えない事を心配し探しに出ているとの事である。
市子にそっくりな姿の巫羅乃の挨拶もどこか状況に合っていないなか、参道や神社の境内のところどころで不意に現れては消える市子の姿を目撃する。
そのまま彼女は境内の奥、居守祭り編では開いていた扉の辺りまで歩いていったようだが、惹子守り編では頑丈なダイヤル錠が掛かっていて先に進めそうにない。
このダイヤルに関するヒントというよりは正解のナンバーが居守祭り編でしっかり明かされているため、必要であればそのナンバーを控えた上でこの場所を訪れると良いかもしれない。
そして鍵を開けて洞窟の奥に進むと、居守祭り編とはまったく違った場所に出る事になる。
その先の展開については、ホラー要素に耐性があるならば是非最後まで進めていって欲しい。

 今回のこのワールドは特に高い評価を得ているようで、その理由の一つであるホラー要素についてはストーリーライタースタッフとしてホラーアドベンチャーゲームとして定評がある『コープスパーティー』の生みの親であるKEDWIN氏こと祁答院 慎氏が参加している事からその質の高さが分かるだろう。
2つのワールドを巡るギミック自体はバーチャルマーケット2023 Winterの「ワールドエンドユートピア Reboot」でも見られたが、今回はホラー要素専門の別エリア扱いでワールドを区切っている。
惹子守り編で該当エリア通過後にリスポーンをしようとすると、通常のワールドのスタート地点ではなく「該当エリアの最初の地点」にしか戻れず、エリアを抜けるまではワールド移動やVRChatの終了などの手段以外では決して逃げられない状況を生み出す徹底ぶりはさすがとしか言いようがない。
その上で真綿で首を絞めるどころか最終的に絞め落とす様な終わり方も相まって、おおよそイベント向けに開発されたワールドとは思えない、商用ゲーム相当の完成度である点も外せないだろう。

導線の最適化とコンテンツの広がり

 今回の一般展示ワールドはどれもクオリティ高く仕上がっていたが、場所によっては今まで以上に物語性の強いワールドの構造となっており、それでいてそこまでオブジェクトが多すぎず情報量としては控え目となっている。
会場を見て回るのに優しく、それでいてしっかりと楽しめるギミックを仕込んでいる辺りにだいぶ制作が熟れてきた技術力の高さが見え隠れしている。
もちろん企業展示ワールドについては魅力あるコンテンツは多いものの、一般展示ワールドにおいてもその質は変わるものではないという事を確かに示した形となった。
2024年8月4日まで開催されているバーチャルマーケット2024 Summer、是非一般展示ワールドの濃密な要素も巡ってみてはいかがだろうか。決して損はしないはずである。


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