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【EVENT】株式会社タカラトミー 月面に踏み出す子供の夢の軌跡

2024年2月19日から21日にかけて、東京島江東区の東京ビッグサイトにて日刊工業新聞社主催の「2024国際宇宙産業展ISIEX」が開催された。
本記事では出展者の一つである株式会社タカラトミーの展示している「SORA-Q」について記載していく事にする。


月面に降り立つタカラトミーの探査メカ

 宇宙空間という環境は、地球では考えられない様々な要素を含んでいる。
降り注ぐ放射線、惑星や衛生上での地球と違う重力環境、大気の組成といったものは我々の暮らすものとは大きく異なったものとなる。
そんな中で我々にとって身近な天体といえば、地球の衛星である月だ。

 地球の6分の1の重力であり、大気が殆ど無い為寒暖差が非常に激しい。
表面温度は平均マイナス23度、直射日光による高温下では122度とこれまた地球と比べ過酷である。
こういった惑星を探査する為、かつては有人探査が積極的に行われ、そして今は無人探査機の投入が世界各国それぞれの国が先を競いあう状況だ。

 そんな中で2024年1月20日、日本の探査機であるSLIM(小型月着陸実証機)が月面へのピンポイント着陸を成功させた。
そのSLIMに搭載されていた月面探査ロボットの一つ、LEV-2が今回株式会社タカラトミーがISIEX会場にて展示している「SORA-Q」である。

手を挙げた先の高いハードルとレゴリス

 日本も月面を探査するための子機の計画が2015年からスタートしており、その当時は「昆虫型の形状を有した探査機器」というもので募集が行われた。
そこに手を上げたのが、株式会社タカラトミーである。
昆虫型というと同社が展開しているホビー群の一つ「ゾイド」シリーズが有名であり、二足、四足だけではなく多脚歩行を可能とする軽量なロボットの設計には相当の技術があった。

 しかし時期が進むと多くの制限が掛かってくる事となる。
まず重量については300g以内と非常に軽い中で、様々な機能を搭載し月面で稼働するだけのスペックが求められた。
更に搭載するサイズも10cmと小型にした上で、投入の際の衝撃に耐えられる構造である事も必要となる。

そして何よりも月面において厄介となるのが、その表面―――惑星上表面に無数に存在する非常に細かい粒子の砂「レゴリス」である。
このレゴリスは小麦粉程の細かさとなっており、呼吸器に入り込めば「月面花粉症」というくしゃみやかゆみを伴い、機械や宇宙服にも入り込むリスクがあるものである。
特に駆動する機械において、タイヤの経が大きければ問題にはならないが小型の機器であればその細かさ故に空転を引き起こし全く動けなくなってしまう。
小型の探査機を悩まされるのがまさにこのレゴリスによる駆動機構の選定であった。

 これを一挙に解決したのが、株式会社タカラトミーのSORA-Qである。

ホビー企業が全力を

 軽量かつ衝撃に耐える機構として選定されたのは球形の構造であった。
これを肉抜きしながら重量を減らしつつ、必要な強度を確保する事に成功した。
しかしそれだけでは駆動の為のサイズが確保できないという事で、株式会社タカラトミーが打ち出したのは「トランスフォーム」であった。

 同社が展開するホビー「ダイアクロン」シリーズから海外へ羽ばたいた「トランスフォーマーシリーズ」は、乗り物や兵器、動物や昆虫といったものがロボットへと追加パーツ無しに変形するという高い技術水準で整形された代物である。
これを応用し、本体内部に変形と移動を兼ねたモーターを搭載。
直径約8cmの球体が拡張し左右に半球を備えた内部機構が露出するというサイズアップを成功させた。
これにより駆動に必要な最低限の体積を確保したのである。

 更に問題となる最大の要素、レゴリスについても走行に問題とならない機構を搭載。
アイディアの源泉として、砂浜におけるウミガメの赤ちゃんが一目散に海に向かってひた走る様子に注目。
本体が移動する際の車輪の軸をわずかにずらす事で、バタフライの様なストロークを行い移動する機構を開発。

 このストロークを実現させる秘訣として、同社の展開するホビーシリーズ「ゾイド」に搭載される歩行の為の機構がある。
移動の際に左右の軸をずらして移動する「偏心軸」という設計により自然な歩行動作が可能となっており、この技術を用いた同シリーズ内でのゾイド「シールドライガー」を始めとした四足歩行ゾイドの自然な歩行は大きな魅力の一つであった。
当時展開していた同名のアニメ作品内で駆け回る姿と相まって、子供の心を虜にするだけのディテールと挙動の良さを持っていたといっても過言ではないだろう。
その技術を投入した結果、問題となるレゴリス上での動作も問題なく行えるようになったのである。
なお会場には限定品のJAXAスーツ着用リカちゃんも展示されており、実は密かな人気があるとの事だ。

 LEV-2として月面へと投入されたSORA-Qは250gという軽さながら撮影と通信に必要な機器を搭載し、月面を駆動し、自律移動し最適な写真を撮影し中継用の機材であるLEV-1へ送信するというミッションを無事成し遂げたのである。
もちろんこの成功の裏にソニーグループや同志社大学、JAXAの協力があったのは言うまでもない。
月面に逆立ちをしながら立っているSLIMの姿を写し、自分の車輪も少し写した「プチ自撮り」は、日本の宇宙探査における輝かしい一歩を踏んだのである。

手のひらにある月と未来

 現在株式会社タカラトミーでは、手に入りにくい状況ではあるもののSORA-Qの一般販売モデルも生産している。
これは重量180gかつ月面探査仕様と比べ材質は少々異なるものの、スマートフォンをコントローラーとして変形・操縦出来るという機能を備えている。
本体に搭載されたカメラを使ってリアルタイムで映像を見ながら操縦出来るハイテクなホビーとなっている。

 これまで実現しなかった「月面にある物と同じモデルが手に取れるし、エピソードを説明できる」というSORA-Qのもたらした功績は、宇宙に関する興味を子供に持ってもらうのにもってこいである。
今後アニメ作品など、新しい展開を行えないかと模索中であるとは担当者の弁である。
「宇宙なんちゃら こてつくん」の様な先行事例もあることを考えれば、今回の話題性も相まって可能性は非常に大きいのではないだろうか。

 これまで子供達に夢と希望とSFの世界を見せてきた株式会社タカラトミー。宇宙に偉大な足跡を刻んだ同社の次の一歩に、関係者から大いに注目が集まっている。


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