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嘘つきM子ちゃん

M子ちゃんは、小3~小4の頃のクラスメイトでした。
顔は可愛いし、老舗料亭のお嬢様だったしで、ステイタス的にはモテモテのはず…なんですが、あの頃からボチボチ出始めた「アトピー性皮膚炎」で、そして小4にして九九すら出来ないという壊滅的学習能力などなどで、虐められこそしていませんでしたが、皆から遠巻きにされていました。

しかも、M子ちゃんは「嘘つき」でした。

曰く、
アメリカ人の従兄弟「ルーチェ」君がいる。
そして自分はハーフである。
なので自分の家でも靴を履いて過ごしている。
アメリカに行く時に、飛行機から落ちて雲に乗った事がある。
「ルーチェ」とは、当時流行っていた車の名前だし、それ以外も聞くだにウソと判る話です。
そして、これは小学生には許せない由々しい事です。

しかし私は、ゴム飛びが上手くて、ピンク・レディーの振り真似が上手いM子ちゃんが、なんとなく気になっていました。

確か…あれは、小4の頃の学力テストで、九九のプリントがいつまでも解けず、半泣きのM子ちゃんのプリントを手伝ったのがきっかけだったように思います。
それから、家の方向が同じだったというのもあり、いじめられっ子の私とM子ちゃんは一緒に下校するようになりました。

そして、その下校時に、ルーチェ君の話、雲に乗った話、を、私はいつも彼女にリクエストしていました。

彼女の話は、身振り手振りや擬音が入って、嘘だとしても凄く面白かったので。
そんなある日、彼女が私に、
「こんなウソを、なんでそんなに真剣に聞いてくれるのか?」というような事を言いました。
私は、子供の言葉で、
「夢があって好きだから」と応えたように思います。
M子ちゃんは、何故か走って帰ってしまいましたが。

それから、あと数ヶ月で終業式という時期になり…。
小2の6月に、私と母と兄を棄てて蒸発していた父が見つかり…何だかんだとあって、新学期からは心機一転、新しい街で、壊れた家族がもう一度共に暮らす事が決まりました。
終業式の日、担任は「転校の挨拶」さえさせてくれず(宿題をやって来ない子だったので嫌われていたのだと思いますが)そのまま、皆とお別れとなりました。

…引越し当日になって、M子ちゃんだけがお別れの挨拶に来てくれました。
照れくさそうに目を逸らして、
「手紙を書くね」
と。

今でも青空に雲が浮かんでいるのを見ると、時々、彼女を思い出します。

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