ファイル#4 妹のお年玉 9 イルカ 2019年1月26日 18:23 ■「自称探偵シュガーの事件簿」 ファイル№4 妹のお年玉 事務所の電話は今日も鳴らなかった。 探偵への依頼がないのは世の中が平和な証拠。大いにけっこうじゃないか。収入は欲しいが俺は多くは望まない。甘いものさえあれば、それでいい。 家に帰って、母さんのつくったカレーを食べる。もちろん、はちみつたっぷり、甘口だ。飲み物は炭酸ジュース。「あ、お兄ちゃん、それ、私のコーラだから」 俺には中学生になったばかりの妹がいる。それも双子だ。姉のパピコと妹のグリコ。このウルサい方はパピコ。「はい、弁償ね、一万円でいいや」 パピコが掌を差しだす。「バカか、お前は。俺にそんな金があるわけないだろう」「じゃあ、あの財布はお兄ちゃんのじゃないよね?」 振り返ると、妹のグリコが俺の財布から一万円札を抜いている。「ヤメロ。これは探偵としての調査費用だ」 俺は財布を奪い返す。「どうせママからもらったお小遣いでしょ。可愛い妹達に恵んでよ。こんど原宿にいくから、お揃のトレーナー買うの」「知るか。母さんに頼め」「ケチ、ボケ、ハゲ」 パピコが黙ると、次はグリコの攻撃だ。こいつは温和しそうに見えて怖いことを言う。「そういえば、私、部屋に隠しておいたお年玉の残りなくなったんだよね。あれ、お兄ちゃんでしょ。だから返してもらうね。3万円」 妹達の部屋は二階にある。俺の隣だ。だが部屋の扉には防犯カメラがついていて、俺は入れない。「この前、マンガ貸したでしょ。あの中に挟んであったの」「マンガとは『恋する探偵さん』のことか?」「ちがう。『キラキラ恋日記』。これなら、お兄ちゃん読まないと思って、お年玉のポチ袋に入れたまま挟んでおいたの。たしか99頁と100頁の間、ね、パピコ」「うんうん、私も見てた。表に門松のイラストが描いてあるポチ袋だよね」「3万円入ってたけど可哀想だから、その1万で勘弁してあげる」 まったく。ディテールに拘るあまり墓穴を掘ったようだ。「妹たちよ。お前達の話はありえないぜ。シュガーな作り話だってバレバレだ」■クエスチョン:シュガーが指摘する「ありえない」点とはどこでしょう。 ■解決編 俺はこう推理した。 ポイントは1つだけ。グリコが99頁と100頁の間に挟んだと言ったこと。本にそんな見開きは存在しない。1頁目から始まるので99頁と見開きになるのは98頁である。 そのことを指摘すると、双子は強硬手段に出た。パピコが俺を羽交い締めにすると、グリコがわさびのチューブをとってきた。俺の口に流しこむ気だ。俺は善意の気持ちからノンシュガーな妹達に一万円寄付することにした。 俺にとってはティラミスみたいにほろ苦い事件だったぜ。 9