ファイル#5 グリコのラブレター(朗読:いとうじゅん)

■「自称探偵シュガーの事件簿」
    ファイル№5 グリコのラブレター

私の名前はパピコ。これでも妹グリコとともに美人双子姉妹として有名なんよ。
 バレンタインの今日は学校中の男子がそわそわしてた。
 でも私があげたのは一人だけ。
 ウチの甘党バカ兄貴。もちろんチョコには下剤を入れといた。ざまあみろ。
 私と違ってグリコには本命がいた。
 生物部の蛇山くん。
 なんでもカエルの解剖をする彼のメスさばきに一目惚れしたらしい。
 そのグリコが泣きながら教室に戻ってきた。
「グリちゃん、渡せなかったの?」
「ううん、渡したんだけどね……」
 グリコはチョコと一緒に渡したラブレターで、蛇山くんを体育館裏に呼びだしていた。そこで告白する作戦だった。
 ところが蛇山くんは現れず、代わりに同じクラスの井守がやってきて、蛇山くんは来れないと言ったという。
「は、なんで井守がくるわけ?」
「井守くんも生物部だから、蛇山くんにチョコと手紙を渡してくれるように頼んだの」
「じゃあ自分で渡さなかったの?」
「うん、恥ずかしくて……」
 そういえば井守はグリコのことが好きだという噂を聞いたことがある。
「ねえ、グリちゃん、もしかして井守のやつ、グリちゃんのチョコ、こっそり食べたんじゃない?」
「そんなことない。昼休みにちゃんと渡してくれたって言ってたし、蛇山くんが手紙読んでるところも見たって」
「あやしいなあ。じゃあなんで蛇山くんは来ないわけ?」
「井守くんの話だと、どうしても来れない理由ができたって」
「どうしても来れない理由? なにそれ」
「それは言えないって。たぶん他の女子に呼び出されてるんだよ……」
 グリコはまた泣きはじめてしまった。
「落ちついて。グリちゃん」
 蛇山くんが来ないなんてありえなかった。学校中の男子が付き合いたいと思ってるグリコの告白を、あのオタクが断るなんてあるはずがない。
 それに蛇山くんにチョコを渡さないよう、女子全員に根回ししておいた。だから他の女子から呼び出されてるのもありえない。
「あ、もしかして」
 私は気づいてしまった。
「ごめん、グリちゃん、私のせいかも……」
「え? パピコのせい?」
 まちがいない。私が蛇山くんが来れない理由をつくってしまったのだ。

■クエスチョン:蛇山くんはどうして体育館裏に現れなかったのでしょう?
解答編は↓



















■解決編 私はこう推理した。
 断るはずのない蛇山くんが来なかったのは急な体調不良だ。それも好きな子に知られたくないとしたら、原因は下剤だ。
 探偵バカの兄貴が、私のチョコを怪しいと思ってグリコのチョコとすり替えたのだ。そして蛇山くんが下剤入りチョコを食べた。

 男子トイレから出てきた蛇山くんに、グリコはまだ待っていると伝えると、彼は慌てて体育館裏に走っていった。告白は成功した。
 家に帰って兄貴をボコボコにして万事解決。
 私にとってはホワイトチョコみたいに甘い事件だった。