3分ミステリー「自称探偵シュガーの事件簿」file6 密室の取引

『自称探偵シュガーの事件簿』

俺の名前はシュガー。職業は私立探偵。
依頼はまだない。
依頼がないのに探偵なのかって?
ふっ、心配することはない。俺ぐらいになると事件の方からやってくるのさ。

file6 密室の取引

 俺はいまトイレの中にいる。とあるファッションモールの三階。男性トイレの個室で便座に腰かけている。
 おっと、断っておくが大きい方をしてるわけじゃないぜ。妹達の買物に付きあわされて、支払いだけさせられそうになったからトイレに行くといって逃げてきたのだ。
 それにしても、温い便座に尻を温められているとウトウトしてくる。
 だが、事件は俺を寝かせてくれない。
「おいおい、今さらふざけたこと吐かしてんじゃねえぞ」
 その声は隣の個室から聞こえてきた。声からして年齢は30代ぐらいか、中年の声だった。電話で誰かと話しているらしい。
「サガワよ、今まで散々手汚しておいて、もう出来ないで済むと思ってんのかよ」
 なにやら、うんこくさ――いや、うさん臭い話だ。
「いつもみたいに車でさっと運んでくれりゃ、それでいいんだ、簡単だろ?……ほう、家族がいるからムリ、か。言うようになったじゃねえか。あの可愛いお嬢ちゃん、幼稚園だったか?……はん、もう小学生か? 早いもんだな。お前が借金まみれで首が回らなくなってた頃、ありがたい救いの手を差し伸べてやったのは誰だったっけなあ……ああ、そうだよ、俺だよ。俺がいなかったらお前は今ごろ東京湾の冷たい海に沈んでたかもしんねえよな。ところでお嬢ちゃんは泳ぎは得意なのかな? へっへっへ、冗談だって。そんな泣きそうな声出すんじゃねえって。俺はよ、ただお前に、いつも通り仕事やってもらいたいだけだって
 ああ? 
 ったく。そこまで嫌だってならしょうがねえ。よし、今回は五本出そう。違う、ケタが違う。ああ、ウソじゃねえ。そうだ、悪い取引じゃねえだろ。ただし今回はシングルだからな。お前一人でやるんだ。できるな? よし、今すぐ準備にかかれ」
 男が電話を切った。
 こういう話には関わらない方がいい。俺はなるべく物音を立てないように息を潜めていた。
「おい、隣に誰かいるのか?」
 しまった。男が呼びかけてきた。
「今の電話、聞いてただろ? 聞いてたんなら……わかってるだろうな」
 このままでは俺は東京湾に沈められてしまうのか? いや、男の狙いはわかった。こっちにはとっておきの切り札がある。

★クエスチョン:シュガーの切り札とはいったい何でしょう?

解決編は



















■解決編

 今回のポイントは取引内容。男が電話相手のサガワに何を運ばせようとしていたのか? それはトイレットペーパー。男の個室は紙が切れていたのだ。最初にも断っておいたが俺は大きい方をしていた訳じゃない。つまり俺の個室にはトイレットペーパーが残っている。これが切り札だ。

 俺は半分ほど残っていたペーパーをホルダーから抜いて、上から渡してやった。男は謝礼に金を払うと言った。サガワに渡す予定だった金だろう。だが俺は受け取らずに立ち去った。
 レジで待っていた妹達の元へ戻って後悔した。もらっておけばよかった……。

 今回はカレーみたいに香ばしい事件だったぜ。