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Power Titan X’es ~II~

II. Gale-Stream

 グリフは地球の小さな農家に生まれた。暮らしに余裕はなかったが、家族で支え合って生きていた。
 5歳くらいの時に、太陽革命が起こった。成立した評議会は、直ちにケフェウス連合軍との戦いに臨んだ。グリフら家族の生活は一変した。“革命防衛”を叫ぶ評議会の徴用が、農村を貧困に突き落とした——グリフはそう確信していた。
 そのグリフが畑で汗を流しているところに、1人の男が現れた。彼は馬に似た体形の、鱗を持つ動物に跨っており、神秘の光を放ってグリフの眼を引き付けた。
「家族を守る力が欲しくはないか」男は問いかけた。
「欲しい。その力で、国家だの評議会だのと名乗る強盗集団は全部、ぶっ潰してやるんだ」グリフは拳を握り締めた。
「ならば、この精霊に乗って行け」男が指を鳴らすと、馬に似た幻獣から光が分裂し、獅子のような姿になった。「“キングワイルド”——地中に眠る古の機獣が、新たな乗り手(ライダー)を待っている」
 獅子のような精霊が、グリフを機体のもとへ連れて行った。その機体こそ、前週に古代の遺跡から出土したライオン型の有人機だった。
 コクピットに乗り込んだ瞬間、グリフの神経に操縦の仕方が流れ込んできた。グリフは機獣を目覚めさせ、第一の標的——地球評議会館へ向かった。

「こうして見ると、評議会の警備なんて虫けらみたいだな」
 巨大な機獣に動揺する小銃部隊を見下ろして、グリフは嘲笑した。機獣は雄叫びを上げ、会館に飛び掛かった。
 会館を覆う光の障壁(バリア)が、機獣の爪を跳ね返した。
「流石に、本丸は一筋縄じゃいかないか」機獣は標的の建物を睨み付けたまま着地し、勢いで後方に滑りつつも踏ん張った。
 評議会側は大型のメーザー砲を起動した。
「当たるもんか」とっておきの一発を、機獣は難なく躱した。「今度は、こっちのビーム兵器をお見舞いしてやる」
 その時だった。青と緑の光が地面から立ち上り、見たこともない巨人が現れたのは。

——ピスケス、何処にいる——
——アリエスと全く同じ座標——
——“同じ座標”って……どうなってるんだ、俺達は——
——言ったでしょ。これが“エグゼス”——
 巨人の中で、2人の思念が交錯していた。そうしている間に、ライオン型の機獣は口の砲門を開き、エネルギーを溜め始めた。
——アリエスは地球に来たばかりだから、今日は私がリードするね——
「此奴、評議会の手先か」
 機獣が放った強力なビームを、巨人(エグゼス)はまともに喰らった。
「ピスケス!」会館から悲鳴を上げたのは、ハリーだった。
 エグゼスの身体(からだ)は、熱エネルギーに圧されてゴムのように伸びつつ、後方に宙返りして光線を受け流した。
「バカな。彼奴の身体はどうなってんだ」グリフは愕然とした。
 エグゼスは、今度は前方へ身軽に跳躍し、機獣の背に馬乗りになった。
——貴方は誰——ピスケスは機獣のコクピットに向けて思念を送った。——私の仲間を傷付けないで——
「どの口が」グリフは激昂し、機獣は背中からエグゼスを振り落とした。「お前らこそ、俺達から奪ったものを返せ」
——兎に角、機体を無力化しないと——アリエスはピスケスに伝えた。
——解ってる——ピスケスは応じた。——あれは“キングワイルド”。半身換装式だから、ジョイント部分が弱点のはず——
「この野郎」ワイルドは鬣部分から誘導弾を連射した。
——もう直撃はごめんだ——アリエスはぼやいた。エグゼスはすべての弾を避けた。
——慣れてきた?——ピスケスはアリエスに尋ねた。
——お前、後で覚えてろよ——アリエスは呆れて応えた。

 その時、エグゼスの胸に輝く青白い発光体が不安定な点滅を始めた。
——何だ。急に気分が悪くなったぞ——アリエスは困惑した。
——クロッシングコアが弱り始めた。もうすぐ変身が解ける——
「さっきの爪はまだ使えるな」キングワイルドの方も、飛び道具のエネルギーや弾丸は尽きていた。
——ルーピングカッター——ピスケスは念じた。
——何、それ——
——技の名前——
 エグゼスは右手の指を伸ばし、肩の上で力を込めた。指先を中心に、波形(なみがた)の刃を持つ光の輪が形成され、丸鋸のように回転し始めた。
「どうせ胸のランプが弱点だろう。相場は決まってる」ワイルドは後ろ脚で力強く地面を蹴り、菱形の発光体を目がけて鋭い爪を突き出した。同時に、エグゼスも右手を振り下ろして光の刃を投げつけた。
 光刃は空中をカーブし、機獣の背に回り込んだ。鋼の爪が点滅する発光体に迫った時、光刃は機獣のジョイント部を切断した。
「馬鹿な」グリフが乗るコクピットはライオンの額の奥に位置していた。腹部の動力源と頭部の制御機関とが切り離された機獣は直ちにシステムダウンし、それぞれの部位が慣性に従って落下した。

 エグゼスは上空から敵機の残骸を見下ろした。
——何故、躱そうとしなかった——アリエスの思念はピスケスを問い詰めた。
——アリエスの方が早い。実際、間に合った——
——それなら、そうと伝えろ。初めは、お前がリードすることにしてただろ——
——シンクロ率が足りなかったね——

——ライオンフロントでは歯が立たないか——
 グリフの精神に、神秘の男の声が語りかけた。
「あんたか。何なんだ、あの巨人は」
——私も初めて見る。まさか、新たなパワータイタンが生まれるとは——
「頼むぜ。評議会も倒せずに、家の男手まで減るんじゃあ洒落にならん」
——無論、負ける気も死なせる気もない——

「何だ、今度は」評議会館の中から、ハリーが叫んだ。
 無力化した機体のもとに、別の機獣が謎の光を纏って歩み寄ったのだ。その機体は古代神話の“麒麟”にそっくりな形状をしていた。
《やってくれたな、第十の巨人よ》麒麟型の機獣はスピーカーから上空に向けて声を発した。その声は、グリフを導いた男のそれだった。《だが、これは我々の闘いの、そして太陽系評議会の終わりの始まりに過ぎん》
——おいおい。こんなことが、まだまだ起きるってのか——アリエスはげんなりした。
——“キング逆鱗(ニーリン)”まで——ピスケスは一層、事態の深刻さを認識した。
《何者かは知らないが、これ以上は評議会に肩入れしない方が身の為だ》
 そう言い残すと、キングニーリンは両断されたワイルドを妖しげな力で浮遊させ、もろとも神秘の光を放って姿を消した。
 重々しい雰囲気の中、エグゼスのパワーを司る発光体(コア)は限界を迎え、やがて巨人は2つの光に分離して地上に降りた。

「どっと疲れが出たぞ」アリエスは息を切らした。
「私も……もう眠い……」ピスケスは目をこすった。
「ピスケス。無事か」ハリーの声と共に、足音が近付いて来た。
「先輩。お疲れ様です」ピスケスは手を振った。「あ。この人はね、ハリー先輩。大学の皆んなが頼りにしてる、縁の下の力持ちさんなんだよ」
「なるほど。この聖杯(カップ)が出来たのも、その力持ちさんのお陰ってわけか」アリエスは言った。
「そんなこと、普段は言われないんだけどね」ハリーは照れながら言った。
「こっちはアリエスです。さっき、ポラリスから来たばかり」ピスケスはハリーに紹介した。「泊まるところ、無いよね。それに、船も直さなきゃ」
「別に、野宿でも平気だけどな」アリエスは言った。「寧ろ、風を受けていた方が体力の回復も早い」
「とりあえず、研究室に行こう。色々、相談したいからね」ハリーは言った。「2体のキングビーストか……まさか、現代に“キングライダー”が現れるとはな」
 アリエスは溜め息を吐いた。キングライダーとやらのことは全く分からないが、どうやらこの太陽系でも反革命は蠢いているらしい。ポラリス系のハーケンベアーのように、巨大な脅威にならなければいいが——アリエスは憂慮せずにいられなかった。

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