目にした、耳にした芸談あれこれ

「昔松竹座で『らくだの馬』をやってた時に客席で笑いすぎて気の毒に死んじゃった人がいるんです。殺しちゃいけないけど、日本の喜劇は今決して立派とはいえません。思いつきとアドリブとなぐりっこだけじゃ笑う方もその場だけの話でね、喜劇という言葉をつくった曾我廼家五郎サンが、私やロッパにこれからは君たちの時代だといったことがありましたけど、私はこれからは若い者の時代だなんていいません、まだやりますよ」

雑誌「話の特集」昭和四十四年三月号で榎本健一はこう言っている。「片足の芸歴が十七年」、六十五歳の発言だ。この翌年の正月にエノケンは亡くなっている。享年六十六。若過ぎる。とは言え、実際の舞台で見たエノケンは小学生の私には十分におじいさんに見えた。

今では、ベテランが若い者に道を譲らないと言うが、言い換えると揺るぎないベテランもまたいないのかもしれない。このエピソードは永六輔の聞書きと言う形で「芸人」というタイトルで連載されている。記事1ページ、藤倉明治の写真3ぺージという贅沢な構成になっている。単行本「芸人その世界」はこの連載が纏められたのかと思い、当たってみたら別物だった。

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