ゆるゆるなポストアポカリプス

ポストアポカリプス=大規模な災害や戦争によって人類の文明が崩壊し、文明が依存するライフラインが絶たれた世界で人間はどう生きるのかについて描くSFのサブジャンルのひとつ。『終末もの』や『破滅もの』とも呼ばれることもある。 （pixiv百科）

ポストアポカリプスものといって思い出すのは、「北斗の拳」「マッドマックス」あたりのモヒカンがヒャッハーして鉄パイプ振り回して庶民がビクビクしてるみたいなあれが大半かもしれない。
もしくはロメロの（あくまでロメロの）ゾンビものとか。こんな中でも争うのか人よ、みたいな。なんかつらいやつ。
これらも好きなんだけれど、もっとすきなのは
「ヨコハマ買い出し紀行」や「少女終末旅行」あたりの、よく考えたら確実に詰んでるんだけどなぜか日常系のものだ。
「ヨコハマ〜」は最終回ではまだ文明の夕凪で、「少女〜」の最終回はもっと深刻に（生死的に）詰んでるけれど。
でもそこに出てくる人たちは、どうにか日常を送っているし、自分以外のだれかがいるから正気を保ててる。

よくある「もう世界は発展などしなくていい。環境に優しく」「貧乏でも豊かな暮らし」みたいなことを言うつもりはひとつもないのだが（なぜならそれは両方「持てる」人の言うセリフだからだ。持たない人やこれからの若者に押し付けるものではない）、なにか大きく文明が終わるような、寸断された中で他人とそっとコミュニティを築いて生きていく、そんなミニマルな世界。最小単位はふたり。
「ヨコハマ〜」の主役はマスターが戻ってこないアンドロイドが主人公。周辺の人間たちは緩やかに年をとる。最終回では主人公は、さらに後継機種のアンドロイドと一緒にいる（彼女らは人のように考えて人のように暮らすアンドロイド達。多くない）。
「少女〜」の方は、主人公女子二人だ。途中であった数人は多分全員死んだんだろうなと思う。
この二作品に限って言えば、完全に繁殖しようのないメンバーだ。
（余談になるが、こういうときにハリウッド系作品だとどうしても男女カップルが描かれがちだし、なんなら子供世代の後日談みたいなのが挿入されがちなのはやはり文化の差だなって思ってる。ヒャッハーな世界で女子二人は生き残れないだろうなっていうのはわかるんだけど）

荒っぽく言えば、生き物は「食う/寝る/繁殖する」というのが基本だ。そのくりかえしの中で人はちょっと知恵があって文明があり、だからこそ悲喜交交の色々があったのだろうが、いつしか文明が成熟する中で「繁殖しない」という選択肢がでてきた。
それは最小単位二人が同性の場合もあるし異性同士でもそういう場合が多々ある。まあ動物界でもあるから大きくみたらそう言う個体もあるよね、で済む話なんだが、家や血族にとっては大問題だ。
そういう言い方で結婚出産をしないことを責められたことなど、私の半世紀ほどの人生、両手両足じゃ足りないのだが、創作であれ現実であれ人も文明も滅びるし、滅びなくてもピークはすぎ、夕凪の時代が否が応でもやってくる。
もうそんなの早いか遅いかで大概は夕凪後滅びる。
あれだけ権勢を誇っていたローマだってスペインだってイングランドだって足利政権だっていつまでも望月のままじゃいられないのだ。
国がだめなら当然ながら一族も。
そして半世紀ほど生きてて思うのは、夕凪になってからがめちゃくちゃながいんだよ。繁殖して子育てをして半世紀ちょっとで多くの人が入れ替わる過去と今が違うのは、この夕凪の長さなんだろう。

昔のようにシャキシャキ出来ない/昔のように覚えてられない/昔のように動けない/節々いたくて病気がち等を誰かと一緒に許容して行けたら、それでも日常のなにげない楽しみをわけあっていけたら、きっと絶望もせず狂わずにすむかもね、という意味で、最小単位ふたりは理想的。
その誰かを見つけられたひとは、繁殖したかしないかなんてどうでもいいくらい幸せなことだろうなと思う。
それは一族にとっても国にとっても世界にとってもいいこと。認めない理由なんて他者的にもあまり考えられない。

私の血族の話にもどるが、うちは確実に滅びる。これはもう決定事項。
本当墓どうすんの？とかそういう現実は押し寄せてくるが、夕凪の時代が過ぎ、いつか滅びるこの時間を、誰かと共有できてたらなという思いは、今だに心の奥底でざらざらとしている。
若い頃は思いもしなかった。
私にとっての婚姻は、家を継ぐ=繁殖でしかなかったから。
それが嫌で逃げ回っていたという私の発想も実につまらなく浅いものであったな、と今更思っている。

確実に私は滅びに向かっているのだが、このゆるゆるポストアポカリプスのような日常に身を任せて、それなりのところに流れつくつもりだ。
このへんが瀬戸内うまれの楽観主義者なので、対岸なり島なりが絶対ある設定だ。今いる海が実は太平洋で果てしないとか思いもしない。
大丈夫なんとかなる。
あと流れつくならできれば暖かいところがいい。
寒いと死にたくなるもので。