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【高校生向け】ダイガク教授! ー「渋滞学」西成活裕先生ー

【Intro...】
大学に広がる深くて広い学問の世界。
一方、高校の受験勉強で触れる分野や内容はほんのほんの一握り。
今、頭の中にある学部イメージで決めてしまうのはもしかしたら少しもったいないのかも…?探してみれば、案外「本当に自分が興味のある」ことに繋がる学部も掘り出せるかもしれません。

さて、今回はこんな学問が大学にあった!こんな先生が大学にいた!
大学教授インタビュー第1弾、「渋滞学」の第一人者、西成活裕先生にお話を伺いました!へぇ~!となる研究の話から、研究者志望の大学生にもヒントになるような話、「ある言葉」を言わなくなるゲーム……話題が縦横無尽に駆け巡る、ジェットコースターインタビューとなりました(笑)

👏インタビュイー 西成活裕(にしなりかつひろ)先生 <プロフィール>
数理物理学者。東京大学先端科学技術センター教授。専門は、数理物理学、渋滞学。10 企業との共同研究は 100 社以上。
東京五輪組織委員会のアドバイザー、物流、空港、自治体のアドバイザーなど幅広いフィールドで活躍。
世界中で混雑解消に尽力しており、福岡にも先生が手がけた仕事がある。最近の福岡空港のリニューアルの際の、フロアの入りと出を分けるアイデアは先生のアドバイス。福岡市のまちづくりアドバイザーにも就任。

【本文】
―Q. 現在の研究、お仕事の内容を教えて下さい。

#「渋滞学」とは?
メインでやっているのは「渋滞学」という分野で、私が 30 年前に勝手に作った分野です。 “社会のありとあらゆるモノの流れの詰まりを解消する”研究ですね。
元々数学と物理が好きで、水や空気の流れを研究する流体力学をやっていたけれど、車や人など少し違う「流れ」を研究するようになりました。混雑で困っている場所で、科学の力でいかに効率的に人やものを動かせるか、企業と共同するなどしてやっています。
海外からも相談が入ります。サウジアラビアのメッカ巡礼を知っていますか?1 年に 1 回、 1 週間に 300 万人のイスラム教徒がメッカに集うんです。関係者からなんとかしてくれないか、とメールが来て、うまくいったら先生に油田をあげるよ、なんてことも言われました(笑)残念ながらプロジェクトは今途中で止まっていますが。
最近は、コロナ時代のソーシャルディスタンスの基準づくりの提案に動いています。誰かが科学的にこの人数まで店に入れる、という基準を言わないと、0(ゼロ) のままでは経済が回りません。面積に対して 0.2 人/㎡だとソーシャルディスタンスをきちんと保てるという内容は1971年の論文でフルインさんという人が言っています。こういうところは科学の力で貢献できるのかな、と思うけどね。


―Q, どうやって渋滞学にたどり着いたのでしょう?

#『それって役に立ってるの?』
高校時代までは、アインシュタインの本を読んだり「宇宙戦艦ヤマト」にはまったり、単純に数学や物理が好きで楽しんでいました。あるとき、親にこんなことを聞かれました。

「難しいことはわからないけど、役に立ってるの?」

シンプルに “ほら、こんなに役に立ってる” と言えなかったことが悔しかった。そこから葛藤があったね。自分の好きなことをやって、ほら役に立ってるでしょ、と誰にでも言えるような人になりたいと思ったんです。親の一言は大きいよね。それを叶えるのが私にとっては数学を使って渋滞を解消することでした。院生のとき思いついて、やっとこれでやりたいことが決まったな、と思いました。

物理や数学は人類の思考体系を拡大することで長年にわたってすごい貢献をする。一方で、私は困っている問題があったらその場に出かけて行って解くようなことが性に合っていたしやりたいなと思い選んだので、やりたいことが出来ていて今非常に楽しいです。


―Q, 研究は初めからうまくいったわけではないようで…。

#一筋縄ではいかなかった 7 年間
研究を初めてから認められるまでには 7 年かかった。

何百回とやめようと思ったことはあります。なんでこんな苦労してるんだろう、と思いながらやっていたのは、やっぱり人に喜んでほしい、社会のためになる思ったから。認められていないのはそういう分野がなかったからなんですよ。学会発表するにも応募するセッションがなかった。数学セッションでも交通セッションでも違うんじゃないと言われて、発表の順番が誰もこない初日の最初や最終日の最後にまわされたりするわけ。これが 4 年以上続いた。
でも 2、3年やっているとだんだん困っている人たちから相談の依頼が来はじめて、その人たちが喜んでくれる。味方が少しずつ増えてきて自分がやってることって無駄じゃないんだ、という実感がだんだん湧いてきました。昔はゼロだったのに、今は学会発表に 1000 人以上が集まって立ち見になることも。信念をもって続けていくと変わって来るんだよね。
人に認められよう、じゃなくて渋滞を解決しよう、というのが一番上に据えていた目的だったからね。そういう開き直りをすると一気に状況が変わってきた。社会に目を向けて頑張っていたら学会も振り向いてくれた。

30 年前は数学で応用なんてけしからん、数学は純粋数学だという風潮があった。最近は数学も応用をやっています、とアピールするんだけど、その実例に数学会は私の例を出したりする(笑)。 応用も重視するこういった変化も数学への貢献だと思っています。

<西成先生的単語帳>
まだまだ、こぼれ話紹介します。
Q.#「T 字型」ってなんだ?
―今からの時代に必要なこと。色んなこと知っていないとだめなんだけど、色んなこと知ってるだけでもだめなんだよね。―

 例えば環境問題をとってみると、法律も教育や医療も必要だし、複合した問題は専門家じゃ解けない問題。もちろん1つの専門を持ってないと深みがないけど、その専門の知識だけでは解けない。色んなことをちょっとずつやっておくというのは大事かな、と思うね。
東大のよかったところは 2 年生まで教養学部として幅広い分野を学ぶところ。無駄な勉強なんか1つもないんだよね。私自身、学生時代は教養課程で薬学部から法学部からびっちり全学部の授業を聞きに行ってたね。
37、8 を過ぎると人間新しいことがなかなか頭に入ってこないんですよ。それまではスポンジのように入って来るんだけど。それまでにどれだけ自分の頭の中にいれたか。それからは入れた中でどうやってお互い融合していくか。

実は新しい発見って本質的には世界にはないんですよ。A と B という全然違うものが結びついて面白い発見が生まれる。人間の「知」って、誰かのものを真似して違う物をくっつけて新しいものを生み出していくんですよ。誰も思いつかない A と B を融合する。これがオリジナルの見せ所だと思いますね。

Q, #無駄学 ??
―なにが無駄でむだじゃない? 「無駄学」ではとあるコツがあるようです。

無駄とは何か、を突き詰めて考えると、何の目的を設定するかどうか、てことなんだよね。
例えば、蟻の目的は「巣に食べものを運ぶこと」だとする。でも、実際 2 割~5 割くらいの蟻はさぼるんですね。餌を運ぶことからすると無駄なんだけど、遊んでいる内に蟻は他の餌を探してくる。「巣全体の存続」という目的だと無駄じゃないんですよ。つまり、目的を何にとるかによって無駄は変わって来る。

受験勉強でもそうです。「受かる」ことだけを目的にすると選択科目以外はいりませんが、「人生で人の役に立つ」ことが目的なら、歴史を勉強することは無駄ではないかもしれません。目的を考えて判断しないと、本当は「無駄」じゃないものを「無駄」にしてしまう。

私のゼミは変わっていて、毎週 1 回午後を全部開けてもらって集まります。前半は近況報告や研究の進捗発表をするのですが、後半は色んな人を呼んできて話をしてもらいそれに対して皆で考えるというのをやっています。数学者を呼んで最新の研究成果を話してもらったり、ある日は看護師に老人介護の何が大変かを話してもらってどう解決したらいいか皆で考えるとか…先週は、ミスインターナショナル日本代表の人を呼んで美とは何か、皆で話しました。もう、全分野の議論をやっています。ありとあらゆることをやりながら、専門も深めていく。そういう風にしていくことでぐわっと視野が広がるんだよね。効率ばっかり求めているとそういうのがどんどんなくなっちゃうんだけど。

真の効率は寄り道した方が実は生まれるんだよね。学生が手っ取り早く答えを教えて、て言うのだけどもあえて教えない。分からなくても半年以上は待ちます。その方がトータル参考書 10 冊分くらいの勉強になってくる。効率的なものは見かけ上であって注意した方がいいと思う。

Q, #「言葉つなぎゲーム」 のすゝめ
―「オリジナル」の製造法。先生が小学生の頃から 40 年以上続けている「遊び」を教えてもらいました。―

今も 1 日に必ず 1 回は全く関係のないものを頭の中でつなげるゲームをします。やり方はこう。
紙に好きな言葉や単語を書いて箱に溜めておく。そこから 2 枚の紙を取り出してそれらを繋げるゲームです。ぱっと拾って、例えば「三角関数」と「地震」が出たら、それを無理やりつなげる文章を考えるんですよ。関係ないものをつなげる力を養うのはすごくいい訓練になります。
将来の発想にもなるし、違う分野からヒントを得られる。
これをやると面白いことがあって、人生の中である1つの言葉を言わなくなるんですよ。「それは私には関係ない」。すべてが何段かすると関係しちゃう。すべてを関係づけられていけちゃうんですよ、訓練すると。そうすると色んな情報が頭に入ってくるし、新しいアイデアで使えるようになってくるので、無駄なものは何もない。興味あるところに 3 段か 4 段かすると繋がってくる。

「渋滞学」でやってきたのもその発想です。昨年、物理学会で一番難しい雑誌に載った論文のテーマは「渋滞」と「セルロース」。農学部の先生と出しました。どういう研究かというと、セルロースを分解して有益なバイオエタノールにしたいのだけど、分解が難しい。見てみると、分解を促進するセルラーゼの酵素が渋滞しているんですね。そこで混雑を避けるようにセル
ラーゼを置いてやると生産率があがる。こうやって渋滞学でバイオエタノールを作るなんて発想が生まれてくるわけです。


―Q, 最後に。

#読んでくれた高校生へ
“無駄な勉強は何もない”

大学入試という目の前の目標があっても、いかに受験にとらわれずに色んな勉強をやるかが大切です。本当に将来なにやりたいの?はまだわかんないと思うのだけれど。

“でもね、高校生という頭が脱脂綿(なんでも吸収)の状態なときに、自分の将来の専門と違うからとやらないというのは もっっったいなさすぎる…!!“

なんでもやって!あらゆる本を読んで色んな人の人生を、本当に自分だったらどうするか一緒になって考えてみてほしい。

今苦労している人は報われる。楽して効率よくやろうという風潮が今社会にありすぎています。「1 分でわかる○○」だったり。私からすると、1 分でわかるものは 1 分で忘れます。効率一辺倒だと受験までの短い期間だといいかもしれないけれど、長い時間を考えると試行錯誤した方がしっかり頭に入る。長い時間スパンで物事を考える人になってほしいなあと思うね。

いいんです、効率よくなくて。どんくさくやって。絶対それが活きるから。
自分のペースでやってごらん。

最後はオリジナル持っている人が呼ばれて一生食っていけます。
効率よくやった人はおそらくオリジナルを持てません。いろんなところでつまずいて、こうでもないああでもないとどんくさいことやっていると知らない扉を開けちゃうんですよ、勝手に。そういう人が 30、40、50 歳になって光る人になるね。
今は効率よく導いてしまう大人の方が罪かもしれないね。あえて効率悪く導かれた人の方が今はなにくそ、と思うかもしれないけどいいのかもしれない。これは後からしかわからないから難しいんだよね。


※インタビュー中で登場した著書
『渋滞学』
https://www.shinchosha.co.jp/book/603570/
『無駄学』
https://www.shinchosha.co.jp/book/603623/

※西成先生の高校生も読みやすい著書
『とんでもなく役に立つ数学』
https://www.shinchosha.co.jp/book/603623/
『東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』


iRODORu 西成先生 Zoom写真