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irOdoriメンバーインタビュー:千倉よしのさん 前編

こんにちは、irOdori〜彩り×踊り〜(イロドリ)彩夏です🌈

ジェンダー問わず自己実現できる世界を目指すirOdoriは、性的マイノリティ当事者やその支援者(アライ)のリアルな声を発信しています📣

今回は、irOdoriメンバーで、東京レインボープライド(TRP)2023のirOdoriブース企画にも運営メンバーとして参画いただいた、ノンバイナリー・千倉(ちくら)よしのさんのインタビュー記事です。

ノンバイナリー(nonbinary)とは、ジェンダー・アイデンティティや性表現が男性・女性どちらか一方に当てはまらないセクシャリティのこと。7月10日からの一週間はノンバイナリー啓発週間でした。

よしのさんは、irOdori的にはアイコニックな存在だと思っていて、他の人からもirOdoriのSNSに写るよしのさんを指して「この人よく見るよね」と言われます。
irOdoriからはできるだけ多くの人の声を発信したいと思っているのと、irOdoriに関わってからよしのさんにポジティブな変化もあるようにも見えていたので、詳しく伺いました。

前編はよしのさんが自分のセクシュアリティに気づくまでのお話です💛

千倉(ちくら)よしのさん

いつも信号の絵を描く幼少期

  • 彩夏:自己紹介をお願いします。

千倉よしのです。ただいま58歳です。自分のセクシャリティに気が付いたのが50歳過ぎてからなので、頭でっかちなところはあるんですけれど、今はノンバイナリー、ジェンダーフリーとか、Xジェンダー不定性ということで自分のアイデンティティーが安定しています。

いずれにしても二元的な性別観が自分に対してはないので、男とか女とか、「普段女の格好してるやん」とか言われても、ちょっとそれは困る話で。あえて言えば、いったん女になってから男にもなってみたいなぐらいのところかな。そのへんがふらふら動いている感じです。

この歳になって非正規雇用なので、いろいろ心配があるんですけれど、アリとキリギリスの話だと、キリギリスで生きていきたいと思っています。一日一日少しでも楽しく過ごしていけるように生活していきたいと思っています。

  • よしのさんが世の中とのギャップを感じたときや、そのことに対して周りに説明するときなど、要所要所で自分が変化していくタイミングがあったと思います。これまでどのような人生を歩んでこられたか、お話しいただける範囲で教えてください。まずはどういう幼少期を過ごされましたか?

子どものころは、ちょっと変わっていたかもしれないです。幼稚園のころに絵を描くっていうと、信号の絵しか描かなかったんです。赤青黄の信号。それを画用紙いっぱいに描いてた。縦横斜め、いろんな信号を描いて、それだけ。12月になると、何も描いてない羽子板に好きな絵を描きましょうっていうのがあったんですけど、そこにも信号を描いてたんです。いつも信号を描いてるって母親に言われて。女の子と一緒に遊んだりもしてたし。

  • 面白い。

小学校ではちょっとおかしくなって、やたらけんかをするようになっちゃって。そしたら担任の先生が、「本当に強いっていうのはけんかが強いっていうことじゃないぞ」って。それしか言わなかったんです。何のことかよく分からないけど、とりあえずけんかはしなくなった。

  • 先生、すごい!

その先生にはめちゃくちゃ感謝しています。あまり目立たず、男の子とも女の子とも遊んでいました。お手玉みたいなチェーリングって、プラスチックの輪っかをいっぱいつないだものでお手玉みたいにして遊ぶんですけど、それが学校じゅうではやったときは、男子はあまりやってなかったんですけど、私は女子の中で「やる、やる」って言ってやってた。

LGBTQ+によくある制服問題なんだけど、制服そのものが嫌だった。大人になってから、自分のセクシャリティに気付いた人とか、女装を始める人って、たいていセーラー服あたりから始める人が多くて、自分の「あったはず」の過去を埋めようとしているのかもしれないけど、私はあまりそう思わなくて。

  • 制服っていう概念が嫌だったということですか?男子・女子という以前に、みんなが同じ服を着てくださいという発想が嫌だった?

そう。いまだに制服ものはあまり、いいと思わない。

チェーリング解説動画

パステルカラーのものを揃え始めた思春期

普通の男性と考え方が違うなと自分で感づいたのは、大学生のとき。
サークルの同期の女子に聞いたんです。「結婚して名字が変わるってさ、女の人が変えなくて、男の人が変えてもいいのに、なんでほとんど女の人が変えるんだろうね。あれ、変じゃない?」って聞いたんです。そしたら、返ってきた答えが「好きな人と同じ名字になるんだったら嬉しいと思う」って。え、そういうものなんだねって。「でも、じゃあ、男だって……」って思ったんだけど、それは口に出さなくて。他の人にも聞いてみたら似たような返事しか返ってこなくて、「あれ?世の中と違う」って。撃沈みたいな感じ。

  • 私と考えが全く同じだなと思いました(笑)。

これは小学校のときなんだけど、「男はズボンしかはけないのに女はズボンもスカートもはけてずるい」って言ったやつがいて、それもずっと頭の中に残ってた。確かにずるい……。ずるいっていうか、うらやましいっていうか。その延長で名字の話が出てきたのかもしれない。

  • そういう差に疑問を持つようになったわけですね。

なぜか女性目線のようなところが、いつの間にか出てきていました。
大学は制服がないから、ちょっとかわいい感じの服を選んでいました。
ダンガリーシャツでも無地ではなくて、袖やボタンのある前立てにチロリアンテープが縫い付けられいるのをすり切れるまで着ていました。

春になればパステルカラーのシャツしか着なかった。これは春しか着れないみたいな感じで。

持ち物も高校生の頃からファンシーグッズが好きで、下敷きも缶ペンもシャーペンも全部そういうので揃えて。大学に行ってもパステルカラーのトートバッグ。まだきれいなのに買って3日目くらいにどこかに引っ掛けて穴開けちゃったから、フエルトを3色円く切って、穴を隠すように並べて、余計に可愛くなっちゃった。それは卒業まで使ってた。

  • そのころから可愛い系が好きだったんですね。

よかったのは、大学のとき周りにいた仲間は、それを何とも思わなかったこと。「こいつはこういうのが好きなんだ」っていう感じで。「いいね」とも「駄目」とも何とも言わなかった。

  • すごくいい環境ですね。

これでいいんだと思って社会に出たら、めちゃくちゃ違い過ぎててびっくりしました。お茶くみされるっていうのが嫌だった。

  • 自分でするのにって?

そう。お茶くみは2年ぐらいで、職場が新しい所に行ったときになくなったんだけど。男性社員も、好きなときに飲めるからいいって。100円払うけど好きなときに行けるから、別にいいよねって。

  • 私も大学と社会人の差がすごく激しいなと思いました。それまでは男女の差って全然感じなかったけど、社会人になった瞬間に女子が低くなった感じがした。それこそリクルートスーツから差が出るし。

自分は女装家?

人生長いのではしょりますけど、とある病気の療養中、たいてい男性は入院するとひげを伸ばしたがるっていうので、私も童顔だから似合うはずないと思っていたんだけど、入院してどこか行くわけでもないしと思って、本当ガラにもなく伸ばしてみたんです。でも、まともに生えてきてくれなかった。2週間ぐらいそのままにしといたのかな。そしたら、隣のベッドのお母さんたちに「ずいぶんかわいいおひげね」って。そういうタイプじゃないんだなと思いました。

それまでいろいろ自分なりに「男性である」ことを頑張ってたけど、考え方もちょっとずれてるし、体が拒否してるみたいな感じ。別に脱毛とかやってたわけじゃないんだけど、そろわない。生えてくるところと生えないところが分かれちゃってて、だんだん自信がなくなってきちゃいました。

ある日父親がオレオレ詐欺に遭ったみたいで電話がありました。「声が全然違ってて、だまされるか」って。その後に父親が言った言葉が、「おまえの声はもっと高いんだ」。
どれだけその詐欺師が低い声だったか知らないけど、俺の声、そんな高いの?って驚きました。全然意識してなかったから。

身長は160cm以下で、10年くらい前から店頭に並んでいるメンズ服のほとんどが大きくて身体に合わなくなりました。そこで仕方なくレディース服を選んだらちょうど良い具合でした。着ていても精神的にしっくりきました。

そして、一歩進めて女装というものをしてみたら、案外たいていの服が着れちゃう。最初はメイクは下手くそだったけど、それなりに上手くなって……。あまりスカートは履かなかったけど、こういうほうが楽だなって。楽なままで、ずっと今まで来ました。

女装の人たちと付き合って話をしてると、やれセーラー服だとか、キャバドレスだとかって言ってくる。
「そういうのを着たいと思わないの?」
「全然」
「じゃあ、どういうのを着たいの?」
「普通の女の人が着る服」
「それ、面白い?」
「いや、面白いとか何とかじゃなくて、それがいいし」
って言ったら、しーんってしちゃって。なんか違うなみたいな感じで。

自分はトランスジェンダー?

いろいろ調べてみたら、トランスジェンダーという人たちがいることがわかりました。トランスジェンダーの人たちの話を実際に聞いたりして、「あれ?自分はこっちか?」とも思ったけど、こっちでもなかったかなと。体も変えたいとまでは思わないんだけどなって。

その頃はもうTwitterをやってて、「性別違和じゃなくて身体違和」っていう人がTwitterで何人も出てきて。ちょうど5~6年前かな。「手術したい人が本物のトランスジェンダー、MtF(Male to Female)で、そうじゃない人は偽物だ」とかって、結構たくさん出ていました。

「本物とか偽物とか言われても困るな」って思ってて、実際に何人かのトランスジェンダーの人に聞いたら、「別にそれは関係ないよ。手術する、しないは別だし、トランスジェンダーっていうのは自分で決めることだから、診断書を書くとか法律っていう話じゃないから」と言うので、自分はトランスジェンダーかなと思ってたんだけど、やっぱりちょっと居心地悪いわけね。それは二元的なバイナリー的な性別観だから。

自分を表す言葉に出会った瞬間

一番決定的だったのが、「Label X」っていう団体が出した「Xジェンダーって何?―日本における多様な性のあり方」という本があったんです。それがたまたま近くの図書館にあって、それを読んで、もうほぼ一気読みに近い感じで、
「これ、これ!!」
と思って、もうありがたくなっちゃって。

それからXジェンダー、ノンバイナリーと似たような本を読みました。自分を表す言葉が見つかってからはかなり落ち着いたし、安心して女装の人とも、トランスジェンダーの人とも話ができるようになりました。本当に今が一番落ち着いています。それが5年ぐらい前でした。


後編へ続く!

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