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わたしの夜たち

ほんとうは、数えることはできるのだけれど、
言いたいだけの「数えきれないほどの夜たち」
わたしの日常に刺激と、美しい煌く思い出を与えてくれた男の子たちへ、
ありがとうの気持ちとともに、そっと2019年に置き去りにして。


ロシアンブルーの綺麗なねこちゃんを飼っている、綺麗な瞳の男の子
東京駅が眺められるテラスで飲むお酒に酔って、丸の内のキラキラの喧騒の中から疲れ果てて乗ったタクシーはほどよく心地のいい速度で余計に酔いを加速させた。
お約束のようにタクシーの中でも手を繋いでくれるこの男の子はきっと、ロマンを心の中に抱えているのだろうと思う。転がり落ちるように降りたタクシーからの下り坂も、嬉しそうに手を引いて歩いていた。
飲み明かした夜に差し込む朝日を背にして笑ったその瞳だけは忘れないでとっておくよと、そういう夢のある時間がわたしも好きだよと伝えたかったけれど。

メジャーのかかったトルソー、パターンを引く男の子
空間を魅了するトルソー、しっかり肩からかかっているメジャーを見て、もしかしてパタンナーなの?と部屋に入るなり尋ねると、よく知ってるね、と驚きに微笑む瞳が優しかった。
彼女と別れて上京してきたというその唇からさみしさはこぼれ落ちない代わりに、たくさんの強がりが溢れていて、思わずそっと抱きしめる。
『だから本気の恋愛なんてもうできない』と語るその横顔に返す言葉はあいにくわたしは持ち合わせていなくて、曖昧に微笑んではみたけれど、果たしてうまく笑えていたのだろうか。

一等賞の輝き、大好きな声のバンドマン
「じゃあさ、手を繋いで家まで帰ろう」
たったこれだけ、その一言がわたしの心を射抜いてしまった。
カウンターの席、膝の上でそっとわたしの手を握って、強くないお酒に酔った赤い顔で呟かれたそれに、どうしようもない気持ちになる。
『理由なんてなくてもいいから会いに来て』と表面張力に潤んだ瞳と力の入った腕に、なにも答えることのできなかったあの瞬間だけは悔やんでいる。せめてそっと抱きしめ返せたらよかったのに。
何度も訪れたあの狭い部屋で歌ってくれたたくさんの歌たち。忘れられないわたしの宝物。
いつか引っ越してしまったら、どうしたってくっついてないといられないあの狭いお城を思い出すことも、きっともうないのかもしれないと、切なさにまた酔いしれてしまうよ。
きっと誰より一番多くの夜を重ねた、一等賞の男の子。

国際社会を生きたいと願う大学生
将来の夢について語るその澄んだ瞳にわたしは圧倒されるばかりで、『今だけは俺のものでいてほしい』と傲慢な台詞を呼吸するみたいに吐き出せるその口はキスで塞いでしまおうと思わせるほどにはまっすぐだった。
紡がれる言葉たちはすべてに曇りや陰り、濁りがなくて、そういった美しさの中に潜む凶暴性が素敵だった。
ただの純粋な男の子が、幻のような夜に身を投じたりなどするはずがないのだ。もう我慢できないから、とシャワーも浴びずにベッドに投げ出したりなんて、するはずがない。
澄んだ瞳の奥に潜む不確かな野望を、いつか必ず叶えてね。

アルファツイッタラー
2019年の最後にわたしとのランチの約束をすっぽかして未読のままスルーをするという偉業を成し遂げた男の子。びっくりしちゃった。
そんなことをされたのは初めてだったから、とてもいい学びだった。
ただお酒と会話を楽しむのならばすごくいい時間になるかもしれないと思っていたから残念だった。
その日の空白はすぐに、まったく別の人間と、神泉のお蕎麦屋さんにて叶うこととなる。あのときはありがとう。

どこでそんなの教わったの?末恐ろしい大学生
一体全体どこで教わってきたの、と思わず言ってしまうような魔法みたいな指を持つ男の子。いくつの夜を重ねて、どれほどの教えを得たらそうなるのかと思わず口に出していた。まだ若いのにどうして、と。
『教わったりしたことなんてない、好奇心や興味が勝つだけ』とさらりと答えるキラキラの瞳に、たしかにそのとおりだ、と頷いて返すことしかできないわたし。
ところでモデルでもやっているのかと聞きたくなる整ったお顔は、人生のほとんどをそれで解決できてしまうような空気を孕んでいた。
『一人寝ができない』と、本気なんだよと甘えるその姿勢にも養殖の味を感じるけれど、きっとそうやって生きてきたのだろう。
こうやって撫でて、と頭の撫で方を指示してまで、どうしたって誰かが隣で寝ていてほしいとねだるその姿は、どうしてなのかと聞けぬまま。

淡い恋心、ヒモ歴のあるバンドマン
好きだなと思った。
久しぶりに感じる恋心に心揺さぶられてしまった。
一番近くて遠いひと、というありきたりな言葉が宙に舞い、穏やかだったはずのわたしの夜と心をごっそり持っていかれてしまった。
わたしの名前を呼ぶ、甘えた声が美しい男の子。
態度すべてが分かりやすくて、嘘がないことが分かる正直さとまっすぐさがあった。
「思わず書きたくなるような女になって」
「歌詞にしてしまうことさえもったいない女になりたい」
「それが一番だね、それになって、なってほしい」
優しくわたしの頬を撫でる手、笑うとシワの寄る目尻、いたずらっ子みたいに伸びてくる腕。
さようなら、わたしの淡い恋心。

2019大賞受賞、伝説を残しまくるマモちゃん
「愛がなんだ」のマモちゃん。わたしのマモちゃん。
見た目もほとんどそのまま成田凌みたいな、イケてる男の子。
目も鼻も口も、手も足でさえも造形が美しくて、天は何物も与えるのだと、なぜかいい香りのする肌を撫でて。
やることなすことすべてが物語になるようで、さながら主人公の風格のその姿は伊達じゃないと思わせる。
絵に描いたようなクズっぷり、それなのに純粋に語りかけてくる瞳と飾らない嘘のない言葉たち。養殖にはない天然モノの破壊力を身を以て知る。
「もう俺なんてパブロフの犬だよ、条件反射、抗えない、どハマりしてる」
君だけはちょっと、一緒に2020年に行こうね。
もう少しまだ、わたしに夢を見させてほしい。他では味わえないそのきらめきとかがやきと、徹底したクズっぷり。


たくさんの輝きをありがとう。
たくさんの夢の続きをありがとう。

2019年もおかげさまでたくさんの宝物の夜ができました。
2020年には連れていくことはない夜たちだけれど、
たしかにわたしを彩るすべて、
まぶたの裏にそっと隠してこれからも生きていきます。




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