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【漫画原作】『おおかね様の金降らし』【すこしふしぎ】

読切用の漫画原作です。
昔話「鼻たれ小僧」をオマージュしたお話です。

複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。


ジャンル

日常系のすこしふしぎ。若干ハートフル。

あらすじ

金持ちになりたい高校生のカズチカ少年。ある日、帰宅途中に寂れた神社を発見する。興味本位で参拝してみると、「おおかねさま」と名乗る小僧の神様が現れる。「願い事なら何でも叶える」と言うおおかねさま。然し、ボロボロの服を着て、鼻水を垂らすおおかねさまに疑いを抱くカズチカ。試しにカネを出せと願ってみると、なんと鼻水が札や小銭に変化する。おおかねさまの力を使い、次々と願いを叶えるカズチカは、ついに金持ちになるが…

登場人物

・和睦(カズチカ)
 高校生の少年。金持ちになって、美味しいモノを食べたり、ゲームをたくさん買ったり、旅行をしたりなどなどするのが夢。独り善がりだが、優しい一面もある。
・かねち
 「大金神社」に祀られている神様でおおかね様と呼ばれていた。外見は5歳くらいの子供で、ぽちゃっとした顔とマロ眉、みすぼらしい恰好で、常に鼻水を垂らしている。「何でも願いを叶える神様」で、その鼻水には不思議な力がある。

冒頭・和睦とかねちの出会い

〇田舎の商店街(春頃・放課後)

制服姿で一人歩く和睦。
通学鞄に〈金運〉のお守りが多数。
手には無料の求人情報誌。〈高校生・時給780円〉の文字を見て嘆く。

和睦 「舐めてンなー、田舎だからってよぉ! こんな時給じゃなぁ~んも出来無ぇわ! あ~っ! カネ欲しい~! カネカネカネぇ~!!!」

路地裏の入口。何かに気付く和睦。

+++++
路地裏の先。鬱蒼と生い茂る杉。伸び放題の雑草。薄暗く、人気は無い。
古びた神社。〈大金神社〉の看板。

賽銭箱の前に立つ和睦。

和睦 「”たいきん”神社ねぇ。こりゃ御利益ありそー」

財布から五円玉を取り出し、賽銭箱へ。
二礼二拍手、頭を垂れ、手を合わせる。

和睦 「どうかオレを日本一、いや世界一、宇宙で唯(ただ)一人(ひとり)の大金持ちにして下さいっ!」

意味ありげに風が吹く。
しばしの間。苦笑いする和睦、神社に背を向け、立ち去る。

和睦 「なぁ~んて! 起きるワケ無ぇよなぁ、マンガみてぇなコト…」
かねち「叶えてやるわ、その願い」
和睦 「!?」

和睦の背後、賽銭箱の前に立つ、かねち。

和睦 「なっ…! なんだよお前っ!?」
かねち「”おおかね”様。願い叶える神様だで」

神社の中を指さすかねち。開いた扉、中に〈びんずる様〉風の木像。ボロボロの着物を羽織り、鼻水らしきものが垂れて(彫られて)いる。

和睦 「カミサマって…、全然見えねぇけど」
かねち「ウソでねぇ」
和睦 「なら見せろよ、スゲぇコト。手から炎出すとか、動物に変身するとか、カネの雨降らせるとか…」

和睦の右手を掴むかねち、鼻水を擦りつける。
ぎょっとする和睦。

和睦 「!? ちょっ…、何すんだよっ!!! 鼻水はティッシュでかめっての! くっそ! 落ちろ、このっ!」

右掌にべっとりついた鼻水。ぶんぶんと手首を振り、鼻水を落とそうとする。水滴が地面に落下。同時に聞こえる金属音。

和睦 「えっ…?」

目を丸める和睦、足元を見る。散らばる硬貨数枚。

和睦 「…カネ? さっきは無かったのに…。…まさか!」

鼻水が付いた掌を見る。二、三回手首を振る。水滴が落ちる。地面に当たると同時に硬貨に変化。一枚拾う。〈令和五年と刻まれた新500円硬貨〉。
呆然とする和睦。

和睦 「…ス、スゲェ…。鼻水が、カネに…」
かねち「他にも出せるわ、言(ゆ)うてみ」
和睦 「ビックリバーガー。ポテトとナゲット、あとコーラも」

自分の掌に鼻水を付けるかねち。神社の濡れ縁(縁側)に塗る。
ボコボコと泡立つ鼻水。ハンバーガーやドリンクに変化する。
目を見開き、驚く和睦。バーガーの包みを開く。作り立てのバーガー。

和睦 「バンズの感触、ソースの匂い。ホンモノだ! (小声で)…でも食う気しねぇ~」

何かを閃く和睦。

和睦 「なぁ。その鼻水、何(なん)にでもなるのか?」
かねち「お前(めぇ)が欲しい物(もん)なら」
和睦 「そっかぁ~。じゃあ、出してもらおっかなぁ~」

ニヤつく和睦。悪意に満ちた笑み。

 *****

和睦の金持ち生活

〇空港

着陸する自家用ジェット機。〈OKADA AIR LINE〉の文字。
SPと共に降りる和睦、金髪で高級スーツを身に付けている。

〇海沿いの都市(東京らしき場所)

埋立地に建つ近代的なデザインのタワー。
エントランス。大理石の床、天井にシャンデリア。宮殿風の煌びやかな内装。

帰宅する和睦。スーツケースや土産の箱を手に、和睦の後を歩く使用人達。出迎えるメイドと執事達。

執事達「お帰りなさいませ、崗田(おかだ)様」

廊下を歩く和睦達、エレベーターに向かう。

執事 「十八階の水族館にて、南米で発見された新種のエビを展示しております」
   「三十二階のゲームコーナーに、最新機種のクレーンゲームを設置いたしました」
   「四十七階の浴場ですが、本日はヨモギ風呂となっております」
和睦 「うむ。では早速」

エレベーターに乗り込み、ボタンを押す。
+++++

各施設を満喫する和睦。
水族館。薄暗い館内。水槽が多数。珍しい魚やエビを見る。
ゲーセン。あらゆるゲームの筐体が並ぶ。クレーンゲームで遊ぶ。
温泉。檜や泡風呂等数種類。ヨモギ風呂に飛び込む。

 夜。最上階のレストラン。
和食、洋食、中華等、様々な料理が運ばれてくる。

メイド「黒毛和牛のステーキです」
   「フカヒレの姿煮です」
   「海鮮特上握りです」

大トロを食べる和睦。あまりの美味しさに顔が綻ぶ。

寝室。プラネタリウムが設置され、天井に星空が浮かぶ。
巨大なウォーターベッドに一人横になる和睦。満足そうに星空を見上げる。

和睦 「最高だぁ、カネ持ちの生活は。明日は何しよっかなぁ~」
*****

和睦の金持ち生活・破綻

〇自室

広い室内。マンガがぎっしり詰まった本棚。フィギュアやプラモデルが並ぶガラスケース。室内後方はカーテン(暗幕)が引かれている。複数のモニターに映画やアニメが映る。一際大きなモニターにゲームの戦闘画面。マッサージチェアに座り、ゲームをプレイする和睦。
チェアの後ろで正座するかねち。

かねち「次は何でぇ? ぷらもでるか? ちょこれいとか?」
和睦 「もう、いいかなぁ~」
かねち「! 無ぇだか? 欲しい物(もん)」
和睦 「あぁ。み~んな、手に入れちまったからな~」

マッサージチェアがくるりと動く。メタボ体型の和睦、欲しい物は全て手に入れ、満ち足りた顔。チェアの肘掛け部分のボタンを押す。下部の車輪が動き、電動カートのように移動する。窓辺に向かう。眼下に遊園地や動物園。ガレージに高級車や戦車等の乗り物。海(港)に豪華客船。嬉しそうな顔で眺める。

和睦 「夢だったんだぁ。遊園地に乗り物、このビルに入ってるモン全部、カネがあったら絶対(ぜってぇ)手に入れるって」

かねちの傍へとチェアを走らせる和睦。
満足そうな笑みでかねちを見つめる。

和睦 「かねちのお陰で夢が叶った。ありがとなぁ」
かねち「……」

困惑気味のかねち。

和睦 「オレにはもう、かねちの力は要らない。今度はみんなの願い、叶えてやってくれよ」
かねち「……、そうけぇ…。お前(めぇ)が言(ゆ)うなら…」

落ち込むかねち。肩を落とし、部屋を出て行く。

カーテン側を向いたチェア。リモコンを操作する和睦。カーテンが開く。オーケストラと女性歌手。優雅な曲が流れる。
目を閉じ、聞き入る和睦。

和睦 「こんなカネ持ち、日本、いや世界、宇宙を探したって居無ぇよな。…そう言や、宇宙旅行したけど会わなかったなぁ、宇宙人。どんな願い事持ってんだろ。地球を下さいー、友達になりましょうー。ロボットの共同開発とかなー。ハハッ、聞いてみてぇー」

呑気な和睦。周辺で起こる異変。
生演奏の優雅な音色が雑音に。映画やアニメが映るモニターに砂嵐。ゲーム専用のモニターでは、プレイヤーが敗れ〈GAME OVER〉の文字が浮かぶ。
マッサージチェアがドロドロと溶け始める。姿勢を崩す和睦。

和睦 「うわっ!?」

+++++
ドサリ、と尻餅をつく。

和睦 「イッテェ~。何だよ、一体…、…!?」

山中。不法投棄された家具家電。頭上を舞うカラスの群れ。全裸で一人取り残された和睦(体型はメタボのまま)。

和睦 「どっ…、どうなってんだぁああああっ!?」
*****

再会

〇大金神社(昼頃)

濡れ縁(縁側)に座り、ひなたぼっこするかねち。
息を切らして現れる痩せた和睦。ボサボサの髪、泥塗れの肌。ボロの布切れを纏い、太い枝を杖代わりに歩く。

かねち「おぉ、久しいなぁ。元気けぇ?」
和睦 「元気、だぁ? ビルも、服も、マンガも、全部、消えちまったじゃ、ねぇか。何が、どうなってんだ、よぉぉぉ」
かねち「お前(めぇ)が〈要らん〉言(ゆ)うたもんで」
和睦 「言ってねぇぞ、ンなコト」
かねち「覚えとらんけぇ? 〈わしの力は要らん〉て。めいどだぁ、げぇむだぁ、全部(ぜぇんぶ)わしが出したもんだで、〈要らん〉なら消えて無(の)ぉなるわ」
和睦 「それを先に言えよぉぉ」

嘆く和睦。
立ちあがるかねち。

かねち「用無ぇなら、わしゃ寝るで」
和睦 「ま、待ってくれ! せめて服、いやパンツだけでも…!」
かねち「やりてぇけぇどなぁ、要らん言(ゆ)うた者(もん)の願いは叶えてやれんで」
和睦 「マジ…かよ…」

呆然とする和睦。
和睦に背を向け、中に入るかねち。死角になり表情は見えない。

かねち「…嬉しかったわ。最後に会えたんがお前(めぇ)で。―――へぇ、それっきり」

パタン、と扉が閉まる。

〇商店街内(或いは近く)の公園

ベンチに座る和睦。落ち込んだ様子。

和睦 「はぁ…。カネ持ちになるって家出たのに、こんな格好じゃ帰れねぇよ…」

グゥゥ、と腹が鳴る。惨めな顔つきになる。

和睦 「腹減ったぁ…、風呂も入りてぇ…、服だって着てぇ…。何か無ぇかぁぁ…」

目の前を通る作業員。
*****

和睦の新生活

〇商店街内の一角・工事現場(午前中)

神社を含めた広い敷地。
仕事をする作業員達。工事車両。〈関係者以外立ち入り禁止〉の看板。
作業服姿の和睦、息を切らしながら機材を運ぶ。

親方 「コラァ、新入りぃ! モタモタすんなぁ!」
和睦 「はっ…、はいぃ…」
和睦 「(やっぱ、欲かかずに真面目にやるのが一番だな。仕事はキツいけど、頑張りゃカネ貰える。カネさえありゃ何だって出来る。待ってろ大トロ、ウォーターベッドー!)」

ふと神社を見る。
蜘蛛の巣が張り、屋根には落葉が溜まる。全体的に汚い。

和睦 「にしても汚ねぇなー。掃除くらいしてやれよ、商店街の奴ら」

かねちとの生活を思い出す。豪華な服を着たりご馳走を食べる和睦、一方かねちの服はボロのままで食事も摂らない。
和睦の顔に後悔が浮かぶ。

和睦 「…オレってば、願い叶えてもらうばっかで、かねちに何もしてやらなかったな…。カミサマなら敬わねぇと。給料入ったら、かねちの好きなモン買ってやるか」

作業員達の会話が耳に入る。

作業員「マジでやるのか?」
   「商店街のお偉いさんが決めたからな」
   「なんか祟られそうだな」
   「お祓いくらいするだろ、マンション建てるのに神社壊すんだから」和睦 「!」
作業員「仏像はどうすんだ? やっぱ一緒に処分か。勿体無ぇなー」
   「じゃあお前貰えよ」
   「要らねぇって! あんなボロいもん!」

ハハハ、と笑い声。
呆然とする和睦。

和睦 「壊すって…、そんな…」

かねちの秘密

〇大金神社(同日・夜・雨)

神社の扉が開く。
侵入する人影。手探りで木像を抱きかかえ、持ち運ぼうとする。
口を聞く木像(無表情のまま。目や口は動かない)。

かねち『長者にゃなれんで、わし売ろうても』
和睦 「逃げンだよ! 神社潰れる前に!」
かねち『何処でぇ?』
和睦 「人が居無ぇトコ! そうすりゃ壊されなくて済む」
かねち『ほいだら、此処で壊してもらうんがええなぁ』
和睦 「…! 何で…」
かねち『わしゃ人の願い叶える神様だで。余所行っても、願い言う〈人〉が居(お)らんだら唯の置物だわ。誰(だぁれ)も〈要らん〉なら、黙(だまぁ)って土に還(けぇ)るで』
和睦 「!」

ハッとする和睦、手を止める。
雨脚が強くなる。
しばらくの沈黙。話し始めるかねち。

かねち『そいでも、雨降るに来てくれたんわ嬉しいで。どれ、ちいと話しるか』

+++++ 
閉じた扉。古びた燭台に灯る蝋燭。
向かい合って座る和睦とかねち(かねちは木像のまま)。

〈過去の描写:セリフを参考に。以下補足:主に仏像の鼻水部分を触り拝む。小さな木彫りを作り、各家庭の神棚(若しくは仏壇らしき場所)に置く。かねちが実体になって鼻水を付けることはない〉

かねち『―――昔あったと。海のある村から娘が嫁入りしてな。故郷(ふるさと)離れて寂しいで、樵(きこり)の婿が何(なん)かこしらえるて。ほいだら〈竜宮の小僧様〉が良いと。村に伝わる話でな。竜宮城には小僧様が住んどる。いっつも鼻垂らしとって、ばっちい神様だわ。けぇど大事(でぇじ)にしたら、何でも願い叶えるて。そいで、わしこさえて、お供えしただわ。それが始まりだで』

真剣に聞き入る和睦。

かねち『〈子供くれ〉〈病治せ〉〈米たんと作りてぇ〉。ご馳走だ銭こだ持ってうんと拝み来たわ。小せぇのこさえて家に置いてな。祭りもやった。へぇ、賑やかだったわ。―――うんと前(めぇ)にお終(しめぇ)になったけぇど…』

周囲を見渡す和睦。
草履や底の無いヒシャク等、古びた供え物が置かれている。
無表情の木像、だがどことなく寂しそう。

かねち『まんしょん建つで。その前(めぇ)に、拝み来る者(もん)居(お)りゃ、何でも願い叶えてやるて。…和睦、お前(めぇ)はおかしな子だな。他の衆(しょう)は一つきりだに、何でも欲しい欲しいて。そいだでうんと働いたわ。へぇ満足だ。ありがとなぁ』
和睦 「…かねち…」

どことなく嬉しそうな木像。かねちの感謝が和睦に刺さる。
蝋燭の芯が燃え尽き、炎が消える。

かねち『…ほいじゃあ、元気しとれ。―――へぇ、それっきり…』

神妙な雰囲気。
木像から、すうっと何かが消えて(離れて)いくような感覚。
拳を握りしめる和睦。何かを決意した様子。立ち上がり、思い切り扉を開ける。いつの間にか雨が止み、朝日が昇り始めている。陽光に照らされる木像。

和睦 「終わらねぇよ! おおかね様の伝説は! だってスゲぇカミサマだもん! ずっと残ってて欲しい、オレはそう願ってる!」
かねち『…ありがてぇ、けどなぁ…』
和睦 「叶えられねぇンだよな、オレの願いは。でも、みんな(・・・)のはどうだ?」
かねち『!』
和睦 「呼ぶんだよ! 大金神社に! 日本中、いや世界中、宇宙の果てからだって! 〈願い〉持ってるヤツは、たくさん居るもんな!」
かねち『……』
和睦 「つうか、オレ言ったじゃん。〈みんなの願い、叶えてくれ〉って。かねちが出てく前だから、ギリセーフだよなっ!」

振り返る和睦、満面の笑みを浮かべる。
実体になったかねち、和睦の顔を見て、暗い顔が明るくなる。
朝日に照らされた水溜まりが、硬貨のようにキラキラと輝く。
*****

おおかね様の金降らし

〇工事現場・神社(後日)

神社の周囲にフェンス。解体用の足場(組み立て前の鉄骨)が置かれている。
草刈りする和睦、肩を落とし、大きなため息。

和睦 「(はぁー…。とは言ったけどさぁ、なぁ~んも思い浮かばねぇんだわ、人呼ぶ方法…。このままじゃ神社無くなっちまう…、どうしよう…)」
若者 「親方ぁ! 空からカネが!」

地面にしゃがむヤンキー風の作業員。地面に散らばる硬貨を見て、嬉しそうに叫ぶ。

若者 「チャリンチャリンて音して、見たらカネ落ちてたんすよ! ヤベっすよね!」
親方 「バカッ! ポケット見ろ!」

ヤンキーの作業ズボンのポケットに穴。

親方 「おめぇが落としたんだよ。テープでも貼っとけ!」

一部始終を眺める和睦。何かを閃く。

和睦 「これだっ!」
*****

〇商店街・通り(夜)

通りを歩く商店街の会長と役員達。(会長はスーツ姿、役員の何人かは商店街の法被を着ている)。
役員の手に手書きの名刺、〈神社コーディネーター〉〈崗田和睦〉の文字。

役員 「神社コーディネーター?」
会長 「営業風の男でな。〈大金神社には御利益がある。だから壊すな〉と」
役員 「怪しいな、詐欺じゃ無いか?」
会長 「今夜その〈御利益〉が見られるらしい。それで分かるだろう」

〇大金神社

雑草やゴミは無く、すっきりした周囲。神社を囲む足場。背後には照明器具や工事車両。扉の前に腰掛ける人物(和睦)、ボロい外套を纏い、胸元が赤ちゃんを抱いているように膨らむ。

会長 「誰だ?」
和睦 「私はおおかね様。古くからこの土地に住まう、願いを叶えるカミサマである」
役員 「カミサマ? ホームレスの間違いだろ」
   「いや、動画撮って稼ぐ奴らだな。素人騙してドッキリってのが流行ってるそうだ」
   「ならコーディネーターもグルか。警察呼んで、色々聴くか」

和睦の元に向かう会長。

会長 「見せてみろ。もしお前が神なら、神業の一つや二つ、容易いはずだ」
和睦 「……」

沈黙。馬鹿にしたような会長。

会長 「出来無いか! 所詮は鼻垂れ小僧、神を名乗る資格は無い」

和睦に背を向け、役員に帰る指示を出す。

会長 「小槌や瓢箪ならまだしも、鼻水に何の御利益がある? 〈大金〉を名乗るなら、カネでも出してみろ! まぁ出来ればの話だがな!」

ハハハ、と笑いながら歩く会長。
右手で顔を擦る仕草を見せる和睦。会長に近付き、袖に何かを塗りつける。

会長 「!! 何をする! …これは、鼻水!?」

スーツにべっとりついた鼻水。ドン引きする一同。

会長 「クソォ! ブランド物のスーツを! お前! 弁償だけじゃ済まんぞぉ!」

ぶんぶんと腕を振る会長。水滴が地面に落ちる。金属音。散らばる硬貨。

会長 「なっ…、なんだ…。今の音…」
一同 「!?」
役員 「カ…、カネだ! 鼻水がカネに…!」
会長 「そんな…、まさか…」

驚愕する一同。
足場に立つ和睦。スイッチを押す。神社の背後、照明が一斉に点く。両腕を広げ、叫ぶ。

和睦 「カネを出せ、そう言ったな? ならば篤(とく)と見よ、おおかね様の御利益を!」

鉄骨や車両に塗られた鼻水がぽたぽたと零れる。空中で硬貨やサツに変わり、雨の様に降る。照明が反射し、眩しく輝く硬貨。和睦や神社も金色に輝く。腰を抜かす一同。

会長 「かっ…、カネの…、雨だ…」

笑顔で目を合わせる和睦とかねち。
*****

後日譚

〇大金神社(後日)

整備された敷地。社務所(グッズ販売所)や公園(休憩場所)を併設。
賑やかな境内。綺麗になった神社。
噴水(池)。かねち像の両鼻から水が流れる。その水で硬貨を洗う人達。

社務所の傍に立つ和睦、〈おおかね神社〉の法被、手に看板(〈#おおかね様のはなみず〉の文字、〈商売繁盛〉〈交通安全〉〈合格祈願〉等お守りの絵)。

和睦 「おおかね様のお守りはこちら! 願いが叶ったらハッシュタグを付付けてSNSに上げちゃおう!」

社務所に並ぶかねちグッズ(押すと鼻からスライムが出る感じの)。笑う女子達。

女子 「何コレ、鼻水出てんじゃん。キモォ」
和睦 「おいおい、バチ当たりだぞー。オレなんかさ、この鼻水のお陰でタワマン建てたり、大トロ食ったり、宇宙旅行だってしたんだぜ」
女子 「えー、マジー?」
和睦 「マジだよ、なぁ?」

神社を見る和睦。餅と酒等ご馳走のお供え。新品の木像。木像がかねちに変化。ちょんまげ風に髪を結い、豪華な羽織袴を着たかねち。嬉しそうに微笑む。


『おおかね様の金降らし』  終

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