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『イマドキ昔ばなし』第三話

〇シェアハウス(後日・夏頃)
 玄関。ミケとニョロの表札が付いている。
 居間。音楽誌を読むミケとノートパソコンでネットサーフィンするニョロ。
 縁側。スマホ片手に大の字になる狗神。虚ろな顔で、ぼんやりと天井を見ている。
狗神 「どうなってんだ…、急にスケジュール白紙になって…。単独ライヴは…、冠番組は…、一日警察署長は…」
ミケ 「仕方無いよ。流行ブームってのは、そう言うものだから。今は世代交代チェンジが激しい、ボクらはもう昔の人オールドワンズだ」
 音楽誌の特集。ゴシック調の服装で赤ワインを手にした男性歌手、〈闇より甦る吸血鬼フォークシンガー〉の文字。
 ネット記事。〈新感覚・っちわいふ〉の文字と抱き枕の写真。
 飛び起きる狗神、スマホで連絡を取る。
狗神 「クソッ! やっと売れたってのに、このまま終われるかっ! …もしもし、今夜の生番組ですけど。トーク無しでも大丈夫です、居るだけでイイんで」
ミケ 「可憐エレガント姫君ガール二重唱デュエット、やってみたかったなぁ…」
 溜息を吐き、遠い目をするミケ。
 パソコンを操作するニョロ。画面に新作VR(ヘッドギア・後述)の設計図を羨ましそうに見つめる。
 お盆を手に現れる爺ヶ岳。
爺ヶ岳「お待たせ。お昼食べましょ」
 
 テレビの情報番組を見ながら食べる四人。番組には金髪で逞しくイメチェンした番頭の姿が。
 テーブルにそうめん、てんぷら、薬味。大きなお椀で食べる狗神、洋食器でスパゲティのように食べるミケ、麺つゆに揚げ玉やネギを浸して食べるニョロ、普通に食べる爺ヶ岳。
爺ヶ岳「良かったわね、番頭君。マルチタレントになれて」
狗神 「いきなりだよな。オファーの電話、急に来たりとか」
ミケ 「まるでボクらみたいだね。Mr.ニョロが退院ディスチャージしてすぐに連絡コンタクトが来て、三人同時に売れちゃったビカム・フェイマス。今思うと出来すぎてるね」
狗神 「偶然だろ。まさか、結石の御利益とでも…」
 顔を見合わせる狗神、ミケ、ニョロ。

 結石部屋。
 ガラスケースの結石を真剣な様子で見つめる三人。以前より小さくなり、色が暗くなった結石。
ミケ 「萎んフェイドだね。カラーくすんでるダスティ力を使い果たしたパワー・イズ・オーバーとか?」
狗神 「ニョロ! 出せ! もう一回! ホラ!」
 ニョロに迫る狗神。
 後ずさりするニョロ、祭壇に足を引っかける。ガラスケースや飾り物が落下。ケースが開き、結石が飛び出す。
狗神 「しまった! 結石が!」
 片手で瞬時に掴む狗神。違和感。顔が険しくなる。手のひらを広げ、中を確認する。
狗神 「コレ、石じゃねぇ!! 色塗ったティッシュだ!」
ミケ 「成程アイ・シー贋物フェイクなら御利益ゴッズ・ブレスが無くて当然だ。でも誰がフー? 何故ホワイ?」
 険しい顔でティッシュを握りつぶす狗神。
狗神 「…番頭ぉ!」 

〇テレビ局(同日)
 収録終わり。楽屋に番頭一人。うっとりした様子で、小型ケースに入った結石を眺める。
番頭 「凄いなぁ、ケッセキ様の力は。本当に夢が叶うんだから。ケッセキ様、もっと叶えて下さいね…」
 番頭のスマホが鳴る。狗神から連絡。

*****
〇シェアハウス(後日・夜)
 居間。おつまみを食べる狗神、爺ヶ岳、番頭の三人。
狗神 「悪ぃな、忙しいのに宅呑み誘って」
番頭 「いえ。僕も久し振りに会いたいなって」
 ちらっ、と爺ヶ岳を見る番頭。
爺ヶ岳「どんどん食べて。番頭君の為に沢山作ったから」
番頭 「はい! 頂きます!」
 嬉しそうに食べる番頭。
 真剣な様子の狗神。少し開いた襖、様子を伺うミケとニョロ。

〇深夜の出来事
 番頭が使っていた部屋に似た内装(姿見や恋愛指南書等、自分磨きに関するグッズ)。中央に敷かれた布団で眠る番頭。
番頭 「(寝言)…爺ヶ岳…、さん…」

 ふと目を覚ます。
 添い寝するネグリジェ姿の爺ヶ岳。何故か胸と尻が異常に大きい。
番頭 『じっ…、爺ヶ岳、さん!? どっ、どうして!?』
 頬を染め、慌てる番頭。
 微笑む爺ヶ岳、番頭の頭を撫でたり、指を絡ませる。
爺ヶ岳『とぼけた顔もカワイイなぁ、番頭クン。決まってるでしょ? ナニしたいか』
番頭 『…なっ、何って…』
 ゴクリ、と唾をのむ番頭。震える手で爺ヶ岳の肩を抱き、顔を近づける。番頭 『爺ヶ岳さん。初めて会った時から、ずっと想ってました。やっと、夢が叶う…』
 舌を出し、キスしようとする番頭。

 現実。ニョロの部屋。防音壁、数台のパソコン、成人向け雑誌の本棚。
 ベッドで横になる番頭。ヘッドギアを装着、両手に専用のグローブを付けている。(※ヘッドギアはヘッドホン(音声機能)を内蔵。目元はニョロが開発したVRゴーグルで、ニオイが感知出来るように鼻も覆う改良型。グローブと共にワイヤレス。視覚、聴覚、臭覚、触覚で疑似体験を楽しむというもの)。
 番頭の隣、添い寝するミケ。ヘッドマイクを付け、爺ヶ岳のフリをして会話。右手に棒付きキャンディ、左手にセンサーが付いたマジックハンドを持ち、番頭を弄ぶ。
 番頭の枕元、大きめのタブレットを操作するニョロ。画面には番頭が見ている映像、音やニオイの数値。
 キャンディにかぶりつく番頭。
番頭 「爺ヶ岳さんっ…! 爺ヶ岳さんっ…!」
ミケ 「もっと舐めて。そう、とっても上手よ、番頭クン」
 廊下。扉の隙間から覗く狗神と爺ヶ岳、感心した様子。
狗神 「流石、貴族。野郎の扱い上手だな」
爺ヶ岳「私とえっち出来るなんて。凄いわね、ニョロちゃんの発明品」
ミケ 「番頭クン。ワタシ、捜してるモノがあるんだ。金色で、棘があって、手のひらに乗るくらいの…」
番頭 「けっ、ケッセキ様ですねっ! それなら…」

〇タワーマンション
 番頭の部屋。ベッドに横たわる番頭、ヘッドギアとグローブを装着し、爺ヶ岳の全身がプリントされた抱き枕を抱く。枕元に起動中のタブレット、道具一式入る専用箱、分厚い取説。
番頭 「爺ヶ岳さぁぁん! ずっと一緒だよぉぉぉ!」

〇河川敷
 静かな周辺。日が昇り始め、水面がキラキラと輝く。
 橋を渡る狗神、ミケ、ニョロの三人。狗神の手に結石。
狗神 「結石は無事取り返した。これで、日本一のお笑い芸人に戻れるってワケだ!」
 狗神の手から結石を取り上げるミケ。
ミケ 「憧れてたんだ、世界公演ワールドツアー。勿論世話係メイドを連れてね」
 ミケの手から結石を取り上げるニョロ、険しい顔で二人を威嚇する。
狗神 「オレのだから返せって? キモイから捨てろっつったの誰だよ!」
ミケ 「禁止アウトだよ、独り占めオンリー・ワンは!」
狗神 「テメェこそ! 自分の為に使うな!」
ミケ 「Mr.狗神、キミだって自分だけ勝ち組ウィナーになろうと」
狗神 「はァ!? オレはテメェらの事も考えて…」
 取り合う三人。手を滑らせ、宙を舞う結石。欄干を越え、橋の下へ落ちる。ポチャン、と沈む音。
 呆然とする三人。

*****
〇商店街(後日・秋頃)
 歩行者天国の通り。ポケットに手を入れ、キレ気味に歩く狗神。
 狗神にスマホを向ける通行人。
狗神 「…ったく、マジで意味分かんねぇな。全力でやってんのに、盛り上がらねぇわ、笑いの一つも起きねぇとか。つか、野球の指導してる時が一番ウケるって何だよ。バットにサイン下さいって、野球選手じゃねぇんだが」
爺ヶ岳「狗神くーん」
 少し離れた場所、買い物袋を手に微笑む爺ヶ岳。
 
 通りを歩く二人。重い荷物を持つ狗神。
爺ヶ岳「どうだった? 学園祭の営業」
狗神 「オレとしちゃぁ、自信あったんだが…。やっぱ向いてねぇのかな…」
 落ち込む狗神。
 二人に近付く内気そうな青年。
青年 「あの、ヘルハウンド狗神さんですよね。僕、ファンなんです。〈深夜の悲喜こもごも〉に出てた時から」
狗神 「それ、五年前のテレビ番組…、オレの初めての仕事…」
青年 「僕、その時高校生で、模試で良い結果出なくて、落ち込んでて。でも狗神さんのネタを見たら、沢山笑って元気貰って。そのお陰で合格したんです、第一志望の大学! 本当にありがとうございました! 誰がなんと言おうと、狗神さんは日本一のお笑い芸人です! これからも応援してます!」
狗神 「…日本一…」
 落ち込んでいた狗神の顔が、徐々に明るくなり、照れくさそうに微笑む。
狗神 「そうだよ。オレは、日本一のお笑い芸人だ」

○シェアハウス(夕方)
 玄関。三人の表札が、取り外し可ではなく固定されたものに変わっている。
 居間。掘りごたつ式のテーブル。席に着く狗神達三人(爺ヶ岳は外出して居ない)。
 ご飯、味噌汁、鯛の塩焼き、サラダ。大きめの鯛を一匹丸々食べる狗神。小さめの鯛をナイフとフォークで切り分けるミケ。二人が残した頭や骨を食べるニョロ。
ミケ 「爺ヶ岳さんにお願いプリーズしようかな。老舗企業フェイマスカンパニー令嬢プリンセスなら強いコネがある。夢追い人ドリーマー支援者パトロネスになるのが彼女の夢。此処シェアハウスに居れば、いつでも人気者ポピュラーになれるし、彼女の夢も叶うドリーム・カムズ・トルゥー
狗神 「確かに。だが面倒見てもらうのは生活だけだ。夢ってのは、自分の力で叶えなきゃな!」
 ガッと、鯛の身を箸でつまみ、勢いよく鯛とご飯をかき込む狗神。
 呆れ気味のミケとニョロ。
ミケ 「無理だよユウ・キャント。たった一人で何が出来るのさ。それとも伝手グッドアイディアがあるとか…」
 ガリッ、という金属音が響く。
 目を丸めるミケとニョロ。
 狗神の口、あの結石が歯に挟まる。
三人 「あっ…」
 

『イマドキ昔ばなし』第三話  終

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