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『イマドキ昔ばなし』第二話

○都内・下町の商店街(春頃)
 歩行者天国の通り。
 ポケットに手を入れ、キレ気味に歩くヤクザ風の男・狗神。
 距離を取る通行人。
狗神いぬがみ:二十代後半。高身長、筋肉質で坊主頭。色付きサングラス、上下スウェット、クロックス。腕や胸元に傷痕(刺青は無い)。外見に反して根は真面目】
狗神 「(ペッと唾を吐き)…ったく、マジで意味分かんねぇな。真剣にやってんのに、やる気が無ぇだ、魂感じねぇとか。つか、テメェらの話し方直せよ。校長の挨拶みてぇに長ぇし、ドヤ顔でネット用語使うし。全然スベッてんだが」
爺ヶ岳「狗神くーん」
 少し離れた場所、買い物袋を手に微笑む女性・爺ヶ岳。
爺ヶ岳じいがたけ:年齢は二十代半ば。小柄な体型、三つ編み。ワンピースドレスにエプロン姿。顔立ち・服装共に派手さは無く素朴。のほほんとした雰囲気】
          
 通りを歩く二人。米袋や重たい荷物を持つ狗神。
爺ヶ岳「どうだった? オーディション」
狗神 「オレとしちゃぁ、自信あったんだが…。やっぱ向いてねぇのかな…」
 落ち込む狗神。
爺ヶ岳「大丈夫。狗神君ならなれるよ、日本一のお笑い芸人」
 微笑む爺ヶ岳。
爺ヶ岳「そうそう、今夜出掛けるの。夕飯作っとくからみんなで食べて」
 
○シェアハウス(夕方)
 古民家風の一軒家。門に〈爺ヶ岳コーポ〉の看板。玄関に〈爺ヶ岳〉〈ヘルハウンド狗神〉〈Michael Orland〉〈蛇塚たまき〉の表札。(狗神達三人の表札は取り外し可能なもの)。
 
 居間。掘りごたつ式のテーブル。席に着く狗神とミケ。
【ミケ:狗神と同い年の青年。高身長で華奢な体型。白銀の髪、碧眼、中性的な顔立ち。ゴシック系の服装(フリルが付いたブラウスや黒のスラックス等)を身に付けている】
 テーブルには、電気コンロにかかる具沢山のおでん鍋、炊飯器や替え玉のうどんが置かれている。大きなお椀で、おでんやご飯を食べる狗神。洋食器(皿やナイフ等)を使い、優雅に食べるミケ。
狗神 「どうだ? オメェの評判」
ミケ 「全然ノー・グッド。何処へ行っても変人扱いストレンジャーさ。事務所オフィスから変更イメチェンを薦められたよ。でもね、気に入ってるんだ、この設定キャラお茶会ティー舞踏会ダンスをこよなく愛する、絢爛豪華ブリリアント貴族系演歌歌手ノーブル・エンカ・シンガー。音楽界の頂上トップに相応しいと思わない?」
 空席に目を向ける狗神。子供っぽいお椀や箸が並ぶ。
狗神 「ニョロは研究か。さては〈心地良い感覚〉ってヤツでも閃いたな」
ミケ 「何も思い浮かばないノー・アイディアで、気を病んでるストレスフルとか。創作界隈クリエイティヴィティって多いでしょ、繊細ガラスハートな人」
狗神 「ハハッ、ニョロに限ってそんな…」
 ドンッ、と物音。
 
 トイレ。
 ドアノブに〈使用中〉の札、隙間から漏れる光。だが、トイレからは物音一つしない。
 扉の前に立つ二人。
ミケ 「お手洗いトイレって、適してるグッド・プレイスらしいね。本体は頑丈ストロング足場になりやすいイージー・トゥ・スタンド、換気窓は引っ掻けるハングには丁度の高さベスト・ポジション。おまけに個室で邪魔されにくいノーワン・ケアズ
 冷静に分析するミケ。
 険しい顔付きで、トイレの扉に体当たりする狗神。
狗神 「テメェ! エロVRで一儲けして、SF映画みてぇな研究所建てて、メイドロボと幸せに暮らすんだろ!! 夢叶えずに人生終わらせんじゃねぇ!!」
 数回体当たり。金具が外れ、扉が壊れる。
 
*****
〇シェアハウス(翌日・昼前)
 居間。掘りごたつに座る狗神、ミケ、爺ヶ岳。テーブルに遺影風のニョロの写真、特殊なVRゴーグル、骨壺のような白い小さな箱。空気がお通夜状態。
【ニョロ:狗神と同い年。黒髪、そばかす、メタボ体型等、〈おたく〉的な外見。※ニョロは作中一言も話さない。頷く・顔をしかめる等、アクションや表情で感情表現する】
 落ち込む爺ヶ岳。
爺ヶ岳「そっか…。ニョロちゃんが…」
狗神 「暫く入院だとよ。偏食に引き籠り、こんなモンも出来りゃ当然だな」
 小箱を開ける狗神。手のひらサイズの黄色の結晶。
 興味深げに観察する三人。
ミケ 「凄いねオウサム、この尿道結石。どうしたらこんなビッグになるのさ」
狗神 「そりゃ、実験だって毎日何回もヤッてたからだろ」
爺ヶ岳「でも、綺麗ね。宝石みたいで。そうだ、折角だから飾りましょ」
 
 神棚。
 ハンカチに包まれた結石を備える爺ヶ岳。どこか嬉しそう。
爺ヶ岳「どう? シェアハウスの守り神、ケッセキ様! ケッセキ様、ニョロちゃんが早く元気になりますように。ほら、二人も一緒に」
 手を合わせる爺ヶ岳。
 爺ヶ岳の後ろで手を合わせる狗神とミケ。あまり乗り気でない様子。
爺ヶ岳「交通事故に遭いませんように。風邪を引きませんように。毎日楽しく暮らせますように」
 小声で話す狗神とミケ。
ミケ 「相変わらず天然マイペースだね、爺ヶ岳さん。このまま教団カルトクラブ立ち上げたりして」
狗神 「唯の尿道結石だ、有難がっても意味無ぇよ」
 嬉しそうに祈り続ける爺ヶ岳。
爺ヶ岳「狗神君とミケちゃんとニョロちゃん、三人の夢が叶いますように」
 キラリ、と意味ありげに輝く結石。
 
*****
〇新たな日常(後日)
 ミケの場合。
 コンサート会場。入場待ちの行列。やって来る一台の馬車。降りるミケ。行列から黄色い歓声。ミケの写真を撮ったり、手製のグッズを見せる観客達。
 
 ニョロの場合。
 ゲームやVR系のイベント。ニョロのブース。〈次世代のAdultアダルト Virtualバーチャル〉の看板が立ち、ブース内に体験用の個室が幾つかある。体験待ちの長蛇の列。体験を終え、個室から出てくる参加者達。誰もが満足そうな笑みを浮かべている。その笑みを見て、嬉しそうに微笑むニョロ。
 
〇シェアハウス(夜・十九時頃)
 玄関。ミケとニョロの表札が外されている。
 居間。テレビを見る爺ヶ岳。バラエティ番組。ひな壇の前方、膝を閉じ、両手で拳を作って膝の上に乗せ、背筋を伸ばして座る狗神。〈ヘルハウンド狗神〉〈二十八歳〉〈ピン芸人〉のテロップ。真面目に答える狗神。
司会者『狗神君ってさ、何で芸人になったの? 小学校から野球やって、強豪校入って甲子園優勝して、球団からスカウトされたのに』
狗神 『みんなを笑顔にしたいんですよ。悲しい時、ツラい時、オレのお陰で元気になれた、勇気を貰った、感動したって。そう思ってくれたら嬉しいなって』
司会者『それ、野球選手でもイイじゃん!』
客席 『ワハハハハハッ!』
 玄関が開く音。
 帰宅する狗神、手にはボストンバッグと土産袋。
狗神 「ただいまー」
爺ヶ岳「お帰りなさい。地方ロケお疲れ様」
番頭 「こっ、こんばんは」
 狗神の後ろに立つ青年・番頭
番頭ばんとう:狗神より若い。黒髪、色白、華奢な体型。地味で大人しそうな印象】
狗神 「この前言ってた、後輩の番頭。暫く世話になるわ」
番頭 「よっ、よろしくお願いします」
爺ヶ岳「こちらこそ。ミケちゃんとニョロちゃん、新しいお家に引っ越しちゃって寂しかったの。嬉しいわ、また賑やかになって。それじゃあ、番頭君。お詣りしましょ」
 
 結石専用の部屋。
 階段型の祭壇、最上部にガラスケースに入った結石。階段下や部屋の至る所に、ミニ鳥居や招き猫、賽銭箱等の縁起物が多数置かれている。壁や天井にもご利益がありそうなものが飾られており、とにかくカオス。
 圧倒される番頭。
番頭 「こっ、これですよね、飲み会で言ってたケッセキ神社。御利益ありそう…」
狗神 「ないない。縁起物置いてそれっぽくしてるだけだよ」
 冷静な狗神。
 祭壇の前に正座し、手を合わせる爺ヶ岳。後ろに座る狗神と番頭。
爺ヶ岳「交通事故に遭いませんように。風邪を引きませんように。毎日楽しく暮らせますように。番頭君の夢が叶いますように」
 頭を下げ、目をつむる狗神。適当なお詣り。
 手を合わせ、目をつむり、真剣に祈る番頭。
 
 番頭の部屋。
 和室で、タンス、折り畳みテーブルとイス、布団一式など必要最低限の家具が置かれている。
爺ヶ岳「ここが番頭君のお部屋。パソコンとか化粧品、欲しい物は何でも言ってね」
番頭 「はっ、はい! ありがとうございます!」
爺ヶ岳「それじゃ、おやすみ」
 優し気に微笑む爺ヶ岳。
番頭 「おっ、おやすみ、なさい」
 ドキッとして、頬を染める番頭(爺ヶ岳に恋心を抱く)。
 
 結石の部屋。
 キラリ、と意味ありげに光る結石。

                  『イマドキ昔ばなし』 第二話 終
 

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