2026年 褐色の旅人

彼女の灰色のパーカーはいかにも旅人然
褐色の肌 透明感とツヤ
鼻の山脈の中ほど 向かってやや左に小さな黒いホクロ
肌と同じ明度の目の玉 ゼロ白眼
肌より明るい色の髪をまとめ込んだ黒色キャップ いかにも旅人然

冬眠 その名の通りのサービス
血液と脳波を少し狂わせる疑似体験
眠って冬を越そうというわけではない
深く潜るのである
三途の川の散歩
川は何かと何かの境界
生と死 自分と未来 影と光

彼女は刺激を求めて旅に出た やがて単調な毎日に気づく
朝日 朝食 散歩 昼食 散歩 夕日 夕食 星空 就寝
米の飯とお天道様はどこへ行ってもついて回る
しかし他には何もついてこない
刺激に鈍感になるばかり

冬眠を終えた彼女 わたしが出会ったのはそのタイミングだ
輝ききった大きな両の目 逸らせなかった
初対面の第一声から四次元を説く
冬眠で三と四の境界を見てきたらしい
我々の生きている三次元の世界
三次元は写真や映画のような二次元でもおおよそ体験できる
三次元の射影が二次元
四次元の射影が三次元
人間は四次元を想像体験することができる

彼女はわたしの四次元での容姿を褒める
特に三次元で水かきと呼ばれているところが最高
興奮は冷めない わたしを四次元に誘うように体を動かす
大きな目の玉 三次元
褐色の肌 二次元
鼻の黒点 一次元
そこに吸い込まれていく