2026年 盆の窪の淵に沿って黒く二筋垂れる

米国行きの飛行機
空気の薄い雲の上 そこには人の温かみがある
空気の濃い地面の上 そこには人を感じない
地上では全てが機械経由 全てが電波経由
空の客室担当乗務員の絶滅具合は寿司職人と同程度
時代遅れだと悪者か愚者のように世間は指差す
彼女はAの側の通路で接客していた

彼女の英語のCuキュの発音が脳を締め付けた
一瞬こもり吐き出されたとき
吐息は外気と少しだけ温度差を持つ
その弱い熱量を空気越しに感じ取る
凝視 身体中の熱点を解放 熱さを独り占め

彼女のまとめ上げた黒髪
細い首を三六〇度全方位から眺める
至極は襟足 盆の窪の淵に沿って黒く二筋垂れる
縁取った産毛が美しさを支える
盆の窪の二筋 生命と美 虚構と現実
距離を置いて迎える絶頂

彼女の左右の耳
頭の球体に寄りかからず顔からは独立
単独で存在する最高の造形美 美の道を辿る旅
曲がり回り回り曲がる
元の道には戻らない 穴には落ちない
曲がる度にヒノキのにおいがする
回る度にヒノキのにおいがする

彼女の舌
肉々しい舌先 縦に窪み丸みある二又
それは彼女の耳と同じようにそれだけで高度な生命体
舌先から谷をたどっていく
紅色の川を上流へ 彼女の根源へ
乾いた空の上 唾が溢れ出てくる
透明を肌で感じることができる液体に溺れる