IRIS流 顧問拒否交渉術

 私たちは部活動問題に専門に取り組む教職員組合、IRIS(愛知部活動問題レジスタンス)です。
 顧問拒否の方法について書かれたネット上の記事はいくつか存在しますが、私たちの方法はひと味違います。私たちは、完璧な理論武装によって管理職を論破することは目指していません。あくまで対話を重視し、管理職の話にもじっくり耳を傾けます。しかし、緻密に練られた<条件>を提示することで管理職を静かに追い詰め、徐々に顧問強制を諦めていただくような交渉を目指しています。
 これをお読みになった上で、さらに詳しく知りたい点がある場合は、お気軽にDMでご質問ください。要望があればzoomでの学習会や相談も随時行っています。

第1節 心構え

 IRIS流の顧問拒否交渉には3つの心構えがあります。

1 語るべからず。語らしむべし。(しゃべったら負け。)
2 勝つと思うな。負けじと思え。(論破不要。諦めさせれば勝ち。)
3 管理職が唯一合法的に主張できる論理は「勤務時間内は部活動指導を命じることができる」のみ。

1 校長の95%以上が50歳代以上、最多年齢は56歳です(令和3年度の文科省調査より)。一方、顧問拒否をする方は20歳代、30歳代の方が多いと思われます。年齢の違いに加え、管理職と一般教員という立場の違い、教員としてのキャリアの違いなど、真っ向からぶつかり合えば、顧問拒否をする側が圧倒的に不利です。こちらが話せば話すほど、向こうに攻め入る隙を与え、いつの間にか不利な形勢に追い込まれます。ですから、自ら相手に攻撃材料を与えるのを避け、相手の失点を誘うために、できるだけ相手の話を聞くようにしたほうが得策です。

2 交渉の目的は相手を論破することではありません。校長は権限を持った人ですから、その人から「顧問をやらなくてよい」という一言を引き出せれば目的達成です。相手を論破するというのも一つの方法かもしれませんが、相手にもプライドがありますので、論破されまいとして頑張ってしまう場合があります。たとえ論破されようと、意地でも顧問拒否を認めないという行動に出る校長もいることでしょう。そうなっては逆効果です。それよりも、粘り強く顧問を断り続けることで、これ以上説得するのは無理だと相手を諦めさせる方法のほうが、穏便に目的を達成することができます。

3 顧問拒否の交渉では、こちら側が圧倒的に有利です。なぜなら、校長が合法的に主張できるのは、勤務時間内に部活動指導を命令する権限だけだからです(それさえも後で述べるように、事実上存在しないも同然です)。ですから、こちらとしては緊張したり焦ったりする必要はありません。1・2の心構えを守り、後で述べる手順にしたがって交渉を進めていけば、きちんと結果を出すことができます。あれこれ心配して、自分自身を見失わない限り負けることはありません。(逆に、そういう状態に陥ると負けてしまいます。)

第2節 交渉の手順

1 勤務時間外の部活動指導は行わなくてよいことを確認する。
2 勤務時間内の部活動指導について、表1の条件を満たさなければならないことを確認する。
3 勤務時間外の部活動指導について委嘱・お願いをする場合、強制になってはいけないことを確認する(表2)。
4 情に訴える作戦に出てきたら、礼を失しない程度に耳を傾ける。頃合いを見計らって、勤務条件に関する交渉に来たのだからと言って、話を打ち切る。
5 何を言われても頑として引き受けない意思を繰り返し示し(「やりません」「引き受けません」のワンパターンで対応する。この段階では新たな主張をしない)、相手が諦めるのを待つ。

1 「心構え」の3番で述べたように、管理職が合法的に主張できる論理は「勤務時間内は部活動指導を命じることができる」しかありません。裏を返すと、「勤務時間外は部活動指導を命じることができない」ということです。まずはこれを確認して、目標の何割かを達成します。部活動指導の大半は勤務時間外に行われますので、これだけでも相当な成果です。交渉上の効果としては、相手の出鼻をくじくことで交渉の主導権を握ることができます。

2 勤務時間内の部活動指導は「管理職が唯一合法的に主張できる論理」と述べましたが、実際には、それすら管理職は主張することができません。表1を見てください。

表1 <勤務時間内に部活動指導を適法に命じるための条件>
①原則として部活動指導業務が勤務時間外に及ばないこと。
②部活動指導業務がやむを得ず勤務時間外に及ぶ場合、勤務時間の割り振り変更を適正に実施し、時間外勤務が生じないようにすること。
③部活動指導業務以外の業務に必要な労働時間も含め、1日の労働時間が7時間45分、1週間の労働時間が38時間45分を超えないこと。
④45分間の休憩時間を勤務時間の途中に付与すること。(時間を設定するだけではなく、実質的に休憩が取れる条件が整っていることを要す。)

 これらの条件をすべて満たした上で命じるのであれば、その命令は適法であると言えます。しかし、事実上、それは不可能です。表1の項目を一つ一つ指し示しながら、条件を満たせるのかどうか確認していきましょう。

3 手順1・2で、勤務時間の内外を問わず適法に部活動を命じることはできないことが明らかになりました。こうなると、校長は命令という方法を使うことができませんので、委嘱・お願いという方法を選択してきます。「委嘱・お願いなら断れますね」と尋ねて「そうだ」という答えが返ってくれば交渉終了ですが、そうでない場合に用いるのが表2です。

表2 <部活動指導の委嘱・お願いが強制に該当しないための条件>
(①〜⑤のようなことが行われないこと)
①勤務時間外の指導を引き受けるかどうかの意思を確認しないまま、部活動顧問を命令又は委嘱すること。
②勤務時間外の指導を引き受けない意思を示した教員に対し、長時間に渡って管理職や分掌主任等が面談を行うなど、執拗に説得を試みること。
③勤務時間外の指導を引き受けない教員に対し、不合理に負担の大きい業務を担当させたり、過大な業務量を課したりすること。
④勤務時間外の指導を引き受けないことを理由に教職員評価を引き下げること。
⑤勤務時間外の指導を引き受けない教員に対し、不当な人事異動を行うこと。

 まず民間企業の例を見ておきましょう。例えば企業内で行われる「自主研修」で、自由参加と謳われているものの、不参加の場合に何らかの不利益がある場合は事実上の強制がなされており、労働時間と認定されます。(判例・裁判例・行政解釈を参照
 では部活動顧問を委嘱・お願いする場合で考えてみましょう。たとえ名目上は委嘱・お願いであったとしても、それを断った場合に表2にあるようなことが行われる場合は事実上の強制がなされていると言え、命令にあたります。

4 命令どころか、委嘱・お願いもできないとなると、校長に残された手段は情に訴えることくらいしかありません。自身の経験を踏まえながら部活動の教育的意義を語る、教師としての成長につながると説く、他の先生たちにしわ寄せが…など、さまざまなパターンがあると思いますが、いずれの場合でも、話はある程度聞きましょう。相手の話を聞くことは、心構えの1番で述べたこととも矛盾しません。それに、年長者に対する礼は守るべきです。しかし、そんな話を聞くために来ているわけではありませんので、ある程度相手に話をさせたら、ビジネスライクに話を打ち切りましょう。

5 ここまでやりきったら、あとはひたすら断るだけです。やることはただ一つ。権限を持つ校長が、「もう顧問はやらなくていい」と言うのを待つことだけです。その一言が出た瞬間、大きな笑顔で「ありがとうございます!」とお礼を述べ、颯爽と校長室を出ましょう。

「IRIS流 顧問拒否交渉術」は以上です。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。ここでお伝えしたことが少しでも皆さんのために役立てば幸いです。

 さて、私たちはPEACH(全国部活動問題エンパワメント)の活動の一環として、2022年3月30日(水)に国会・最高裁・文科省などを訪れ、部活動に関する請願書を提出する予定です(詳しくはこちらのツイートを参照)。IRIS役員3名分の交通費としておよそ70,000円かかりますが、組合の財政基盤が弱いため、基本的には自腹で支出せざるを得ません。少しでも自己負担を少なくするため、これをお読みになった方で「参考になった」と思われた方は、任意の金額にて「IRIS闘争資金カンパ」にご協力いただければと思います。ご協力いただける方はIRISのツイッターアカウント@iris_bukatsuにDMでお知らせください。よろしくお願いします。

↑ まだ全く目標金額に達していません。是非ともご協力をお願いします。(4月2日追記)

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