見出し画像

馬泥棒

ロンドンに留学して、3日目に馬泥棒と間違われた。
渡英後すぐに片田舎に住む知り合いのイギリス人夫婦の家に10日ばかりステイさせてもらった。
健康好きな旦那さんで、僕にジョギングをやたらと勧めてきた。
僕も運動は嫌いではないけれど、初めて行った異国の村で走ろうという頭はなかった。
でも、毎日しつこく言ってくるので、嫌な予感を抱えつつも、3日目についに走ってしまった。

黒のジャージ上下で。

走りはじめたらすぐに広々とした牧場になり、
風景も代わり映えしないし、そろそろ引き返そうかなと思ったときに馬が10頭くらい放し飼いでいた。
実は、馬10頭の放し飼いは初めて見た。
適度な運動の後で休憩の意味を込めて、ぼーっと10分くらい馬を眺めてからまたジョギングで岐路に付いた。ちょっと行ったところでパトカーが向こうからやってきた。こっちに来てから初めて見たし、日本のとはちょっと違うなあなんて思いながらすれ違うと、30秒位してから背後からクラクション
振り向くと、あれさっきすれ違ったパトカーじゃないか。
僕の先で車を停めけっこう大きな警官が降りてきて、
「ココで何してる?」と聞いてくるから
「走ってる」と正直すぎる返事をすると
「君は何処に住んでるの?」と職務質問(?)された。
「ここから近い知り合いの家に泊まってます」とかわいく答えると
「パスポートは?」
「持ってません」
(え?ジョギングするのにパスポート持ってる人なんかいたら教えてくれ!)
「じゃあおじさんが送ってってあげるから乗りなさい(意訳)」とデカイ警官
デカイ図体のくせに助手席の書類を神経質そうにまとめてた。
パトカーの助手席に乗ると、
「君が馬を見ていたという通報があって、呼ばれてきたの、この辺は怪しい人が多くてね。」
(なに?じゃあオレは馬泥棒と間違われたってことなのか?)と心で思っていると
警官は続けて
「ホームステイ先で君の身分証明が出来れば問題ないから。」
で、ホームステイ先到着
警官がインターフォン越しに詳細を説明し、おばさんが微笑みながら出てきて
黒のジャージの僕を引き取ってくれた。
今度から気をつけなという感じで僕の肩をポンとたたいたが、
僕はあれ以上もあれ以下も気を付ける事は出来なかったし、
これっぽちの馬に対する盗みたいという気持ちはなくジョギングしてただけなのに疑われちまった。
不運としか言えない。その気持ちを通報する直前の家の窓のカーテンの隙間から僕を監視していた農家の人に伝えたかったなあ。
あんなに身の潔白が自分で証明できないのはもどかしかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?