【感想】晴れときどき、わかば荘 あらあら・まあまあ※ネタバレ含

『晴れときどき、わかば荘 あらあら』
『晴れときどき、わかば荘 まあまあ』

皆さんはこの二冊のBL漫画をご存知だろうか?
こんばんは、入相海です。

大層な前書きっぽい書き方をしたけど、数年前に買って、今でも時折読み返しているBL漫画です。
絵は好き嫌い分かれるかも。
華やかな絵柄ではなくシンプルだけど色気があって、それぞれのキャラクターごとの『生』が滲むようなタッチが特徴的な作家さん。
それが羽生山へび子先生だ。


羽生山先生の作品で、私が一番最初に読んだのは『僕の先輩』と言う漫画だった(こっちも面白い)。
癖が強い絵柄だなぁと思ったけど、お話作りがとても上手い。広げすぎず、かつ小さすぎない世界観の中で丁寧に物語を描く方だなぁというイメージがある。
ギャグだったり言葉(セリフ)回しも上手い。思わずクスッとなったりじんわり沁みたかと思えば、ゲラゲラ笑うようなシーンもたくさんある。

僕の先輩も好きだけど、せっかく感想を上げるならわかば荘にしようと思った。
どちらの漫画も一カプオンリーではなく、わかば荘に暮らす人間が絡んだ話がいくつか入っている。
あらあらでは同級生ヤンキー同士、久しぶりに再会した幼馴染、ジョッキーを辞めてしまった先輩と先輩の影を追いかける後輩ジョッキー。
まあまあではヤクザ上がりの男と性に奔放な英語教師、わかば荘の板前さんと大家さんのカップリング。どれもおいしい。ざっくりまとめただけなので、足りない点はあると思う。なのでサンプルを読むなりなんなりしてください。

んで。
私があらあらからどれか一つ選べと言われたら『青い影』、もしまあまあから一つ選ぶなら『HARD LUCK WOMEN』を選ぶ。
特にHARD LUCK WOMENは号泣した。
わかば荘シリーズの中で一番好きな話で、上述したわかば荘を経営している大家・わかばさんのお話だ。
この話の後編で、わかばさんは

「そうね あたしたち弱いわね」
「しかもあなたは優しいわ」
「優しくて善人なのよ」
「優しい善人はいつだって孤独」
「だから」
「強くなるのよ」
「そうすれば あなたも幸せ」
「まわりも幸せよ」

出典:晴れときどき、わかば荘 まあまあ

と言う。
自分自身に言い聞かせるようなモノローグで、このセリフを読むたび胸が軋む。
自分の幸せはいらないから、あの子供にあげてくれ、と心から願う。そんなシーンのセリフ。

知らない子供の幸せを願うなんて、そうそう出来ることじゃない。
わかばさんだって色々大変で、たくさん辛い思いをしてきたはずなのに、わかばさんはとても優しい。子供とはいえ他人に優しくするのは難しいのに、だ。
会えなくなっても「さみしくないかしら」「おなかすいてないかしら」と気にかけていた。
わかばさんとこの子供がどうなったか気になる方は、実際に読んで確かめて欲しい。

羽生山先生の漫画は敵役も出てくるし、嫌な言葉で主人公を傷付けるけれど、いつもあったかくてじくじくと切なくて、どこかに帰りたくなるような懐かしい空気が漂っている。
羽生山先生が何を思ってこのセリフを書いたのか知らないし、作風=作者の人間性では無いことは重々承知している。
それでもこの漫画を読むたびに、この漫画を描いた羽生山へび子先生はどんな人なのだろうと想いを馳せる。
晴れときどき、わかば荘は柔らかな毛布で包むような、お菓子の缶に大切な思い出をしまって何度も取り出すような、そんな漫画だと思う。

羽生山へび子先生は2020年に亡くなった。どのように亡くなられたとかそう言ったことは調べていないので分からない。
これは後から知ったことで、先生が亡くなってもう数年が経っていた。
だからこれは全て、読み返すたびに振り返るだけの話だ。

それではさようなら。

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