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司法試験平成21年(特許法)答案作成

 第1 設問1の1(職務発明が共同発明の場合の処理)
 1 職務発明について
 甲・乙による本件試薬の発明は、「使用者等」であるA社・B社の「業務範囲に属する」発明であって、「従業者の現在…の職務に属する発明」であるから、職務発明(35条1項)にあたる。よって、問題文のような勤務規則の定めにより、A社と甲、B社と乙との間では、当該権利を承継させることができる(同3項)。
 2 共同発明について
 本件試薬は甲と乙とが共同研究して開発したものであるから、共同発明にあたる。よって、その特許を受ける権利は甲と乙が共有する。また、共有者である甲と乙の同意がない限り、当該権利を第三者へ譲渡することはできない(33条3項)。
 職務発明に関する35条3項は、特許を受ける権利の承継に関する規定である。よって、同項によって共有者の同意なく使用者等に当該権利が帰属するわけではない。つまり、33条3項が優先されるため、甲と乙の同意がない以上、A社・B社は本件発明の特許を受ける権利を有しない。
 3 結論
(1)問題文前段について、A社とB社は、甲と乙に対して、特許を受ける権利の確認請求等をすることはできない。
(2)問題文後段について、A社・B社が特許を受ける権利を有しない以上、冒認出願に基づく無効審判を請求(123条1項6号、同2項)することもできない。しかし、職務発明の成立は認められるから、法定通常実施権(35条1項)の確認請求をすることができる。

★特許権の共有は73条。共同発明では「33条」と「73条」が問題となる。共同出願は38条←無効審判請求でも出てくる 「きょうどうみみなみ」「きょうどうさんぱち」
★共同出願(38)違反と冒認出願では、真の権利者による移転請求(74条、79条の2)が問題となること多い。
★共同発明と職務発明が絡んだ場合の処理がテーマ
★A社と甲、B社と乙との間で職務発明が成立することに触れる。
★職務発明をだらだら認定しない。

 第2 設問1の2
 1 上記の通り、本件新薬の発明には職務発明が成立する。また、「従業者等」である甲・乙が特許を受けたため、「使用者等」であるB社には法定通常実施権(35条1項)が認められる。よって、適法に上記発明を「実施」(「生産」「譲渡」)することができる(2条3項1号)。
 2 甲はB社に対して、本件試薬の製造販売の差止め(100条1項)、損害賠償(102条3項、民法709条)を請求することはできない。

 ★職務発明が成立しない場合
 製造販売は発明の「実施」(「生産」「譲渡」)にあたる。そして、保存行為論に基づいて、甲が単独で上記請求できるとする。

 第3 設問2
 1 設定登録前について

(1)設定登録がなされていないため、特許権は発生していない(66条1項参照)。
 しかし、本件試薬の特許を受ける権利は甲・乙が共有するため、無権利者丙が単独で特許出願をした場合は共同出願(38条)違反となる。よって、甲と乙は丙に対して特許を受ける権利の確認請求をすることができる。なお、A社とB社は当該権利を有しないため何も請求できない。
(2)甲が単独で特許出願した場合も共同出願違反となるため、乙は甲に対して特許を受ける権利の確認請求をすることができる。A社とB社は何も請求できない。
 2 設定登録後について
(1)丙は本件試薬の共同研究に関与していないから、本件試薬の特許受ける権利を有しない。よって、甲と乙は、丙に対して、①冒認出願による特許無効審判請求(123条1項6号、同2項)や、特許権移転請求(74条1項、123条1項6号)をすることが考えられる。また、特許を受ける権利は甲と乙が共有するから、②共同出願違反に基づく特許無効審判請求(123条1項2号、同2項)や、特許権移転請求(74条1項、38条)をすることができる。
 A社とB社、特許を受ける権利を有しないため、123条2項かっこ書により上記の請求をすることはできない。しかし、職務発明により法定通常実施権を有するから、丙に対してその確認請求をすることができる。
(2)甲が単独で出願した場合はどうか。
 甲は特許を受ける権利を有するから冒認出願とはいえない。しかし、共同出願違反であることに変わりないため、乙は、甲に対して、共同出願違反に基づく特許無効審判請求や、特許権移転請求をすることができる。
 A社とB社は、上記(1)と同様の理由により、法定通常実施権の確認請求をすることができる。   以上

★特許権の移転登録前に実施しているものには、79条の2(法定通常実施権)が適用されて保護される。

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