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古典を新しく解釈したアニメ『平家物語』の魅力

今年1月からテレビアニメ『平家物語』が放送されています。平家物語とは鎌倉時代に書かれた史実を基にした軍記物語。平清盛によって築かれた平家(平氏)の栄光と没落が描かれた作品です。日本の古典文学としてはかなりメジャーな作品なので、大河ドラマにもなったり、能や歌舞伎の題材にもなっています。

監督は『けいおん!』『聲の形』『リズと青い鳥』などで知られる。山田尚子監督です。山田監督は京都アニメーションに所属していましたが、放火事件の際は幸いにも事件に巻き込まれず、今作は事件以降初めての作品で、サイエンスSARUでの制作です。

今回アニメ化された平家物語は、今までにない平家物語なのだと思いました。その理由と魅力を書いていきたいと思います。

今まで描かれなかった視点からの平家物語

原典の平家物語に主人公に当たる人物はいません。琵琶法師という盲目の僧侶で吟遊詩人の人物が狂言回しとなり、物語は語られます。平家が時の後白河天皇すら凌駕するほどの実権を握ることになる保元の乱から平家が滅びることになる壇ノ浦の戦いまでが描かれるのが基本的な平家物語です。
弓の名手の源為朝、平氏の中心平清盛、平家を倒す実質的な役割を果たした源義経、女性の武人巴御前など、印象的な人物はいます。しかし、明確な主人公はいません。

後白河天皇と崇徳上皇の政争に端を発した保元の乱で活躍した平清盛は、続く平治の乱でも源義朝を破り、平家は「平氏にあらずんば人にあらず」と言われるほどの絶大な権力を握ります。この時代の平家一門はまさにやりたい放題でした。後白河天皇の権力すら抑えつつあるほどでした。
そんな中ただ一人平家には良識的な人物がいたのです。これが平清盛の長男である平重盛です。重盛は平家の驕りを嗜め、やりたい放題の父親と朝廷との橋渡しを果たしていた人物でした。

平重盛
アニメでの重盛

アニメ『平家物語』はこの重盛と琵琶法師の娘である琵琶の視点が中心となって語られます。

重盛は平家物語の序盤の重要な人物の一人ですが、ある理由から全編において語られる人物ではないのです。これが平家物語がフィクションではなく、史実が基になっている非情さとも言えます。重盛が辿る運命が少し違えば、歴史は大きく変わっていたかもしれません。

そして琵琶法師の娘である琵琶は女であることを隠して男として育てられました。そのため非常に勝気な性格で、重盛の息子の維盛や資盛はおろか、清盛にすら突っかかっていくような性格です。

琵琶

アニメ『平家物語』では琵琶と重盛に共通するある能力が描かれています。琵琶は“先を視る目”を持ち、重盛は“過去を視る目”を持っているのです。先と過去という相反する性質を視る目によって重盛と琵琶は繋がっていきます。

琵琶と徳子の視点から描かれる女性の平家物語

このアニメにおいて特筆すべきは女性の視点から描かれている点です。琵琶は女性でありながら男性として育てられ、男性として生きています。これは当時の日本社会における女性の地位が低く、男性と比べて権利が制限されていたためです。女性として生きることは男に「物」として利用されることだったのです。

琵琶と絆を築くことになる平徳子は、清盛の娘で、重盛の妹です。生まれてからずっと道具のように扱われてきたのがこの徳子です。清盛が朝廷をコントロールするために17歳で高倉天皇の妻となり入内します。まさに出生から亡くなるまで時代と男たちに翻弄され続けた女性です。

アニメ『平家物語』は琵琶と徳子の視点を加えることで、女性から見た理不尽な世界を描くことで、現代にも通底するテーマを描いています。

本来の平家物語が持つテーマとは、

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。」

『平家物語』第一巻「祇園精舎」

という、栄華を誇った者もいつかは滅びることを伝えているのですが、現代はそうではありません。グローバル資本主義社会では、富裕層ばかりがどんどん富を増やし、貧困層は世代を超えて貧困を再生産している。階級は固定化され、ツイッターで100万円をばら撒く金持ちと明日の生活にすら不安を抱えている貧困層との格差が埋まる気配は現状全くありません。

従来のテーマをただなぞるだけでは、現代人の心に強く響かないだろう。女性の視点を入れることで、ジェンダー格差が埋まらない「今」にも共通するメッセージ性を盛り込んだのかもしれません。


まだ2話しか見ていないのですが、かなり引き込まれる作品です。未見の方は是非ご覧ください!
NetflixやAmazonプライムで見られるので!!

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