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『関心領域』批評

本当に久々の更新になってしましました。死んだのか?って思われるレベルに久しぶりです。すみません。今日は映画『関心領域』について書きたいと思います。

アカデミー賞国際長編映画賞、音響賞を2部門受賞した映画『関心領域』を新宿ピカデリーで観てきました。監督はジャミロクワイの『ヴァーチャル・インサニティ』のMVやスカーレット・ヨハンソン主演『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)で知られるジョナサン・グレイザー、出演は『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015)で主演を務めたクリスティアン・フリーデル、『ありがとう、トニ・エルドマン』(2016)、『落下の解剖学』(2023)のザンドラ・ヒュラー。

ユダヤ人を収容し、大量虐殺した施設として有名なアウシュビッツ収容所の所長を務めたルドルフ・ヘスとその家族の日常を描いた作品です。

ニュルンベルグアウシュビッツ収容所所長ルドルフ・ヘス


下記にネタバレがあります!ネタバレしても問題ない作品ではありますが、お気をつけください





記録映像のような撮影と編集

この作品の特徴は全てフィックス(固定カメラ)で撮られているということ。そして人が移動するとその人物を追うようにカメラが切り替わる編集が多用されているという点にあるでしょう。
まるでバラエティのドッキリの隠し撮り映像を見ているかのようです。この淡々とした撮影・編集によって作品にリアリティが生まれています。ドラマティックな決めのショットや緊張感を生む編集を完全に排除することで、「悲劇と無関心」という作品のテーマが観客にストレートに伝わってきます。

またこの映画では照明は使わず、自然光と部屋の明かりで撮影し、また撮影後のカラーグレーディング(色味や明るさの調整)も最低限にしか行われておらず、極めて"そのまま”の映像になっています。
その中で一点かなり特徴的なグレーディングが施されているのが闇の部分です。この映画では暗闇が現実ではあり得ないほどに真っ黒です。これは日常と無関心によってその先で起きている悲劇が見えていないという状況の比喩だと考えられます。撮影や照明がリアルな分、この対比がかなり活きてきています。

照明を使わないという判断もあるためか、この映画に出てくるレジスタンスの少女がサーモグラフィーで撮影されています。この映画に出てくる人で唯一血が通っていることを象徴するかのようで非常に印象的です。


見るということ

作中、ルドルフ・ヘスとその家族はユダヤ人への残虐な行為を見ません。壁を隔てた隣の収容所からユダヤ人への悲鳴や銃声が聞こえてきますが一家はその死のうえで平和に暮らしています。哲学者ハンナ・アーレントが説いた凡庸な悪であるヘスは、ナチズムの規範に従い優秀な役人として粛々とユダヤ人虐殺を実行していきます。

終盤のシーンにおいてヘスは突如繰り返し嘔吐します。この嘔吐は物語上の脈絡がないので非常に分かりづらいシーンになっています。嘔吐した後ヘスは廊下の暗闇をじっと見つめます。まるで廊下の奥に何かがいるかのように。この廊下の奥にいるのは映画を観ている観客であり、現実を生きる私たちだと考えられます。私たちが非人道的な行為から目を背けずに“見る”ことで少しでも凡庸な悪の足を止めることができる。昨今のパレスチナ情勢を念頭にそう伝えたかったのではないかと感じました。

今後はこんくらいのボリュームで毎週批評を出せたらいいなと思っています。

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