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【第9の2話】渋谷スクランブル交差点 大学生編

今回の1分で読める1000文字小説は、渋谷のスクランブル交差点が舞台です。ずっと気になっているサークルの文香と一緒に渋谷に買い出しにきた主人公。浮かれすぎてこの後のサークルの集まりに遅れそうだ。文香の前でダサい所は見せられない。赤信号がそろそろ青信号に変わろうとしている。


1000文字小説

「ねえ、間に合わないんじゃない?」と文香。
「なんか怪しい感じになって来たね。ちょっと小走りで渡ろうか。」と俺。ポケットから出したスマホを見るともう間も無く15時だ。


 いつもはそれほど気にならない横断歩道の赤信号が今はとても長く感じる。このままだとバスに乗り遅れてしまうかもしれない微妙なラインだ。今から京王バスに乗って笹塚のほうに行く予定で15時渋谷発に乗らないと絶対に間に合わない。


 毎年のサークルの恒例行事かつ楽しみな行事となっている夏合宿の企画会議があって遅れるのはよろしくない。渋谷には夏合宿のイベントで使う小道具の買い出しに来ていたのだが、ちょっぴり長く居すぎてしまった。どうしてわざわざ面倒くさい買い出しを俺が率先して行っているかといえば文香と二人きりになれるチャンスだったからだ。実はちょっと文香のことが気になっている。今もこうして横断歩道を二人で待っている時間ですらドキドキしている。俺にとって笹塚に着くまではプチデートのようなものだ。だからこそ遅れてしまい文香の機嫌を損ね俺のポイントが下がることは絶対に避けねばならない。



「青に変わったよ。ちょっと急ごう」と俺。
急ごうと言ったものの渋谷スクランブル交差点は青信号でとてもたくさんの人が横断するので走るなんてことはまずできないが、最短経路を突き進むことはできよう。バス停までの最短経路は右斜め前だ。文香をリードする形で右斜めに進んでいく。ほどなく駅側からやってきた大群と混ざりあう、こうなるとあまりスピードがでない。


 おいおい、なんだあのスーツ着ているおっさん。こっち向かって歩いてくるぞ。ちゃんとまっすぐ歩けよ。なんで斜めに歩いてくるんだよ。しかもキョロキョロしてて気持ち悪いな。邪魔なんだよ、邪魔。通り道の邪魔。よりによって同じように斜めに歩くやつがいて進行を邪魔されるとはついていない。こんな若者の街でいかにも典型的なビジネスマンですって恰好していてただでさえ浮いているんだから、横断歩道くらいおとなしく控えめに歩けよ。こっちは急いでいるんだよ。


 スクランブル交差点を渡り切り、あとは歩道をバス停に向かって急ぐだけだ。気持ち小走りで急ぐ。バス停が視界に入って来た。
「あー、まだバス停まっているよ。」とやや息を切らしながら文香は言う。おーよ、俺も確認してるよ。俺たちは絶対にあのバスに乗り遅れるわけにはいかない。

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