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【第10回】通訳のテクニックいろいろ

こんにちは。第10回の講義「通訳のテクニックいろいろ」で学んだことを、受講生Mが振り返りたいと思います。今回も実践的な内容であり、第1回講義で学んだ通訳の3原則の一つである「メインメッセージをつかむ」ことの重要性に改めて気づきました。

①簡略化

基本的に、通訳者は話者の話す内容について、事前に勉強をしていますが、それでも細部の専門知識で追い付かないという状況になることがあります。そのような場合でももちろんメインメッセージはわかっているので、簡略化を使って処理することができます。

例えば、ブロックチェーンの定義として以下の文章を話者が話した場合、講義では文字を見ながら訳してみましたが、実際にこれを現場で読まれるとプロの通訳者でもついていけません。

ブロックチェーンとは、分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターに、暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法。一定期間の取引データをブロック単位にまとめ、コンピューター同士で検証し合いながら正しい記録をチェーン(鎖)のようにつないで蓄積する仕組みであることから、ブロックチェーンと呼ばれる。

この場合、ブロックチェーンが何か、ということがわかっていれば、下のようにまとめることができます。

ブロックチェーンとは、暗号化された取引データのブロックが鎖のようにつながれたもので、その正確性はネットワーク内のコンピューター同士の検証で担保されます。

②一般化(相互化)

文脈によっては一括りにして表現した方がわかりやすく、時間が節約できる場合があります。
例えば、下の例では、冷蔵庫、冷蔵庫などがそれぞれ大きな価値を持たないので、「電化製品」とまとめて表現できます。

「今どきの人々は、冷蔵庫、冷凍庫、皿洗い機、炊飯器、掃除機を持つことは当たり前だと思っている」
⇒「人々は今日、すべての電化製品を持つことを当たり前だと思っている」

ただ、そのイベントや会議において何が情報価値として高いのかは、その場によって変わるので、冷蔵庫が重要である場合は、まとめない方が良いこともあります。

③要約と総括

講義で何度も学んでいることですが、通訳者の仕事は言葉を伝えることではなく、メッセージを伝えることです。
下の例のように、話が長すぎて元の質問がわからなくなった場合や、話が長すぎたり、情報が多すぎると、聴衆は理解が追い付かないことがあります。そのように判断した際は、思い切って要約してみることが有効です。話者が言ってなくても、まとめてわかりやすく言葉を付け足すこともあります。それでは、この例文の話者は、結局何が言いたいのか、考えてみましょう。

The question is whether a legal instrument, and by legal, I mean of course also something that could be administrative or just a rule, but anyway something which we would consider legal, although you’d have to think about how to enforce it afterwards, and who would enforce it? That is up to industry to exercise voluntary restraint, which is what they want, although they want it, perhaps, precisely because they don’t want to policed, but then again, we must bear in mind what our international competitors are doing in this field. I don’t know what you think. I’d interested in hearing your ideas.

関根先生の逐次訳を聞いても、何が言いたいのかを一瞬でつかむのは難しかったのですが、プロの通訳者であれば次のように理解できてなければいけません。

「法で規制するか、自主規制を求めるか、どちらを好みますか?」

やはり、ここでもメインメッセージがわかってないと要約はできません。細かいところの訳や表現が気になって、いつも話の流れ・メインメッセージをつかむのが苦手な私は、まずメインメッセージをつかむことが大事であるということを改めて思いました。

④説明

TGV (train à grande vitesse = high speed train)
「TGVとは、フランスのスピードの速い列車」

例として、上のように、「TGV」と初めて出てくるときは説明を付け加えます。ただ、ここでも、聴衆の理解度に応じて、聞き手が明らかにわかっている場合は説明をつけることはせず、略語だけで話を進めます。
やはり通訳者は単に言葉を変換しているだけではありません。説明を付け加えたり、要約したりと、異なる文化を持つ二者の間に立つ存在として、もはや黒子ではなく、交通整理をして積極的にコミュニケーションに関わるという、通訳は言葉を訳す以上に奥深いものであると感じました。

⑤予想

プロの通訳者は、①論理構造と②全体の趣旨から予想をします。その会議の趣旨や話者の立場、そしてButなどの論理記号を頼りに、話の展開を高い確実性を持って予測することができます。論理的に流れをつかむことで、先読みをすることができます。
例えば、フランス代表が感謝の言葉を述べたあとに日本代表が「我々も・・・」と発言した場合、日本代表も同じようなことを述べると予測できるので、日→英であれば先に動詞「thank」を出すことができ表現も美しくなります。
まずFIFOで土台をつくることが大事ですが、そこから表現力の美しさを磨こうとするとき、積極的に「予想して出すこと」が大事になります。予測し、それが高い勝率であれば勇気を出してコミットすると、表現の幅が広くなります。同じ情報量の訳出であれば、聞き手はもちろん美しい訳の方を聞きたいと思うので、クライアントからの評価も良くなるでしょう。

まとめ

今回講義で教わったことは、メインメッセージがわかってこそできるものです。私の場合は、まずFIFOで出していくことが課題ですが、今回学んだことを使えるものにするために、リスニングではただ漫然と聞くのではなく、「何を言おうとしているのか」「どういう展開になるのか」ということに注意して聞くようにしようと思いました。予想して聞くことは、日常のコミュニケーションの中でも練習できそうです。

今回の講義の振り返りは以上となります。今週は同通演習最後の発表がありますので、そちらのブログもお楽しみに!最後まで読んでくださりありがとうございました。

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