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【同時通訳演習 第10回 振り返り】通訳者 M&A(松)

こんにちは!
今回は3月7日に行われた同時通訳演習第10回の振り返りです。受講生・Mさんによるプレゼン「Fundamentals of Software Engineering」を、MとA(松)が英語から日本語へ通訳しました。

良かった点

(M) 最も自信を持って取り組めた
もともとITは興味・関心のある分野で、また新卒時代にはネットワークエンジニアだったこともあり、事前準備の段階から内容の理解に苦労することはほとんどありませんでした。そのため、今回の演習は今までで一番リラックスして取り組めました。気持ちに余裕があった分、これまで以上に自分の癖を意識しながら(語尾を伸ばさない、チャンキングを短く)安定した訳出を行うことができた実感がありました。

(M) 付箋を貼ってよかった
意識して取り組めたとは言っても、一朝一夕で癖が直ることはないので、結果的には今回の演習でも語尾が伸びているところや短いチャンクにできていなかったところがありました。これまでの演習でも繰り返しその点を反省し、その度に改善点に挙げていましたが、いざ通訳が始まると集中するあまりそのことが頭からすっぽり抜けてしまう傾向がありました。そのため、今回の演習では「語尾を伸ばさない!チャンクを短く!」と書いた付箋をモニターに貼り付け、通訳中に目に付くようにしていました。それが功を奏したのか、実際に「よし、今の文章は自分の意思で明確に短いチャンクに区切って訳出できたぞ」と思う箇所がありました。無意識は意識でもって上書きしていく必要があると前回の振り返りで書きましたが、今回の付箋作戦はそれを実践するリマインダーとして上手く機能したと思います。

(A) 前回よりは少し言葉を出せた
今回も、前回よりは少し言葉を出せたというくらいで、自分で良かったと思えるところがあまりありません。今回最後の演習ということで、これまでの課題であった「できる限り間を開けずに話す」ことを徹底的に意識し、できる限りの準備をしました。今回のテーマは、私の一番苦手で基礎知識のないものでした。ただ、パソコンなどのIT用語は、ほとんどの言葉がそのままカタカナでよいということが、せめてもの救いでした。スライドを入手してから、用語を調べ、基礎的な内容が解説されている動画をたくさん聞き、口に出して練習しました。そして、スライドを見ながら一人プレゼンもしました。できるだけの準備をして臨んだので、上手くできなかったのは準備不足ではなく、FIFO、チャンキングの練習不足だとわかりました。

悪かった点

(M) 言葉遣いに一貫性が無かった
今回初めて先生からご指摘を受けたのが、訳出における言葉遣いに一貫性が見られなかったというものでした。具体的には、ある部分では敬語を使って丁寧な口調で訳しているのに、別の部分ではカジュアルになってしまっている、というものでした。以下の改善点の項目でも挙げていますが、今回のテーマはもともとある程度知識があり自信があったテーマなだけに、無意識のうちに表現にこだわりすぎてしまったのかもしれません。カジュアルな口調か丁寧な口調のどちらかに統一できれば良かったと反省していたので、先生の「同時通訳ではそこまで敬語表現にこだわりすぎないでも良い。」というコメントには少し驚かされました。しかし、「そこにこだわるぐらいなら情報を取りこぼさずしっかり訳出することに注力した方が良い」というコメントにうなずかされました。

(M) まだ語尾が伸びている
今回の演習では、今まで以上に自分の癖に注意しながら訳出できたので私自身の中では大きな進歩に繋がったのではないかと思います。しかし、録音した音声を改めて聞き直してみると、まだまだ語尾が伸びている訳出が多かったことに気づきました。心の中では意識していたつもりでも、今回の演習を聴衆として聞いていた方からすると明確な変化のない訳出だったかもしれません。とはいえ、上で挙げたように今まで以上にその癖を意識しながら訳出できていたので、語尾を伸ばしてしまいそうなところでその癖を断ち切ろうという意識が働き、言い切って訳出していたところもありました。今後のこの意識が働く回数を増やしていきたいです。

(A) どのセンテンスも不完全だった
とにかく間を空けないように言葉を出すことを意識しすぎて、結局どのセンテンスも中途半端になってしまいました。やっぱりFIFOとチャンキングが、まだまだ全然できてない。頭ではわかっているのに、自分の口からは出てこない。先生からのアドバイスは「成功体験をつくること」。たしかに、毎回できない自分に自信がなく、堂々とした声で話そうとしても、声に自信のなさが出てしまうのかもしれません。自分の録音した音声を聞くのはつらい作業ですが、もっと向き合わないといけないのかもしれません。まだ、聞きたくないと、じっくり聞くのは逃げていました。できなかったところを一つ一つ検証して、もう一度訳出してみる、という作業をこれからやっていこうと思います。並行して、もっと簡単な素材でも同通練習をして、「できる」という感覚を増やしていこうと思います。

改善点

(M) 短くチャンキングする
スピーカーの話す内容や分野にどれだけ精通しているかによって訳出の品質が大きく左右されることは明らかですが、心に余裕を持って訳出ができている時でも、そうでない時でもチャンキングを客観的に把握できるようにしたいです。

今日の先生のコメントでは「短いチャンクで細切れにして処理していく方法はリスク回避として良い方法だが、一方で表現力という面では不自然に聞こえてしまうため、より良い表現で訳出するためにはある程度長いチャンクで処理することも大事である。」というお話がありました。この点は、私自身これまでの経験から感じていたことなので頷きながら伺っていました。そして先生からは「短いチャンクで訳さないようにもがいていると感じられる場面があった」という指摘を受けました。また「長いチャンクで訳すことでうまくいっている場面もあるものの、短く区切って一度文章を完結させた方が楽な場面で無理に長い文章にしようとして失敗していたところもあった」というご指摘もありました。実際に音声を聞き返してみると、スピーカーの複数のセンテンスを1つにまとめることに腐心するあまり長めの間が生まれている場面がありました。例えば、

「フロントエンド開発とバックエンド開発の違いというのは、例えば・・・(4秒ほどの間)レストランに例えると・・・例えばフロントエンド開発としては〜」

という部分がありました。この訳出の元になった原発言は、実際には以下の通りでした。

"An easy way to think of front-end development and back-end development is to think about a restaurant."
"The front-end of the restaurant would be...(以下省略)"

この場合、最初の発言を「フロントエンド開発とバックエンド開発の違いをレストランに例えてみましょう。」と処理した方が聞き手にとってわかりやすかったですし、私自身にとっても、次の文章を一から新しく構築できるので楽になっていたと思います。私の場合は母語である日本語への訳出となると表現にこだわりすぎるきらいがあるようで、今回の指摘を受け、以前の授業で先生がおっしゃっていた"Don't try to be too pretty(カッコつけようとしすぎるな)"という言葉を思い出しました。

ただし、これは100%悪い傾向というわけではなく、通訳者であれば皆が通る「表現力とチャンキングのバランス調整」に苦労する段階にあるのだろう、というコメントをいただきました。スピーカーの内容が正しく理解できていて、かつ、適切に処理できているような余裕のある状況では、長めにチャンキングして美しい表現での訳出を目指し、一方で難しい分野や訳出に自信がないような苦しい状況では、短めにチャンキングをしてリスクを抑えながら訳出していけるようになることを心がけたいです。つまり、その場の状況に応じて意識的にチャンキングの幅を調整できるようすること。これを身につけるために、多少不自然な表現になってもしばらくは細切れに訳出していくことを実践したいと思います。

(A) FIFOとチャンキングを意識して練習を続ける
私は今回の演習が最後の同通演習でした。この演習を通して、毎回自分のパフォーマンスと向き合うことで、改善すべきことを洗い出し、それをもとに勉強方法を修正していくことができました。これまで漠然としか見えていなかった自分の弱点が、はっきりわかり、どのように矯正すればよいかをじっくり考えることができました。6回の演習では、残念ながら、あまり成長が感じられませんでしたが、ここでなければ得られなかった気づきをたくさん得ることができました。関根先生からの講評だけでなく皆のパフォーマンスからもたくさん刺激を受けました。これから、この演習の素材を使って練習を続けていきたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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