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麻雀プロのためのAI牌譜解析ツール 極

大神 卓也(おおがみ たくや)
奈良 亮耶(なら りょうや)
天野 克敏(あまの かつとし)
今宿 祐希(いまじゅく ゆうき)

 プロ雀士が研究や対局,また,牌譜の解説に活用し得る麻雀AIとツール 極(ごく)を開発したプロジェクトである.

 プロ雀士の強さには至らなかったものの,ネット麻雀 天鳳にて七段,つまりプレイヤの上位1.2%という強さに到達した(図-1).極は,従来の麻雀AIとは異なり,1位の獲得が重要なプロ麻雀向けの判断と,4位回避が重要なネット麻雀向けの両方を行うことができる(図-2).ツールとしては,牌譜解析ツールを開発し,期間限定で一般公開した.有用なツールとするため,手牌推測にも取り組み,従来のシステムより高い精度を達成した.手牌推測の良さを評価する新指標もいくつか提案した.

図-1 天鳳7段を達成
図-2 ネット麻雀とプロ麻雀への対応

 これらの取り組みを,プロジェクト初期より,プロ雀士や強豪プレイヤからの協力を得て進めた.たとえば,手牌推測の結果にコメントをいただいたことが新指標に結びつき,1月にはプロ雀士との公開対局を実現した.

 麻雀AI Suphxという先達に習えるところがあったとはいえ,1年もかからず人間の上級者レベルに到達し,ネット麻雀への参戦を果たし,上位1.2%という天鳳七段に到達した.それでも,強い麻雀AIの開発はあくまでもプロジェクトの基礎であり,大目標はプロによる麻雀AIの活用である.その大目標に向け,牌譜解析ツールを開発した.手牌推測も,従来になかったレベル,つまりは世界最高の精度を達成した(図-3).

図-3 手牌推測

 こうした華々しい成果の裏には,機械学習に使う麻雀シミュレータの開発,手法やシステムの工夫による強化学習の100倍以上の高速化といった,目立たないが欠かせない成果も数多くあった.

 4人いてこそ到達し得た成果ではあるが,4人いればできたかというと,そうではない.4人それぞれが,互いを補いつつ高度な仕事を行い,そうした4人の成果がしっかりと噛み合ってこその到達点である.4人の誰を欠いても,この到達点はなかった.大神さんは特に,天野さんと同様,教師あり学習,順位点対応に取り組んだ.加えて,手牌推測は彼1人の仕事である.奈良さんは特に,対局解析Webアプリケーションに取り組んだ.加えて,ネット麻雀自動対戦は奈良さん1人の仕事である.また,開発環境・サイクルを整備して4人でのチーム開発を支えたのも奈良さんである.天野さんは特に,大神さんと同様,教師あり学習,順位点対応に取り組んだ.加えて,強化学習,および,雀風の模倣は天野さん1人の仕事である.今宿さんは,教師あり学習のデータ作成に共同で取り組んだほか,特に,対局解析Webアプリケーションに取り組んだ.深層学習の知識や開発経験がまだ薄かった状況から,類似研究の先端に迫り,一部先端を追い抜くところまで至った4人の成長も著しかった.

(担当PM・執筆:首藤 一幸)

[統括PM追記] 首藤PMはプロ最高レベルに到達しなかったことを悔しがっておられるが,着手選択(麻雀の場合は捨て牌の選択)のベースとして相手の手牌推測をきちんと行っているので,深層学習AIの説明可能性の問題をかなり解決している.これは従来の麻雀AIでは成し遂げられなかったことだと思う.4人ともかなりの麻雀好きとのことだが,もうこの極システムにはまったく勝てないという話を成果報告会で聞いた.開発者を超えるAIがどんどんできる時代になったものだと,私のようなロートルはただただ感銘するばかりである.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)

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