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見向きもされない領域へ目を向ける


崔 明根(筑波大学システム情報系)

[受賞論文]
Kuiper Belt: VRにおける自然ではない視線角度を用いた視線入力手法の提案
崔 明根,坂本大介,小野哲雄(北海道大学)
情報処理学会論文誌 Vol.64, No.2, pp.400-416 (2023)
https://doi.org/10.20729/00224252

 このたびは論文賞にご選出いただき,誠にありがとうございます.選考委員会の皆様を始め,学会関係者の皆様に心より感謝申し上げます.そして,本研究の共著者であり指導教員でもある坂本大介准教授と小野教授にも深く感謝いたします.

 視線のみを用いた入力手法は,ユーザのターゲット注視が意図したものか判別できず,誤入力が生じるという問題(Midas Touch問題)を抱えています.本研究ではMidas Touchを低減することを目的として,視線と頭部方向がなす角度(視線角度)が極端に大きな領域を活用する手法を提案しました.人間の目の水平方向の可動範囲は平均で約45度ですが,人間の視線は基本的に視線角度25度以内に分布し,意図しない限り25度を超える視線角度に目が固定されることはほぼありません.そのため,視線角度25度から45度の領域(図-1)でのみ視線入力を行う場合,ターゲット選択の意図を持った視線のみが検出されるため,Midas Touchが生じにくいと考えました.

図-1 当該領域(Kuiper Belt)のイメージ

 本研究の元々のアイデアは「極端に上を見ることを入力とする視線入力手法の提案」です.修士課程1年次の単なる思いつきでしたが,意外と似た研究が見当たらなかったため,この研究テーマをさらに掘り下げることにしました.上だけではなく,すべての方向へ極端に目を向けることを入力とした方がよいのではないか,また,「極端に目を向ける」の極端をより厳密に定義した方が,研究らしいのではないか,と考えました.このような過程で「視線角度25度から45度で視線入力を行う手法の提案」という研究テーマに至りました.最終的な研究テーマは非常に汎用的な内容で,学生が扱うには難易度の高い研究になりました.そのため,本研究は国際学会に2度不採択となり,3度目の投稿でようやく採択となりました.そして,同時期に本会論文誌に幸運にも採択されました.

 本研究は2020年に着手し始めた研究であり,2023年に本会論文誌に採択されたため,本研究と私の付き合いはおよそ4年になります.この論文が論文賞を受賞したことは,費やした長い時間が報われるようで,非常に嬉しく感じています.この研究テーマを選んだことで苦労も多かったですが,そのおかげで1つの研究に対して非常に長い時間向き合う経験を得ることができました.今後も研究に邁進し,この賞に恥じない研究生活を送れるよう,日々努力して参ります.

(2024年5月14日受付)
(2024年7月16日note公開)

崔 明根(正会員)
2024年北海道大学大学院情報科学院博士後期課程修了.博士(情報科学).現在,筑波大学情報システム系で日本学術振興会特別研究員PD.視線入力手法のユーザビリティに関する研究に従事.