見出し画像

ギークマム ─ 21世紀のママと家族のための実験,工作,冒険アイデア

水野加寿代(ヤフー(株))

本画像

Natania Barron, Kathy Ceceri, Corrina Lawson, Jenny Wiliams 著
堀越英美,星野靖子 訳
オライリー・ジャパン(2013),280p.,2,200 円+ 税, ISBN:978-4-87311-636-5

※本記事のPDFは情報処理学会電子図書館に掲載されています。(http://id.nii.ac.jp/1001/00189674/

ギークマム

 「ギーク」という言葉をご存知でしょうか? ギークとは,特定の分野(特にコンピュータ技術やサブカルチャー)に対して熱中し,卓越した知識を持っている人を指す英語の俗語です.日本ではコンピュータ系の技術オタクという意味合いで使われることが多く,読者の皆様のうち少なからずの方がギークに当てはまるかもしれません.本書は,ギークかつ母親である4 人の「ギークマム」によってまとめられた,親子で楽しむコラム集です.私自身も学生時代から現在までコンピュータ技術に浸かっているギークマムであり,自分の好きなことの面白さを3 歳の娘にも教えたい(むしろ自分が楽しみたい)と日々過ごしているところから本書に出会いました.ギークな話題を子供と楽しむときならではの難しさと面白さを共有したく,このコーナーで紹介するに至りました.

 本書は,ブログサイトGeekMom ☆1 のコンテンツが元となっており,ブログ開設メンバ4 人の女性によって,親子アクティビティのアイディア集としてまとめられています.子供の対象年齢は3 歳から12 歳としていますが,アイディアの多くは小学生向けのものです.本書は著者らのギーク分野ごとに分けた6 つの章で以下のように構成されています.

 ・第1 章 コミック・ヒーロー編
 ・第2 章 知育・家庭教育編
 ・第3 章 IT・ゲーム編
 ・第4 章 科学・実験編
 ・第5 章 料理編
 ・第6 章 手芸・工芸編

ギークの主戦場である情報処理技術・工学にとどまらず,自然科学や人文科学系にも踏み入れた内容となっており,アイディア集の間にある著者らのコラムではギークらしい情熱と愛情を感じとることができます.

我が子の興味をひくには

 「母親が好きなものに,子供が興味を持つ」状態にするには何をすればよいでしょうか? このようなお題に対しては,よく「ご両親が楽しそうにしていれば子供も自然と興味を持ちますよ」と言われることが多いです.しかし実際には,子供は月齢・年齢・発達によって興味の持ち方が大きく変化します.そのため,親側の情報の選び方・見せ方・声のかけ方が子供の反応の良し悪しに大きく影響し,単純に楽しそうにするだけでは必ずしも興味をうまく引くことができません.本書でも,我が子ができること,できる準備が整っていることが何であるかを親がよく把握することが大事であると述べられています.本書のアイディアの多くは,完全に子供目線に合わせるわけでもなく,逆に大人のギーク状態に付き合わせるわけでもなく,子供と大人の好奇心を上手に掛け合わせる工夫が随所に描かれていますので,興味がありましたらぜひ本書を読んでみてください.

 たとえば,本書の「子供のための簡単WEB サイト作成入門」というアクティビティアイディアは,対象年齢が「文字が読める子なら誰でも挑戦できる」と幅広く設定されています.そのプロセスは,1)何をWeb サイトで表現したいかを企画する,2)WordPress ☆2 などのブログ作成ソフトを利用して,サイトデザインを楽しむ.3)何もない状態からコードを書いてカスタマイズを楽しむ,とあります.このような段階を踏むことで,子供の「自分でサイトを作ってほかの人に見せたい」という好奇心に簡単に答える部分からはじめ,徐々にカスタマイズする楽しみを覚えることができます.Web サイト制作としてはごく自然なプロセスです.ただ,Web サイト制作を自分のギーク対象に置き換えて考えたとき,同じようなプロセスを考えるのが,子供と一緒に楽しむことの工夫のしどころと考えます.

実際にやってみる

 本書を参考に,私(35 歳:HCI /画像処理/ゲームギーク)が好きなスーパーマリオの世界に娘(3 歳:プリンセスギーク)を巻き込んでみました.私は最新のゲームタイトルを一緒にプレイして楽しみたいのですが,娘が操作性の煩雑さから投げ出してしまうことは目に見えています.そこで,本書のアプローチに沿って,我が子がすでにできる操作から段階を踏んでみました.

 最初は,ディジタルネイティブ世代らしくYou-Tube のゲームプレイ画面で予習.娘はここでピーチ姫を見つけてプリンセスギークぶりを発揮し,マリオワールドへ一気に引き込まれました.次に,親指タップだけでキャラクタを操作できるゲーム(Super Mario Run)をプレイ.ピコピコと楽しむ3歳児の後ろで私はインタフェースデザインの素晴らしさを語りたい口を抑えながら一緒に楽しみました.

 2 つ目は,右/左ボタンとA ボタンで基本操作が完結するレーシングゲーム(マリオカート)をプレイ.だんだんとコース内を走れるようになり娘は上達する達成感を得ながら楽しく遊んでいました.最後に最新のゲームタイトル(スーパーマリオオデッセイ)に挑戦.このゲームの操作には,ボタン6 個,ジョイスティック2 個という高度なインタフェースを必要とします.普段はすぐに「できない.お母さんやってー」となる娘ですが,マリオやゲーム操作への好奇心が十分にあったため,多少操作が難しくても試行錯誤しながら楽しんでいます.

 なお,娘が一番楽しんでいるのは,ゲームのクリアやバトルではなく,ただフィールドを歩いて世界を旅することです.これは,本書に出てくるオンラインゲームに初めて触れた3 歳児とまったく同じ楽しみ方であり,面白い発見でした.

ギーク状態を共に楽しむ

 皆様にもギークな話題はありますでしょうか?また,ギーク状態になって熱く説明しすぎて周りに上手く楽しさを理解してもらえなかった経験はありますでしょうか? 本書は,そんな話題に対して子供へのほどよい導入・一緒に楽しむ手立てを考える際の良いアイディア集であり,自分の好きなもの・専門分野について子供たちと楽しみたいと思った方におすすめの1 冊です(追記:男性の皆様にはGeekDad という父親向けサイトもあるので,どうぞご覧ください).

☆1 https://geekmom.com/
☆2 https://ja.wordpress.org/

(「情報処理」2018年7月号掲載)

■水野加寿代(正会員)
 2007 年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程,2017 年同大博士課程修了.博士(情報理工学).日本SGI(株),(株)スクウェア・エニックスを経て2017 年より現職.動画像処理技術の開発に従事.

連載「ビブリオ・トーク」が1冊の書籍になった『IT研究者のひらめき本棚 ビブリオ・トーク:私のオススメ』も発売中です(2017年2月号まで掲載)。https://www.kindaikagaku.co.jp/science/kd0548.htm