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選奨にあたって

田島 玲
(業績賞選定委員会委員長/LINEヤフー(株))

 本会の業績賞は産業界における顕著な業績を顕彰するために創設され,情報技術に関する新しい発明,新しい機器や方式の開発・改良,あるいは事業化プロジェクト推進において,産業界で顕著な業績を上げられた貢献者の方々に贈呈しております.本趣旨に従い,技術開発と産業貢献に着目し,選考委員の投票による1次選考後,選考委員会審議による厳正なる2次選考を行い,次に示す3件を選奨することといたしました.

 1件目は関西大学,法政大学,クロスセンシング(株)のチームによる「スポーツ情報処理のためのセンシングデバイス・システムの開発実践」です.当該チームは,フィールドスポーツ全般を対象に選手の位置,姿勢,バイタル情報をリアルタイムに収集・解析できるシステムを開発しました.一人ひとりのパフォーマンスデータをリアルタイムで可視化することが可能となり,プロを含む多くのチームにて試合中の状態・状況把握やそれに基づく対応,日常のコンディショニング把握に活用されています.また,スポーツ業界にスポーツを科学する方策とその環境を提供するだけでなく,建設現場での活用による安心・安全への貢献も期待されます.

 2件目は(株)NTTドコモ,日本電信電話(株)のチームによる「都市交通を支えるシェアリングオペレーション最適化システムの実用化」です.当該チームは,シェアサイクルサービスにおいて再配置とバッテリー交換作業を同時最適化するシステムを実用化しました.リアルタイムな情報収集と統計データ,需要予測,シミュレーションをもとに最適な再配置計画を提示します.シェアサイクルは環境負荷が少なくサステナブルな社会実現のために重要な移動手段ですでに多数の都市に導入されていますが,自転車溢れ・不足やバッテリー切れに対応する運営コスト負担の大きさが課題となっておりました.今後他のシェアリングサービスへの展開も期待されます.

 3件目は日本IBM(株)のチームによる「AIを活用した材料開発ソリューションの産業応用展開」です.当該チームは高度な性質を持つ新材料(機能性ポリマー・半導体・医薬品など)の開発に向けた,分子構造設計の生成AIモデルを開発しました.10社以上の材料・化学メーカー等に導入し分子構造設計工数を大幅に削減しただけでなく,その技術をオープンソースソフトウェアとして展開し40,000件以上のダウンロードを達成するなど,広く業界に貢献しました.さらに,大規模基盤モデルとして拡張し,マルチモーダルな特徴表現(分子計上,物性値表,スペクトルなど)をカバーし複数タスクに対応するだけでなく,小規模な学習データでの追加学習によるユーザ固有モデルの構築も可能としています.

 以上の3件は,新たな領域への科学的アプローチの導入,環境負荷の軽減といった重要な社会課題に貢献しており,業績賞に相応しい成果といえます.受賞者の方々にお祝い申し上げます.

(2024年4月22日受付)
(2024年7月16日note公開)