見出し画像

スマートフォンで完結するバスの運行情報提供システム FindYourBus

酒井 俊 (さかい しゅん)

 酒井さんは,3歳から米国コネチカット州に在住するクリエータであり,彼自身のスクールバス通学での体験が,本プロジェクトのきっかけである.公共交通機関が発達し,また通学環境が安全である日本においては馴染みがないかもしれないが,米国では,安全確保のためにもほとんどの生徒が学校の用意するスクールバスを利用して通学している.生徒の数は2,600万人,48万台のバスという規模である.運行も正確でなく本数も限られているため,バスの運行状況が分からないことによって,乗り遅れて遅刻になってしまったり,長時間安全でない場所で待つことになったり,親のバス停への迎えが間に合わず学校に連れ戻されたりと,さまざまな不便が生じてしまう.

画像1

左:図-1 バス運行情報  右:図-2 現在値と到着予想時間

 子供を一定時間以上独りにしてしまうことが,危険と見なされるだけでなく,親の育児放棄と見なされてしまうような社会においては,学校・生徒・親それぞれが安心してスクールバスを利用できることは社会的に意義のあるサービスなのである.

 背景説明が長くなってしまったが,酒井さんの開発したサービス FindYourBus は,スマホだけで,バスの運行管理者,運転手,生徒,親がバスの運行情報を把握でき利用者間での双方向連絡ができるシステムである.

 バスにGPS搭載の専用機器を搭載させるようなシステムに比べて,スマホさえあれば実現できるサービスであるところが特徴である.

 運行管理者は,バスの運行ルートを簡単に設定でき,利用者は運行状況だけでなく到着予測時間までアプリ内で確認できる.正確な運行の日本国内のバスとは異なり,スクールバスならではの「2分だけ待って!」というチャット機能はとても現実的な機能である.

 コロナ禍で多くの学校がオンライン授業となり,当初計画していたスクールバスを対象としたトライアルが進められない中,茨城県の野菜配達販売サービスや,コネチカット州での生活困窮者向け生活用品配達サービスでの実証実験を実施できたことは,国際的なバックグラウンドを持つ酒井さんならではの,素晴らしい成果である.

画像2

図-3  利用者とのチャット画面

 未踏採択後に,酒井さんは本プロジェクトに集中するため,進学予定であるデューク大学で1年間のGap Year を取得し来日している.日本滞在中は,HLABが主催する生活をともにしながら学び合う,レジデンシャルカレッジの取り組みにも参画し,米国での修学経験や未踏での取り組みを共有している.未踏終了後はデューク大学で本格的にComputer Science を学ぶ予定であるが,未踏での経験を活かし,米国でもFindYourBusを展開し,さらには国際的に活躍する未踏クリエータへと成長してもらいたいものである.(藤井彰人PM担当)

[関連URL] http://findyourbus-app.com

[統括PM追記] 3歳から米国で生活というと,日本語はほぼだめという感覚があるが,ご両親の教育方針がしっかりしていたせいか,酒井君は完璧なバイリンガル.それでも当初はあれっというところがあったが,未踏期間中にシェアハウスで社会的意義のある活動をして磨きがかかった.彼は未踏育ちの,FindYourBusに限らず,本物の国際貢献ができる人材に育つ予感がする.なんといっても素直な性格が素晴らしい.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)