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寝ながらの使用に最適化したVRシステムHalfDive

迫田 大翔(さこだ やまと)
浅野 啓(あさの けい)

 迫田くんと浅野くんは寝ながらに最適化した完全据え置き型のVR システムを開発することで,人が布団の中に居ながらにして学校にいるのと同等の体験,職場にいるのと同等の生産をできるようにすることに取り組んだ.寝ながらの使用に最適化し,据え置き型であるからこその長所を最大限に活かして,これまで小型化軽量化のトレードオフの中で切り捨てられてきた多くの機能やインタフェースを実装することで,新たな体験を生み出すことを目指した(図-1).

図-1 開発したシステムを利用してSteamVRコンテンツを使用している様子

 ハードウェアの設計に関しては,何度もプロトタイプを作り直しながら検討を重ね, VR界隈へのヒアリングだけでなく,寝具についてのヒアリングも行い,寝ながら長時間使用しやすいハードウェアに仕上がった.また,据え置き型にはしたものの,図-2のように非常にコンパクトで扱いやすい,持ち運びも可能な大きさとなり,スタイリッシュさを感じるプロダクトとして完成した.光学系の設計では,立体視映像を表示するためのディスプレイとそれを装着者の目に届けるレンズから構成されているが,さまざまな工夫を施し,大きい視野角を実現した.

図-2 横になった状態で快適に使用することのできるVRヘッドマウントディスプレイHalfDive

 ソフトウェアに関しては,PC用VRプラットフォームであるSteamVRを経由することで既存のSteamVRコンテンツを本システムで稼働できるよう仕上げた.既存のコンテンツは立ちながら,もしくは座りながら使うことを前提とされているため,これらを寝ながら使用させるためには,座標軸の設計やコントローラの位置取得方法など,さまざまな問題が立ちはだかったが,これらについて検討を重ね,問題を解決した.

 2人の役割分担についても紹介したい.迫田くんは主に,ハードウェアの開発・ファームウェアの開発・筐体デザインを担当した.立体視映像を表示するディスプレイと装着者の目に届けるためのレンズなどの光学系の物理的特性の理解と設計,アクチュエータやセンサを自作し,低レイヤについての理解を更に深めて,持ち前の実装力を大いに活かして開発を進めていった.浅野くんは主に,ドライバの開発・GUI アプリケーションの開発・コントローラおよびトラッカーとの通信部分の開発を担当した.参考にできるドキュメントがほとんど存在しない中,ドライバを開発し,OpenVR APIと連携させたり,レンズのディストーションの機能を開発したりするなど,本システムのキモとなる実装を多く担当した.非常に困難なことにも立ち向かい,これまでと異なる分野のものでも果敢に取り組み開発してきた.「主に」と書いたのは2人がそれぞれ完全に独立で開発を進めてきたわけではなく,お互いがお互いのフィールドを補いあっていたからである.このプロジェクトが成功につながった強さの秘訣はここにあるとも思う.

 未踏期間中にテレビ取材を始め多くのメディアに取り上げていただき,本人たちにとっても期待と不安の中進んできたが,自分たちが思い描いた「寝ながら何がしたいか」「どういったユーザにどのように使ってもらいたいか」といった世界観を大事にして開発方針を随時話し合ってきたことが成果につながっている.

 未踏期間終了後も寝ながらの使用に適したインタフェースが存在しない問題を解決するために,触覚フィードバック機能付きグローブ型コントローラを開発中である.我々が寝ながらVRの中で仕事や会議をする日も近いかもしれない.(五十嵐悠紀PM担当)

[関連URL]
https://diver-x.jp/

[統括PM追記] 寝ながらだと,VR酔いしにくいとか,足までコントローラに使えるとか,面白い発見がいっぱいあった.五十嵐PMの記述にある通り,2人の共同作業がとてもうまく進んだようだ.しかも,浅野君はプロジェクト期間中ニューヨーク州のコロンビア大学に在籍していたので,まるで正反対の時差の中での共同作業だった.コロナでリモート慣れが進んだとはいえ,やはりすごいことだ.
 HalfDiveは開発期間中に世界中から注目を集めたが,すでに会社を設立している迫田君は,技術の足元をしっかり見直すことで,拙速を避ける決断をした.いつも沈着冷静,若い人にはなかなかできない決断だと思う.そういえば何か質問をすると,ほとんど「はい,それについてはもう考えてあったのですが……」という返事.本当によく考える人だ.

(2022年6月30日受付)
(2022年8月15日note公開)